タバスコキメラミーム32「ガリレイ変換とローレンツ変換の差異」
T.C.Meam 32 as “The difference of Galilean transformations and Lorentz transformations”
黒月樹人 (Kinohito Kulotsuki, treeman9621.com)

32「ガリレイ変換とローレンツ変換の差異」

 1. ローレンツ変換のアイディア

ガリレイ変換もローレンツ変換も、基礎となる状況は、ほとんど同じである。静止座標系(x, y, z, t)と、これに対して相対速度vをもって移動する運動座標系(x’, y’, z’, t’)の間の、変換公式を求めている。このとき、移動の方向をx軸に沿わせると、ガリレイ変換の式は、次の(1)となる。これに対して、ローレンツ変換の式は、その次の(2)で示される。

   x’xvt,  y’y,  z’z,  t’t       (1)

   x’β(xvt),  y’y,  z’z,  t’β(tvx/c2),  β1/(1v2/c2)1/2     (2)

複雑な、この(2)式は、最初から、こうと決まっていたわけではなく、次のようなアイディアに対して、特別な条件を満たすという要請によって決められた。ガリレイ変換では、時間は変換されず、距離の次元であるxに対して、速度と時間の積による-vtという、距離の次元をもつ項によって、変換後のx’が決まっていた。このことに対して、ローレンツ変換では、変換後のx’が、xtを変数として決まったように、変換後の時間t’も、xtを変数として決まると考えたのである。

このようなアイディアが生まれたのには、それなりの歴史的背景がある。一つはマイケルソン-モーリーの実験結果が、宇宙で静止しているというエーテルに対する地球の運動を検出できなかったと解釈されたことがある[1]。二つ目は、マクスウェルの電磁方程式に対して、ガリレイ変換では、不変性が保障されないと考えられたことがある[2]。これらは、いずれも間違った解釈であったのだが、実は、現在でも、そのことは認められていない。

マイケルソン-モーリーの実験[3]結果の解釈は、この実験のモデル構築が誤っていたことから生じたものである[4]。これは、エーテル風の影響が、この風の向きだけに作用して、垂直方向には作用しないと考えられたことが間違いの原因である。現代の解析なら、これらはベクトル解析で取り扱うことになり、どのような向きの運動に対しても、ベクトルは平行四辺形の合成則で作用すると判断し、風の向きに鉛直な運動だけが無関係というわけにはいかない。

二つ目の、マクスウェルの電磁方程式に対して、ガリレイ変換では不変性が保障されないという考えも、ただの思い込みによる誤解である。ガリレイ変換の式(1)を見れば明らかなように、時間tは変換後もt’tであり、まったく変わっていない。だから、tによる偏微分の作用素も、t’による偏微分の作用素も、まったく同じものになるはずである。しかし、これが違うとして取り扱われ、この誤解が生じた。

ローレンツ変換が必要とされた原因は、このように、まったく空虚なものであったのであるが、これらのことは、まだ広く認識されておらず、ローレンツ変換は、科学の分野で正当な地位を保っている。

2. ローレンツ変換の導出法

ローレンツ変換は、アインシュタインによっても、特殊相対性理論の基礎として、「運動する物体の電磁力学について」の論文[5]で導かれている。しかし、このときの方法には矛盾が、少なくとも、はっきりとしたもので、二つ含まれており、何の偏見をもたずに、論理的に考えてみれば、明らかに間違っていることが分かる[6]。ポアンカレもしくはローレンツが求めたという、マクスウェルの電磁方程式やダランベルシアンを利用する方法も、実は矛盾を抱えている[7]。これも論理的に正しいものではない。アインシュタインの論文における、日本語訳の補足説明に書かれていたが、球の方程式を利用してローレンツ変換の式を導く方法[8]は、ローレンツ変換の性質を説明しているだけで、証明にはなっていない。これ以外にも、いくつか、他の方法でローレンツ変換を導いている論文[9][10]もあるが、ほとんどは、上記の方法の変形であり、矛盾の在りかを知らずに論じている。

ところで、これらとは、本質的に異なる考え方でローレンツ変換を導こうとしているものが、二つあった。その一つは、静止座標系と運動座標系の中間に、それぞれを左右に離れてゆくものと見る、中間の座標系を想定して解析するものである[11]。これを中間座標系の解法と呼ぼう。二つ目は、フランスのラランが1937に生み出した方法を、同じくフランスのレヴィ=ルブロンが再発見したという方法で、光や電磁波といった物理現象には関係なく、純粋に時空の性質を考慮して公準を想定し、これに基づいて解析するものである[12]。これを、時空公準の解法と呼ぼう。

