タバスコキメラミーム34「ミューオンの寿命/運動の相対性」
TCM 34 as “The muon lifespan and the relativity of the motion”
黒月樹人 (Kinohito Kulotsuki, treeman9621.com)

タバスコキメラミーム34「ミューオンの寿命/運動の相対性」

 1. ミューオンの寿命についての実験

宇宙空間を走ってきた陽子による宇宙線が、地球大気の上層で、空気分子と衝突して、π中間子を生み出し、それが崩壊してミューオンが生まれるという。そのミューオンが、特殊相対性理論のローレンツ変換(1)の効果により、寿命をのばして、地表で観測されるという。

τβ(tvx/c2),  ξβ(xvt),  ηy,  ζz,  β1/(1v2/c2)1/2        (1)

 これは、ロッシ(B. Rossi, 1941)の実験[1] によるという。この実験のことは、「相対性理論とは?」[2] によって知った。この本での説明によると、この実験では、宇宙線の中間子を調べるための、ガイガー-ミューラー計測管を複数個組み込んだ装置を、アメリカのデンバー市と、それより1624m高い山上にあるエコー湖のほとりとの、2か所に置いたという。これらの装置は高さが60cmくらいのもので、6層になっていて、下から1, 3, 5層目のところに計測管が置かれ、これらの周囲の壁と2, 4, 6層のところには鉛が用いられている。各層の天井部分には「はがね」の板も入っている。厳重な装備である。ただし、この本の説明では、これらの装置のうち、エコー湖のほうには、エコー湖からデンバー市へと下る間の空気層でエネルギーを失うミューオンに相当するものを取り除くために、装置の上に、さらに30cmほどの厚さの鉄板Sを乗せているとあるが、図の説明では、「鉄板Sはデンバーのみにおく」と書いてある。これは困る。ここでは、本文の記述のほうを信用しておこう。上空から降り注ぐミューオンのエネルギーは多様なものであるが、この装置の鉛の板によって、順次エネルギーを失ってゆくので、下から1層目のところに置かれた計測管までの、すべてを鳴らすミューオンと、下から3層目や5層目の計測管までしか鳴らさないミューオンとで、この装置にやってくるときのエネルギーの違いを判定することができるということだ。この実験の結果は、「生存率」という用語で表されている。これは、エコー湖での計数をN1とし、デンバー市での計数をN2としたときの、「生存率」=N2N1という値である。そして、ミューオンのエネルギーEを、低エネルギー(3.3×1064.5×106eV)と、高エネルギー(4.5×106eV以上)として分けている。このとき、低エネルギーのミューオンの生存率は0.698±0.031であり、高エネルギーのミューオンの生存率は0.883±0.007となっている。この結果に対して、本文では、「確かに、エネルギーの高いほうが生存率も高い。これは動く時計がおくれることを示すものである」と書いている。

エコー湖での計数に対して、デンバー市での計数は、エネルギーの高低にかかわらず、どちらも低下しているが、低エネルギーのミューオンよりも、高エネルギーのミューオンのほうが、「生存率」が大きな値になっている。これは、はたして、ミューオンの寿命がのびているからなのだろうか。低エネルギーのミューオンは、エコー湖からデンバー市までの空気分子と衝突してエネルギーを失って消滅するだろう。それによって生存率が減る可能性がある。しかし、これと同じ効果を見込むために、エコー湖の装置の上に鉄板Sが置かれ、このような消滅を、これによって見込み、違いが時間の差異だけになるようにしたと考えられている。これ以外に見落とされていることは何かないのだろうか。

2. 動く時計が遅れる理由

 この実験に対して、ローレンツ変換から、時間の遅れの式が導かれている。このとき、運動座標系と静止座標系はτ0かつt0のとき、完全に重なっていたものとし、この瞬間に運動座標系が、速度vで動き出す。そして、運動座標系の時計が、この座標系の原点にあって、時刻τ1τ2の時に、火花信号を発したとする。このときの、静止座標系における時間を、それぞれ、t1t2とする。このとき、ローレンツ変換により、次式が得られる。

   0β(x1vt1),   τ1β(t1vx1/c2)                  (2)

0β(x2vt2),   τ2β(t2vx2/c2)                  (3)

 これらより、次のように処理できる。

x1vt1,   τ1β(t1v vt1/c2),   τ1t1(1v 2/c2)1/2             (4)

x2vt2,   τ2β(t2v vt2/c2),   τ2t2 (1v 2/c2) 1/2            (5)

 よって、(6)を得る。ここで、(7)と書くことにすれば、(8)を得る。

τ2τ1(t2t1)(1v 2/c2) 1/2            (6)

ττ2τ1,   tt2t1                 (7)

τ1                              (8)

