タバスコキメラミーム35「プランクの相対論的力学の誤り」
TCM35 as “THE ERROR OF THE PLANCK RELATIVISTIC MECHANICS”
黒月樹人 (Kinohito Kulotsuki, treeman9621.com)

タバスコキメラミーム35「プランクの相対論的力学の誤り」

 1. ローレンツ変換後の時間は大きくなるのか、それとも小さくなるのか?

特殊相対性理論は加速度を取り扱わないものだと、私は思っていた。ところが、加速度を組み込んだ式である、ニュートンの運動方程式を、特殊相対性理論におけるローレンツ変換で解釈して、「相対論的力学の基礎方程式」というものが導かれたという。それを行ったのはマックス・プランクで、1906年のことだと記されている。この知識は「相対性理論とは?」[1] の第3章「相対性理論」の「プランクの考え」という節にある。速度だけを取り扱っているはずの特殊相対性理論で、どのように加速度の議論を進めてゆくのかというところが難しい。しかし、これを調べてゆくと、難しいところにではなく、ごくごく簡単なところに、速度だけを取り扱うローレンツ変換に関する誤りがあって、これを正すと、このあとの解析が続かなくなることが分かった。この誤りは、100年後の現在でも、多くの人々が知らずに犯しているものである。この本では、この誤りの式と正しい式とが、別々の箇所で用いられている。これも驚きだ。ローレンツ変換後の時間は、変換前の時間より、遅くなるというが、それなら、数字として、大きくなるのか小さくなるのか、そのことを知っていないと、この誤りには気づかないだろう。正解は「小さくなる」のである[2]

 2. プランクの相対論的力学の基礎方程式

 上記テキスト[1] に沿って説明する。力や速度や加速度の向きはX軸に沿っているものとする。Y軸やZ軸を含めた空間は考えなくてよい。X軸の空間座標xと時間tでよい。観測者Aと物体は静止座標系にいる。これに対して、観測者Bが、X軸の負の方向に動いている。その速度は−vとなる。この観測者Bの視点から見ると、観測者Aが静止していると見ている物体は、vで運動しているように見える。Aの観測している座標系は静止座標系であり、これをBが見ると運動座標系に見えるので、Bの観測している座標系はローレンツ変換後の運動座標系だと考える。よって、Bの観測する時間はt’=0で、物体の速度はV’(v)であるとする。Aについては、このとき、t0V0が成立している。

 静止している物体の質量をm0とする。ここに力Fが作用して、その瞬間からt秒後に速度がVになった。このとき、Aが、次のニュートンの運動方程式が成立していると見た、としている。

   m0(V/t)F                         (1)

 このとき、Bから見た時間t’と、Bから見た物体の速度V’を求める。テキストでは、次のように書かれている。

   t’t(1v2/c2)1/2                     (2)

   V’(vV)(1vV/c2)                (3)

       v(1v2/c2)V                     (4)

 (2)は「時間の遅れ」の式で、(3)vVに関する「速度の合成」の式だろうか。(4)(3)の近似式のようだ。物理学でよく使われる近似式の公式(5)を見よう。

   (1a)n  1na,     (a <<1)              (5)

 (3)(5)の方法で近似しよう。

   V’(vV)(1vV/c2)1

     (vV)(1vV/c2)

    =vVv2V/c2v(V/c)2

      v(1v2 /c2)V                    (6)

 (5)の近似以外に、v(V/c)2の項を無視するという方法を用いている。微小量のVの二乗の項を無視するという方法は、よく用いられるものである。

 次に、テキストでは、(4)より、V’ (1v2/c2)Vとして、(7)を求めている。

   VV’(1v2 /c2)V’(1V’2 /c2)         (7)

 ここで、vV’へと置き換えている。時刻tt’0のときの値である。これも近似の一種ということなのだろう。

 時間については、(2)より、次の(8)を得ている。

   tt’(1v2/c2)1/2               (8)

 ここで(7)(8)(1)へと代入する。

   m0[V’(1V’2 /c2)][t’(1v2/c2)1/2]F  

   m0[1(1V’2 /c2)3/2] [V’t’]F               (9)

 このとき、t’0の極限をとり、Vtのプライムを省略して、次の(10)を得る。

   (d/dt)[ m0V(1V2 /c2)1/2] F               (10)

 (10)から(9)が得られるか、調べておこう。

   (d/dt)[ m0V(1V2 /c2)1/2]

m0[dV/dt(1V2 /c2)1/2V(d/dt) {(1V2 /c2)1/2}]

m0[dV/dt(1V2 /c2)1/2(1/2)V(2V /c2) (dV/dt) (1V2 /c2)3/2]

m0 (dV/dt) [1(1V2 /c2)1/2V2 /c2(1V2 /c2)3/2]

m0 (dV/dt) [1V2 /c2V2 /c2)](1V2 /c2)3/2

m0 (dV/dt) [1(1V2 /c2)3/2]