5. 中間座標系の解法

これは、ロスティスラフ・ポリシチャク(Rostislav Polishchuk) による「ローレンツ変換の導出 (Derivation of the Lorentz Transformations)」で説明されている。全体の半分以上の議論の後で、ようやく、次の式を導いている。ここで、a, b, c は未定係数で、uは運動座標系の速度である。

  y’y,  z’z,  x’axaut,  t’bxct             (3)

次に、ローレンツ変換とローレンツ逆変換によって恒等変換となることを利用して、係数bcを決めている。

  b (1a)(au)                                  (4)

    ca                                             (5)

ここから、中間座標系の解法が始まる。auの関数として決められる。ローレンツ変換は、静止座標系Kに対して、速度uをもつ運動座標系K’を考えて導かれることになる。ここで、これらとは異なる三番目の座標系K”を考える。K’K”の相対速度はvであり、KK”の相対速度はwであると定められている。K”KK’の正確な中間に位置しているとは規定していないようであるが、これらの間に存在していることは説明されている。このような設定のもとで、詳しい過程は略すが、次の式が導かれる。

  av2v2(1av2)= au2u2(1au2)                   (6)

この式を見て、左辺がvのみで、右辺がuのみであることから、これらの式が定数であると考えられ、この定数値がμとおかれる。これは宇宙定数値と名づけられている。

au2u2(1au2) μ                             (7)

 ここから、auが次の(8)のように導かれる。

   au[1(1+u2/μ)]1/2                             (8)

 このあとμ=c2と仮定されるが、この根拠は、はっきりしていない。

 中間座標系の解法の誤り[13]は、宇宙定数値のμの定め方の根拠がはっきりしていないところにあるのではない。この値が現れる前のところにある、(6)について考えてみる。この式が定数であるという判断は、どのような理由によってなされているのであろうか。これは、vuが完全に独立であるという考えによっている。だから、(6)の式が、任意のvに対して、恒等的に成立すると考えられた。しかし、論文の中で、はっきりとは規定されていないが、仮に、K”KK’の、正確な中間にあるとすると、v=-u/2となる。これを(6)に代入すると、次の(9)となる。これは、avauの関係式に過ぎない。

  av2(1av2)= 4au2(1au2)                  (9)

 正確な中間にないとして、dを未定係数として、vduとおいても、類似の関係式が得られるだけである。ここから先に進むには、avauの関係式から、これらのどちらかを決める、他の条件が必要となるが、それは見当たらない。この論文の証明は、ここで止まる。

 6. 時空公準の解法

 ラランの方法を再発見したレヴィ=ルブロンは、まず、ポアンカレが主張した、数学的な群の構造が、物理法則に適用されるべきだと論じている。それから、時空の均一性や空間の等方性などと、この群の構造と、因果律が、公準として設定され、これらを具体的に式で表現してローレンツ変換の式を導こうとしている。このとき、群の構造の一つとしての「一つの演算」に対応する、「ローレンツ変換の合成変換」における式表現において、次のような関係を考えている。ここで、(a) --(v)LT>(b) の記号を、「座標(a)から座標(b)への、パラメータvを用いたローレンツ変換」とする。

   (x, t) --(v1)LT> (x1, t1) --(v2)LT> (x2, t2)                (10)

(x, t)   -----------(V)LT>     (x2, t2)                (11)

 (10)は、変換前の座標を(x,t)とし、v1をパラメータとした一回目のローレンツ変換によって(x1,t1)となり、v2をパラメータとした二回目のローレンツ変換よって(x2,t2)になることを表わしている。これは、(12)(13)として表わせる。(12)(13)に代入して(14a, 14b)を得る。

x1γ(v1)(xv1t),   t1γ(v1)[tμ(v1)x]                 (12)

x2γ(v2)(x1v2t1),   t2γ(v2)[t1μ(v2)x1]                (13)

   x2γ(v1)γ(v2)[1μ(v1) v2][xt(v1v2)/(1μ(v1) v2)]        (14a)

 t2γ(v1)γ(v2)[1v1 μ(v2)][tx(v1v2)/(1v1 μ(v2))]        (14b)

 この合成変換を、(11)の考えで、v1v2の関数としてのVをパラメータとした、(x,t)から(x2,t2)への変換として表現し、(15a, 15b)を得る。

x2γ(V)(xVt)                               (15a)

t2γ(V)[tμ(V)x]                             (15b)

