タバスコキメラミーム33「フィッツジェラルド-ローレンツ収縮」
T. C. Meam 33 as “FitzGerald-Lorentz contracton”
黒月樹人 (KINOHITO KULOTSUKI, treeman9621.com)

タバスコキメラミーム33「フィッツジェラルド-ローレンツ収縮」

 ジョージ・フランシス・フィッツジェラルド(George Francis FitzGerald)とヘンドリック・アントーン・ローレンツ(Hendrik Antoon Lorentz)による仮説で、運動物体が、その運動方向に、運動速度に応じた割合で収縮すると考えたもの。フィッツジェラルドの式はローレンツのものとは異なっていたが、ローレンツは、この仮説を公表するとき、フィッツジェラルドが同様の考えで論文を公表していたことを知り、参照文献としての確認をとる手紙を出したそうである。

この仮説は、マイケルソン-モーリーの実験(1887)[1]において、静止座標系として扱われていた発光性エーテルに対して、運動座標系として見なされた地球の動きが、ほとんど観測できなかったという結果を説明するために考えだされた[2]。しかし、この実験は、モデル構築において考え違いがあり、モデルで見積もられていた、運動方向と、その垂直方向とに、分かれて進む光における経路差というものは存在しなかった[3]。ここに生じた誤解は、ポアンカレの数々の考察に影響を与え[4]、ひそかにポアンカレの研究を学んでいたと考えられるアインシュタインに波及して[5]、特殊相対性理論へと組み込まれてゆき[6]、歴史的な経過のもとで、現在でも、これらの幻想は、多くの科学者たちの「白日夢」となっている。

この仮説は、必然的に、次の二つの仮説と結びついている。一つ目の仮説は、光速度が不変であるというもの。二つ目の仮説は、運動物体にまつわる時間が、運動速度に応じて、遅くなるというもので、これは、ローレンツ局所時間[7]と呼ばれる。これらの仮説群が結びついているというのは、[速度][長さ][時間]という関係があるからである。光速度が一定であるとき、長さだけが短くなると、この式が成立しない。しかし、時間の値も小さくなれば成立する。これは、時間が遅くなることと同じ意味である。フィツジェラルド-ローレンツ収縮とローレンツ局所時間は、ローレンツ変換の中に取り込まれ、アインシュタインの特殊相対性理論の基礎となっている。アインシュタインは相対性原理と光速度不変の原理を要請してローレンツ変換を導いた[6]。しかし、この方法によらずにローレンツ変換を導く方法が、幾つか存在する。有名なものとしては、マクスウェルの電磁方程式を不変にするという条件を利用するものがある[8]。この方法においては、不自然な仮定を、さらに要請する必要があり、疑問視されている[9]。この方法によく似たものとして、マクスウェルの電磁方程式に関係の深い、波動関数の条件として用いられるダランベルシアンを利用するものがある[10]。これは分かりやすい論法であり、ローレンツ変換の前駆的な式において、未定係数を組み込み、これらの変換式で処理したダランベルシアンが、変換前後で、余分な項を持たないという条件を要請して、これらの未定係数の形状を決めようというものである。このような解法は、決してローレンツ変換が正当なものであることを証明しているわけではなく、ローレンツ変換がダランベルシアンの不変性を満たすことを示しただけである[5]。このような視点で、光速度の不変性やマクスウェルの電磁方程式のような、一部の物理現象に結びついた方法ではなく、空間や時空の性質を公準として想定し、幾何学の公理のように、これらの公準からスタートして、ローレンツ変換を導く方法も考えだされた[11]。しかし、この方法において、たどられなかった解析過程を調べてみると、ローレンツ変換は導かれていない[12]。このように、根拠の薄いローレンツ変換であるが、この中に含まれているフィツジェラルド-ローレンツ収縮とローレンツ局所時間のうち、ローレンツ局所時間は、ローレンツ変換の式を使って調べることにより、明らかな矛盾が生じる[13]。それでは、フィツジェラルド-ローレンツ収縮のほうは、どうなっているのだろうか。このことを調べてみよう。

