タバスコキメラミーム36「相対論的力学のトリック」
TCM36 as “TRICK OF RELATIVISTIC MECHANICS”
黒月樹人 (Kinohito Kulotsuki, treeman9621.com)

タバスコキメラミーム36「相対論的力学のトリック」

 1. 不思議なこと

相対論的力学ではニュートンの運動方程式に対応する「相対論的力学の基礎方程式」が導かれる。この過程において、相対論的力学での運動量や質量も導かれる。このアイディアは、マックス・プランクが1906年に生み出したものと言われている[1]。アインシュタインの特殊相対性理論の論文(1905)[2]から、わずか1年のことである。特殊相対性理論では、一定の速度で移動する座標系間での、座標変換の問題を扱っている。ところで、ニュートンの運動方程式には加速度の項がある。これは、特殊相対性理論のベースであるローレンツ変換にとって、異質なものではなかったのか。私は「プランクの相対論的力学の誤り」[3]で、この解析過程において、ローレンツの局所時間に関する式の取り扱いが間違っていることを指摘した。これを訂正すると、「相対論的力学の基礎方程式」は生まれない。ところが、この解析過程とは異なる方法があって、ここでは、ローレンツの局所時間の式が使われていない。それにもかかわらず、「相対論的力学の基礎方程式」が導かれている。これは不思議なことである。

 2. 速度の変換則

 この異なる方法は、「相対性理論」[4]に書かれている。この解析過程を概観しよう。静止座標系がKO-xyzで、これに対して、運動座標系がK’O’-x’y’z’で、x軸方向に速度Vで動いていたとある。これらの座標系は、tt’0には一致していた。この本では一般的な記述スタイルをとっていて、y座標やz座標にもかかわる、一般の向きの速度をもつ粒子について説明している。しかし、問題を分析するために、もっと簡単にして、O-xO’-x’の空間で考えることにする。すると、最初の仮定は、次のようになる。静止座標系がKO-xで、これに対して、運動座標系がK’O’-x’で、x軸方向に速度Vで動いていた。これらの座標系は、tt’0には一致していた。このとき、これらの座標系におけるローレンツ変換の式は、次のようになる。

   t’γ(tVx/c2),   x’=γ(xVt),   γ1/(1V2/c2)1/2               (1)

 このような状況において、K系からみて、速度vをもつ粒子m0があるとする。この速度vx軸に沿っていて、正の方向へ向いているとしよう。

vv(t)dx(t)/dt             (2)

この速度をK’系から見たとき、どのような速度になるか。このことを調べるため、(1)t’x’tで微分する。

   dt’/dtγ[1(V/c2)(dx/dt)],   dx’/dt=γ[dx/dtV]                  (3)

 このような操作が可能なのかどうか、少し疑問が残る。つまり、ローレンツ変換後の値であるt’x’を、ローレンツ変換前の値であるtで微分するということの意味が、どのように解釈されて、定義されるのかということである。このようなことに意味がないとしたら、この解析はここで終わることになる。

 (3)におけるdx’/dtdt’/dtで割って、次の(4)を得る。

   v’dx’/dt’[dx/dtV][1(V/c2)(dx/dt)](vV)(1Vv/c2)     (4)

 (4)は「速度の変換則」(transformation law)と書かれている。この(4)vについて解くと、次の(5)となる。

   v(v’V)(1Vv’/c2)                (5)

 この(5)は「速度の加法定理」(addition theorem)と書かれている。テキストでは、y座標やz座標における式も導かれており、(5)の分母が共通項となっていて、いかにも、新しく見つけた「定理」と呼びたくなるようなものである。

 3. 加速度の変換則

 次に、テキストでは、(4)tで微分してから、(3)dt’/dtで割って、「加速度の変換則」を導いている。ここでも、この操作の意味に疑問が生じる。

まず、(4)tで微分してみよう。このとき、tの関数はvのみである。

   dv’/dt1(dv/dt)(1Vv/c2)(V/c2)(vV)(dv/dt)(1Vv/c2)2

        [1(1Vv/c2) (V/c2)(vV)(1Vv/c2)2](dv/dt)

      [{1Vv/c2 Vv/c2V2/c2}(1Vv/c2)2](dv/dt)

[(1V2/c2)(1Vv/c2)2](dv/dt)                   (6)

 (3)dx/dtvを代入して、(7)を得る。そして、この(7)(6)を割って(8)を得る。

   dt’/dtγ(1Vv/c2)                                     (7)

   dv’/dt’(1/γ) [(1V2/c2)(1Vv/c2)3](dv/dt)              (8)

 4. 奇妙な論理

 テキストの「運動方程式を見つける」の原文を少し引用しよう。

 「ニュートンの運動方程式は粒子の速度が光速に比べて小さい場合には正しい。そこで、座標系Kで運動している粒子m0を考え、任意の瞬間t0に粒子の速度が0に見えるような座標系K’をとって、その瞬間にK’系ではニュートンの運動方程式を採用する。その方程式を加速度の変換則によってもとの座標系Kに戻せば、それがK系における運動方程式である。」