 これらの(14)(15)の式を見比べて、(16)を導く。そして、(16)から(17)を導く。このときのαは未定関数である。(17)を、あらかじめ求めてあった(18)へ代入して、(19)を得る。このとき、平方根の符号として、マイナスは、これまでに求めてある条件に反するので捨てる。また、「速度の加法則」(20)(14a)(15a)から導かれる。

   μ(v1) v2v1 μ(v2)                                (16)

   μ(v) αv                                      (17)

 [γ(v)]2[1vμ(v) λ(v)]=1                       (18)

   γ(v)=(1αv2)1/2                                (19)

   V( v1v2)(1α v1 v2)                        (20)

 このあと、(i) α<0, (ii) α=0, (iii) α>0 の場合分けをして、(i) α<0については、α=-κ2の値を想定して式を構成するが、これは、後の「因果律」の章の理由によって捨てられる。(ii) α=0については、ガリレイ変換の式が導かれる。そして、(iii) α>0 の場合に、αc2と置かれる。この場合にローレンツ変換が導かれる。

 この解法が誤っていること[14]を、ここから説明する。まず、(14)(15)を見比べて、次の関係を抜き出すことができる。

     V (v1v2)[1μ(v1) v2]                (21)

   μ(V)(v1v2)[1v1 μ(v2)]                 (22)

 この(21)(22)に、(16)を適用して、(23)を得る。(17)vVを代入して、(24)を得る。 (23)(24)より、(25)を得る。よって、αc2と定めてローレンツ変換を導くことはできなかった。

   μ(V)V                                   (23)

   μ(V)αV                                  (24)

   α1                                       (25)

  7. 独立な2変数とは?

私は、これらの二つの方法について、いずれもローレンツ変換を生み出していないことを見出した。これらの方法が誤っている部分は、よく似ている。いずれも、式を見比べて、恒等式の解法を適用しているのである。中間座標系の解法では、vuが独立な変数だと考えたのだが、これは明らかに成立していない。一方、時空公準の解法では、ローレンツ変換の前後にかかわらず、xtが独立な変数だと見なされ、上記の手法で、いくつかの式が導かれている。ところが、このような手法を、たどられなかった解析の分岐へと適用すると、α1という値が求められ、明らかにローレンツ変換は成立しない。ところで、マクスウェルの電磁方程式やダランベルシアンを利用する方法においても、x’t’が独立な変数だと見なされて、矛盾を生み出す関係式が生み出されている。このようなことから、ローレンツ変換を導出する方法が、すべて、何らかの矛盾や誤りを含んでしまうということの、本質的な原因が、ここにあるのではないかと考えられる。つまり、ローレンツ変換においては、xtや、変換後のx’t’が独立な変数ではないということである。このことは、まだ仮説として考えるべきであるが、これが正しいとすれば、これらの矛盾や誤りが偶発的なものではなく、必然的な原因があるということになる。

ガリレイ変換の式(1)とローレンツ変換の式(2)において、y座標とz座標については変化が無いので無視することにして、これらを、すこし抽象的に書くと、(26)(27)になる。

   x’F(x, t),   t’t                             (26)

   x’βG(x, t),  t’βH(x, t),  β1/(1v2/c2)1/2     (27)

ガリレイ変換の抽象式(26)では、時間が変化しないので、x’xtの変数をもつと見なすことができて、このとき、xtは独立に変化することができる。しかし、ローレンツ変換の抽象式(27)では、βという係数もあるが、x’xtの変数をもつというだけでなく、t’xtの変数をもつ。この状況は奇妙だ。ローレンツ変換前のxtによってx’が決まるとしよう。しかし、ローレンツ変換は、同時に、xtによって、時間もt’に変えている。それでは、x’を決めるときの時間tは、どの瞬間でt’に変化するのだろうか。逆に、t’を決めるときのxは、どの瞬間にx’へと変化するのだろうか。いずれも変換後だと考えられているようだが、そのような原理か公理がどこかにあるのだろうか。

この問題を要約すると、(27)の関数の中に書かれているxtが独立な2変数なのかどうかということになるだろう。

数学の辞書[15]で「独立変数」を調べると、「方程式yf(x)における、入力の変数x」とある。「独立な2変数」という項目は見当たらない。しかし、統計の用語であるが、「独立事象」については、「2つの事象において、一方の事象の生起が、他方の事象の生起する確率に影響を与えないとき、それらの事象は互いに独立である」とされている。このような考え方を、2つの変数xtに適用してみると、「変数xが変数tの生起に影響を与えない」かつ「変数tが変数xの生起に影響を与えない」ということになろう。