 フィッツジェラルド-ローレンツ収縮の式は、次のように書かれる[14]

   L=L0(1v2/c2)1/2                 (1)

 ローレンツ変換の式も、次に書いておこう。

   x’β(xvt),  y’y,  z’z,  t’β(tvx/c2),  β1/(1v2/c2)1/2     (2)

 このローレンツ変換の式に対応した記号で(1)を表わすと、(3)となる。

   x’xβ1                   (3)

 このフィッツジェラルド-ローレンツ収縮の式と、ローレンツ変換の式との関係については、バーナード・ローゼンステイン(Bernhard Rothenstein)が、収縮式から変換式を導く方法について論じている[15]。これによると、静止座標系の0からxの区間を光が速度cで走るとき、光が原点から放射される時をスタート時として、運動座標系が速度Vで動き、同時に、こちらでも光が原点から放射されるとする。静止座標系での時間tx/cの間に、運動座標系の原点はVtの距離を進む。このとき、静止座標のxの位置のところに、運動座標系のx’も位置しており、光が到達するゴールは同じである。そして、さらなる要請として、運動座標系のL0,2 x’0ct’という長さがフィッツジェラルド-ローレンツ収縮によって短くなるというのである。このような関係により、次の式が導かれる。

   xVt x’ (1v2/c2)1/2                       (4)

 これをx’について解けば、(5)となって、(2)の式と一致する。

   x’(xVt)(1v2/c2)1/2β(xvt)            (5)

 (4)へ、この状況での(6),(7)を代入して(8)を得る。これも、(2)の式と一致する。

   xct                     (6)

    x’ct’                    (7)

   ctVx/c ct’ (1v2/c2)1/2 

 tVx/c2 t’ (1v2/c2)1/2 

   t’(tVx/c2)(1v2/c2)1/2β(tvx/c2)        (8)

 この解析においては、フィッツジェラルド-ローレンツ収縮の式が要請として扱われており、ローレンツ変換の中での式の変形であり、完全な証明ではない。また、xx’の位置が同じというのは、少し不自然な気がする。時間tの間に運動座標系の原点がVtの距離を移動するのであれば、x’という端点もVtの距離を移動しているのではないか。そして、このような動きの中で、x0と等しい長さであったはずの、x’0の長さが、Vの影響で収縮するというのが、フィッツジェラルド-ローレンツ収縮の意味ではなかったか。上記の説明では、x’0の長さは、原点のほうからVtの距離の分だけ縮められ、さらに、この全体が(1v2/c2)1/2の比で収縮するというのは、なぜだろうか。

 (1)の式では、L0は静止座標系での長さで、Lが運動座標系の長さであろう。(3)の式は、このような対応で書き換えてある。しかし、上記の解析では、L0のところに収まっているものがx’になっている。これは運動座標系の長さのはずである。このようなことを考えると、フィッツジェラルド-ローレンツ収縮の式と、ローレンツ変換の式との関係が、うまく結びついているとは考えにくい。

 それでは、(3)(2)だけを信頼して、式を変形すると、どのようになるかを調べよう。(3)x’(2)x’に代入して、次の(9)を得る。このあと、(6)を利用して、(10)を得る。

xβ1β(xvt)                  (9)

xβ2xvt  

x(1v2/c2)xvt

xxv2/c2xvt 

xv2/c2vt 

     ctv2/c2vt

ctv2/c2vt0

   vt(v/c1)0                   (10)

 (10)によると、vcv0t0となる。vcβを無限大にするので不適としよう。

v0のときは、(11)となる。これはローレンツ変換でもガリレイ変換でもない。

   x’x,  y’y,  z’z,  t’t,  β1          (11)

 t0のときは、(6)より、x=0であるから、(12)となる。これも変換以前の値である。

x’0,  y’y,  z’z,  t’0,  β1/(1v2/c2)1/2     (12)