 このとき、v <cに対して、β1 <1なので、τ <tである。静止座標系の時間tに対して、運動座標系の時間τが小さいことから、「動く時計が遅れる」とされる。

 3. 運動の相対性という視点

 運動の相対性という視点で考えれば、この問題は、ただちに矛盾へと突き進む。つまり、静止座標系としての地球に固定された時間をtとし、運動座標系としてのミューオンに固定された時間をτとして、上記の考察を行っているが、これらの運動は相対的なものなので、ミューオンを静止座標系と見なし、地球を運動座標系と見なす視点を考えることもできる。地球とミューオンではイメージがつかみにくいかもしれないが、地球と火星なら、どちらを基準に取るかという判断は難しくなろう。混乱を避けるために、ミューオンの時間をτとし、地球の時間をtとしたままで解析する。

上記の解析と同じように、ミューオン座標系と地球座標系はτ0かつt0のとき、完全に重なっていたものとし、この瞬間に地球座標系が−vの速度で動き出すとする。そして、地球座標系の時計が、この座標系の原点にあって、時刻t1t2の時に、火花信号を発したとする。このときの、ミューオン座標系における時間を、それぞれ、τ1τ2とする。このとき、ローレンツ変換により、次式(9)(10)が得られる。ここでは、地球とミューオンが互いに離れてゆくことになるが、ローレンツ変換での速度の向きは、βの中でv2の項のみが用いられているので、収縮や遅れといった、ローレンツ変換の効果には影響しない。

   0β(ξ11),   t1β(τ11/c2)                  (9)

0β(ξ22),   t2β(τ22/c2)                  (10)

 これらより、次のように処理できる。

ξ1=−1,   t1β(τ1v2τ1/c2),   t1τ1(1v 2/c2)1/2             (11)

ξ2=−2,   t2β(τ2v2τ2/c2),   t2τ2 (1v 2/c2) 1/2            (12)

 よって、(13)を得る。ここで、(14)と書くことにすれば、(15)を得る。

t2t12τ1)(1v 2/c2) 1/2            (13)

ττ2τ1,   tt2t1                 (14)

tτβ1                              (15)

 ところが、 (8)(15)へ代入すれば、(16)となり、これを整理して、(17)を得る。

 ここのところの考え方は2008年のものです。2018年においては、上記の時間に関する関係式が、定常系や運動系のすべてにおいて成立するのではなく、運動系の原点のみで成立するもの、定常系の原点で成立すもの、など、位置に限定されて成立するということが分かっています。よって、成立する位置が異なる、時間に関する関係式の(8)と(15)を組み合わせることは、無意味な操作となります。しかし、このような観点の下で、ローレンツ変換に関わる、これらの時間に関する関係式を調べてゆくことにより、ローレンツ変換が抱え込んでいた矛盾が明かになってゆきます。詳しくは、2018年の「三つの時間のパラドックス」などを参照してください。(2018年の黒月樹人)

t1β12                     (16)

t(1β2)0

t[1(1v2/c2)]0

tv2/c20                             (17)

 (17)は、t0もしくはv0を意味している。これでは、ローレンツ変換は考えられない。明らかな矛盾が現れる。もちろん、地球座標系とミューオン座標系とで、それぞれ、他の座標系に対して、時間が遅くなるということは、ありえないからである。だから、運動の相対性の視点を考慮すれば、ローレンツ変換は意味を持たない。それにもかかわらず、ロッシの実験ではローレンツ変換が、運動の偏向性により、特定の座標系を静止座標系とし、他の座標系を運動座標系としたときの解析結果に見合った観測データを生み出している。これは何故なのだろうか。この実験では、エネルギーの小さなミューオンよりも、エネルギーの大きなミューオンのほうが、寿命がのびていると解釈されている。しかし、運動の相対性を考慮すると、地球は、エネルギーの小さな、比較的遅く走っているミューオンに対しても、エネルギーの大きな、比較的速く走っているミューオンに対しても、相対的に運動していることなる。それでは、この地球の時間であるが、どちらのミューオンを対象として遅くなればよいのか。このように考えると、ミューオンだけでなく、他の惑星や彗星なども多くあるのだから、地球の時間は、どのように変換してよいのか、いっこうに分からない。ガリレイ変換では、運動の相対性は、位置の変化だけで終わってしまう。しかし、ローレンツ変換では、長さの収縮と時間の遅れが生ずるという。これが片方だけに適用されるのはなぜなのか。もちろん、両方に適用すれば、直ちに矛盾が生ずる。よって、ミューオンの寿命を調べるための実験で、何らかの誤解か見落としがあったと考えるほうが、はるかに自然である。それとも、運動の相対性という視点のほうに、何らかの誤りがあるのだろうか。