ローレンツ変換においては、xが変化したとき、x’を変えるだけでなく、tの変化を示す式にも含まれているため、tに影響を及ぼして、t’へと変える。同様に、tだけが変化したときも、t’へと変わるだけでなく、xにも影響し、x’へと変化させる。このように見ると、ローレンツ変換においては、xtは独立な2変数と見るわけにはいかない。

これまでのローレンツ変換の式を導出する方法においては、このことが考慮されずに、恒等式の解法が適用されたり、偏微分の公式が適用されたりしてきたのである。そのため、この誤解に基づいて、どこかに矛盾が隠れたはずであるが、それが見つからないで解析が進められたとき、「ローレンツ変換を導出した」と考えられてきたのだろう。ローレンツ変換は、このためのアイディアのところに、既に矛盾がひそんでいたのである。だから、どうやっても、論理的に導出することはできないものであり、まったくの幻にしかすぎない。(2008.12.03)

参照文献

[1] H. A. ローレンツ, マイケルソンの干渉実験, “MICHELSON’S INTERFERENCE EXPERIMENT”, translated from “Versuch riner Theorie der elektrischen und optischen Erscheinungen in bewegten Körpern,” Leiden, 1895, §§ 89-92. 英語への翻訳文は、DOVER EINSTEIN, H.A.LORENTZ, H.WEYL, H.MINKOWSKI, “THE PRINCIPLE OF RELATIVITY”, pp 1-7 にある。黒月樹人による日本語訳は次のURL

http://www.treeman9621.com/Michelson_I_E_by_Lorentz_Japanese.html

[2] 牟田泰三, 岩波講座 現代の物理学2 電磁力学 7章 相対論的不変性 7-1 運動系における電磁力学 b) Galilei 変換

[3] On the Relative Motion of the Earth and the Luminiferous Ether, by ALBERT A. MICHELSON and EDWARD W. MORLEY; Michelson, A. A.; Morley, E. W. (1887). "On the Relative Motion of the Earth and the Luminiferous Ether". American Journal of Science 34 (203): 333–345.

 http://www.aip.org/history/exhibits/gap/PDF/michelson.pdf

[4] 黒月樹人, マイケルソン-モーリー実験の理論モデルは間違っていた http://www.treeman9621.com/Theoretical_model_of_MM_experiment_was_wrong_Japanese.html

[5] Einstein, Albert (1905d), "On the Electrodynamics of Moving Bodies", Annalen der Physik 17: 891–921 .

http://www.fourmilab.ch/etexts/einstein/specrel/specrel.pdf

[6] 黒月樹人, アインシュタインはローレンツ変換を生み出していない

http://www.treeman9621.com/EINSTEIN%20DID%20NOT%20CREATE%20LORENTZ%20TRANSFORMATIONS%20Japanese.html

[7] 黒月樹人, 幽霊変換

[8] EMANの物理学・相対性理論・ローレンツ変換の求め方

http://homepage2.nifty.com/eman/relativity/lorentz.html

[9] Byung Soo Moon, Another Derivation of the Lorentz Transformation, Journal of the Korean Physical Society, Vol. 24, No. 6, December 1991, pp. 506507.

http://icpr.snu.ac.kr/resource/wop.pdf/J01/1991/024/R06/J011991024R060506.pdf

[10] Bernhard Rothenstein, A faster “World fastest derivation of the Lorentz transformation”  http://arxiv.org/ftp/physics/papers/0602/0602153.pdf

[11] Rostialav Polishchuk, Derivation of the Lorentz transformations.

http://arxiv.org/ftp/physics/papers/0110/0110076.pdf

[12] Jean-Marc Lévy-Leblond, One more derivation of the Lorentz transformation, American Journal of Physics Vol. 44, No. 3, March 1976.

[13] 黒月樹人のタバスコキメラミーム27「ローレンツ変換導出の謎」

http://www.treeman9621.com/Tabasco_Chimera_Meam_of_KK_27.html

[14] 黒月樹人, レヴィ=ルブロンはローレンツ変換を生み出していない

http://www.treeman9621.com/LEVY-LEBLOND%20DID%20NOT%20CREATE%20LORENTZ%20TRANSFORMATIONS%20Japanese.html

[15] マグロウヒル 英和 物理・数学 用語辞典, 森北出版(1989)

[16] 数学公式集 §3 偏微分法 8. 極限, 連続 (1) 2変数関数, 共立出版