 ここで、dV/dtV’t’と見なせば、(10)となる。この(10)が「相対論的力学の基礎方程式」であると記されている。ここから、さらに、(10)[  ]内にある、次のpを定義し、これを「相対論的な運動量」と呼んでいる。このとき、(12)が成立するが、これはニュートン力学の式でもある。

   pm0V(1V2 /c2)1/2                    (11)

   dp/dtF                                (12)

 これらの解析によって「相対論的な質量m」が次の(13)であると主張される。

   mm0(1v2 /c2)1/2      (13)

 この式により、vcに近づくにつれて、質量mが無限大に近づいてゆくため、加速しづらくなって、cには近づけないと考えられたらしい。

 3. プランクの相対論的力学の誤り

 上記の解析には致命的な欠陥がある。プランクの相対論的力学の誤りは、(2)の式である。次に再録しておこう。

   t’t(1v2/c2)1/2                     (2)

 この式の意味を文章で読んでみよう。ゼロではない任意のvに対して、右辺の分母は1より小さい。すると、tの係数は1より大きくなり、t’tより大きいということになる。よって、静止座標系の時間tより、運動座標系の時間t’のほうが、たくさん時間を経過させたことになり、早く進んだことになる。これでは、ローレンツ局所時間としての時間の遅れとは、逆の現象になってしまう。これらの詳しい計算については、タバスコキメラミーム34「ミューオンの寿命と運動の相対性」に記した。しかし、この内容は、「相対性理論とは?」の第3章の「動く時計はおくれる」の節に記されてある方法に沿ったものである[2]

 (2)は間違っており、次の(14)が正しい式となる。

t’t(1v2/c2)1/2      (14)

 このとき、(2)から変形した(8)が間違っており、次の(15)が正しい式となる。

tt’(1v2/c2)1/2               (15)

 (7)(8)(1)に代入して(9)を得ていたが、正しくは、(7)(15)(1)に代入して、次の(16)を得ることになる。

   m0(V/t)F  

m0[V’(1V’2 /c2)][t’ (1v2/c2)1/2]F    

   m0[1(1V’2 /c2)1/2] [V’t’]F               (16)

 さて、このようになったとすると、この(16)(10)は結びつかなくなる。(10)を計算すると(9)になった。(9)(16)と等しくない。1/2乗と3/2乗は明らかに異なるからである。

   m0[1(1V’2 /c2)3/2] [V’t’]F           (9)

   (d/dt)[ m0V(1V2 /c2)1/2] F               (10)

 ここでプランクの解析は止まる。(16)からは、(10)の「相対論的力学の基礎方程式」も生まれないし、「相対論的な運動量p」も生まれない。だから、(13)の「相対論的な質量m」も存在しない。ここにも巨大な幻が漂っていた。

 参照文献

[1] 江沢 洋, 相対性理論とは? 日本評論社, 2005.

補足

[2] ローレンツ変換から、時間の遅れの式が導かれている。このとき、運動座標系と静止座標系はτ0かつt0のとき、完全に重なっていたものとし、この瞬間に運動座標系が、速度vで動き出す。そして、運動座標系の時計が、この座標系の原点にあって、時刻τ1τ2の時に、火花信号を発したとする。このときの、静止座標系における時間を、それぞれ、t1t2とする。このとき、ローレンツ変換(A1)により、次式(A2)(A3)が得られる。

τβ(tvx/c2),  ξβ(xvt),  ηy,  ζz,  β1/(1v2/c2)1/2        (A1)

   0β(x1vt1),   τ1β(t1vx1/c2)                  (A2)

0β(x2vt2),   τ2β(t2vx2/c2)                  (A3)

 これらより、次のように処理できる。

x1vt1,   τ1β(t1v vt1/c2),   τ1t1(1v 2/c2)1/2             (A4)

x2vt2,   τ2β(t2v vt2/c2),   τ2t2 (1v 2/c2) 1/2            (A5)

 よって、(A6)を得る。ここで(A7)と書くことにすれば、(A8)を得る。

τ2τ1(t2t1)(1v 2/c2) 1/2            (A6)

ττ2τ1,   tt2t1                 (A7)

τ1                              (A8)

 このとき、v <cに対して、β1 <1なので、τ <tである。静止座標系の時間tに対して、運動座標系の時間τが小さいことから、「動く時計が遅れる」とされる。