 4. 「アインシュタイン レクチャーズ@駒場」より

 アインシュタインの「奇跡の年1905」から100年後、東京大学駒場キャンパスで行われた、全学自由研究ゼミナール「アインシュタインと現代物理学」の講義録11編と、その補足2編が収められた、「アインシュタイン レクチャーズ@駒場」のLecture 2 「もっとも有名な関係式E=mc2[3] の中に、「時計の遅れ」という章があって、ここで、ローレンツ変換による、静止座標S系の時間tと、運動座標S’系の時間t’の関係が書かれている。

 先にS’系の位置x’0と時間t’0を指定しておいて、静止座標系の時間t0を、次の式で決めている。これには、少し驚かされる。テキストでは使われていないが、ここでは、(1)βを使おう。ローレンツ変換の速度の項には−vが使われている。

   t0β[t’0(v/c2)x’0]                (18)

 この事象から、少しの後の時間を、t0tt’0t’とおいて、次の(19)を書いている。

   t0tβ[t’0t’(v/c2)x’0]                (19)

 「したがって」という説明で、(19)から(18)を引いた結果の(20)を、さりげなく書き込んで説明している。

   tβt’                  (20)

 これは、上記の(8)にある τ1に対応する。これはおかしい。(19)の式は正しくないように思う。なぜなら、ローレンツ変換においては、t’0t’0t’へと変化すると、x’0も変化するのであるが、そのことが、まったく考慮されていない[4]。テキストの説明を済ませてしまおう。

「時計の遅れ」という章の後半では、逆の視点で考察されている。このときのローレンツ変換の速度の項はvであり、よく見るローレンツ変換の式である。

   t’0β[t0(v/c2)x0]                          (21)

t’0t’β[t0t(v/c2)x0]                (22)

t’βt                                 (23)

 説明は略して、式を書き下した。ここでもx0の変化が考慮されていないので、(23)は、上記の(15)に対応した式になっている。この問題について議論するのは保留しておこう[5]。もっと大きな問題がある。(8)(15)の関係式と、ほぼ対応する、(20)(23)の関係式を導きだしておきながら、「こうしてS系の時計をS’系で観測すれば時計はやはり遅れて見える」と書いて、何の疑問もわかずに済ませている。そして、この章の最後は、ミューオンの寿命ののびについての、簡単なエピソードである。このような実験で観測された時間の違いは、「見えている」だけであり、実体を持っているものではないというのだろうか。(20)(23)より、次のように変形できる。

tβt’ ββt

t(1β2)0                  (24)

 この(24)から、t0もしくはβ21が得られる。どちらにしても、ローレンツ変換は成立しない。(17)の考察と同じである。

このテキストの計算は、ローレンツ変換の不思議な性質でもある、t’の変化がx’の変化とも連動しているという点を無視しているので間違っているようだが、これによって、運動の相対性という視点が間違っていないということは、支持してもらえたようだ。よって、ローレンツ変換は無意味な式であり、この式からの公式によって、ミューオンの寿命がのびると解釈するのは間違っている。そのような実験結果が導かれたと解釈されているようであるが、これには、どこかに間違いが潜んでいるはずである。(2008.12.02)

 参照文献および補足

[1] B. Rossi, 1941, Variation of the Rate of Decay of Mesotrons with Momentum,

Phys. Rev. 59, 223 - 228 (1941)

[2] 江沢 洋, 相対性理論とは? 日本評論社, 2005.

[3] 加藤光裕, もっとも有名な関係式E=mc2, 「アインシュタイン レクチャーズ@駒場」, 東京大学出版会, 2007.

[4] 時間t0からt0tへの時間変化に対して、ローレンツ変換後の時間が、t’0からt’0t’へと変化するとしたら、このt’の間に、位置座標x’0x’0x’へと変化し、x0x0xへと変化している。運動座標系の移動速度−v を考慮して、x’=−vt’が成立する。(19)を訂正すると、

t0tβ[t’0t’(v/c2)(x’0x’)]

となる。ここから、(18)を引く。

tβ[t’(v/c2)x’]

β[t’(v/c2)(vt’)]

β[t’ (v2/c2)t’]

βt’(1v2/c2)

β1t’.

こうして、(20)は間違いであり、(15)の型の式(tτβ1)が成立することが分かる。

[5] 時間t0からt0tへの時間変化に対して、ローレンツ変換後の時間が、t’0からt’0t’へと変化するとしたら、このtの間に、位置座標x0x0xへと変化し、x’0x’0x’へと変化している。また、時間tに対して、xvtが成立する。このとき、x0 だけを書いている(22)は間違っており、正しくは、次のようになる。

t’0t’β[t0t(v/c2)(x0x)]

ここから(21)を引くと、次式となる。

t’β[t(v/c2)x]

β[t(v/c2) vt]

βt(1v2/c2)

β1t.

こうして、(23)は間違いであり、(8)の型の式1)が成立することが分かる。