 このように、フィッツジェラルド-ローレンツ収縮の式は、運動座標系について求められたローレンツ変換の式に対して、(11)(12)の結果を生むことになり、これでは、どちらが正しいのか分からない。(11)(12)の結果から、双方が正しいということはありえない。どちらかが間違っているか、あるいは、どちらも間違っているかである。(2008.11.25)

 参照文献

[1] On the Relative Motion of the Earth and the Luminiferous Ether, by ALBERT A. MICHELSON and EDWARD W. MORLEY; Michelson, A. A.; Morley, E. W. (1887). "On the Relative Motion of the Earth and the Luminiferous Ether". American Journal of Science 34 (203): 333–345.

 http://www.aip.org/history/exhibits/gap/PDF/michelson.pdf

[2] H. A. ローレンツ, マイケルソンの干渉実験, “MICHELSON’S INTERFERENCE EXPERIMENT”, translated from “Versuch riner Theorie der elektrischen und optischen Erscheinungen in bewegten Körpern,” Leiden, 1895, §§ 89-92. 英語への翻訳文は、DOVER EINSTEIN, H.A.LORENTZ, H.WEYL, H.MINKOWSKI, “THE PRINCIPLE OF RELATIVITY”, pp 1-7 にある。黒月樹人による日本語訳は次のURL

http://www.treeman9621.com/Michelson_I_E_by_Lorentz_Japanese.html

[3] 黒月樹人, マイケルソン-モーリー実験の理論モデルは間違っていた http://www.treeman9621.com/Theoretical_model_of_MM_experiment_was_wrong_Japanese.html

[4] 黒月樹人, ポアンカレの局所時間

http://www.treeman9621.com/Tabasco_Chimera_Meam_of_KK_04.html

[5] ジャン・ラデック, 「アインシュタイン、特殊相対論を横取りする」, 深川洋一[], 丸善株式会社 2005.

[6] Einstein, Albert (1905d), "On the Electrodynamics of Moving Bodies", Annalen der Physik 17: 891–921 .

http://www.fourmilab.ch/etexts/einstein/specrel/specrel.pdf

[7] 黒月樹人, ローレンツの局所時間

http://www.treeman9621.com/Tabasco_Chimera_Meam_of_KK_05.html

[8] EMANの物理学・相対性理論・ローレンツ変換の別の求め方

http://homepage2.nifty.com/eman/relativity/lorentz2.html

[9] 杉岡幹夫, マクスウェル方程式におけるローレンツ変換不変性証明の誤りの発見

http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page013.htm

[10] 牟田泰三, 岩波講座 現代の物理学2 電磁力学 7章 相対論的不変性 7-1 運動系における電磁力学 c) Lorentz 変換 p.129p130

[11] J. M. Lévy-Leblond, One more derivation of the Lorentz transformation, American journal of Physics, n°44, p.271, 1976

http://plato.if.usp.br/~fep0112n/AJP000271.pdf

[12] 黒月樹人, レヴィ=ルブロンはローレンツ変換を生み出していない

http://www.treeman9621.com/LEVY-LEBLOND%20DID%20NOT%20CREATE%20LORENTZ%20TRANSFORMATIONS%20Japanese.html

[13] 黒月樹人, ミューオン寿命の謎

http://www.treeman9621.com/Tabasco_Chimera_Meam_of_KK_31.htm

[14] A.A.Logunov, HENRI POINCARÉ AND RELATIVITY THEORY, p. 68

http://arxiv.org/PS_cache/physics/pdf/0408/0408077v4.pdf

[15] Bernhard Rothenstein, A faster than World fastest derivation of the Lorentz transformation

http://arxiv.org/ftp/physics/papers/0602/0602153.pdf