 次に、座標系Kでの、時間t0における粒子m0の速度が(9)であるようにとる。ただし、テキストでは3次元空間での表現なので、ここでの表現に変えておく。

   v(t0)v               (9)

 さらに、「K系に対してx軸方向にvで動く座標系K’をとれば、粒子は静止して見える」と書いている。そして、このK’系での運動方程式を(10)とする。

   m0(dx’/dt’)f’                (10)

 テキストではO-xyzの空間での式が3つ書かれているが、ここでも、私は空間をO-xに限定して、1つだけを書いている。このあとテキストでは、「これらの式も以下の式も時刻t0に対するものである」と書いているのだが、この注意点は、いつの間にか消えてゆくことになる。

さて、テキストでは、加速度の変換則(8)が、(9)を考慮して、次の(11)になると書いている。

dv’/dt’[1(1v2/c2)3/2](dv/dt)                          (11)

 (11)(10)に代入する。

   m0[1(1v2/c2)3/2](dv/dt)f’           (12)

 この(12)は、次の(13)から導かれる。

   (dv/dt) [m0v(1v2/c2)1/2] f’           (13)

 テキストでは、y成分とz成分についての力の変換則を工夫して書いているが、x成分についてはfx=f’xが成立するとしている、よって、O-xでは(14)となる。

   (dv/dt) [m0v(1v2/c2)1/2] f           (14)

 (14)から、(15)(16)を規定している。

   pm0v(1v2/c2)1/2                    (15)

   mm0(1v2/c2)1/2                     (16)

 5. 論理の誤り

疑問だと考えられるのは(11)の式である。(8)(11)を並べてみよう。

dv’/dt’(1/γ) [(1V2/c2)(1Vv/c2)3](dv/dt)              (8)

dv’/dt’[1(1v2/c2)3/2](dv/dt)                          (11)

 (9)と、その後に書いてあるテキストの仮定より、Vの値がvとなる。(8)Vvを代入して整理すれば、確かに(11)が得られる。しかし、このときのVの値は、運動座標系の速度であるから定数であり、これは変数ではない。ローレンツ変換の仮定として、一定の速度で動くという条件があり、この速度が変化しては、ローレンツ変換式を導くことはできない。これに対して、粒子の速度であったvは変化する可能性をもっている。しかし、瞬間的に同じvという速度であったとしても、運動座標系の速度としてのvは、変化することができない。だから、上記の仮定のもとで、(8)から(11)を経由して(12)へと変形できたとしても、この中のvには、変数のvと定数のvとが混じっている。変数のvは時間で微分してゆけるが、定数のvは時間で微分すると0になる。(13)の中に書かれているvは、すべて変数であるから、形だけ(12)と同じになっても、同じものとは見なせない。

 また、形だけでも、(8)(11)(12)(13)とつながるのは、t0の瞬間だけである。仮にニュートンの運動方程式がK’系で成立していて、K系での現れが(14)になるとしたら、力の作用を受けて、粒子の速度がv+⊿vへと変化するだろう。しかし、運動座標系K’の速度もv+⊿vに変化して、粒子と共に進むとしたら、ローレンツ変換の式は、定義のところから変えることになり、このような議論は、(1)の式をどのように決めるかというところへと戻ることになる。運動座標系K’の速度がvのままであるとすると、(8)(17)となり、Vvとしても、明らかに、(11)とは一致しない。

dv’/dt’(1/γ) [(1v2/c2){1v(v+⊿v)/c2}3](dv/dt)              (17)

 これらのことから、t0+⊿tでの「相対論的力学の基礎方程式」は見出されていないと考えられる。よって、これらの解析を、一般の時間tへと拡張することはできない。

 6. 結論

 「相対論的力学の基礎方程式」が導かれているというテキストの内容を検討した。ローレンツの局所時間の式を間違えて使わないでも、(11)の式が導かれることについての疑問は明らかにできなかったが、これらの解析における、より本質的な誤りを明らかにした。これらの解析では、変数としての粒子の速度vに対して、定数としての運動座標系の速度Vを仮にvと置き、変数と定数の意味を混乱させ、すべてのvを変数として取り扱っている。しかし、このような操作は行えない。よって、これは間違った解析である。

 参照文献

[1] 江沢 洋, 相対性理論とは? 日本評論社, 2005.

[2] Einstein, Albert (1905d), "On the Electrodynamics of Moving Bodies", Annalen der Physik 17: 891–921 .

http://www.fourmilab.ch/etexts/einstein/specrel/specrel.pdf

[3] 黒月樹人, 「プランクの相対論的力学の誤り」, treeman9621.com

 http://www.treeman9621.com/Tabasco_Chimera_Meam_of_KK_35_Planck_error.html

THE ERROR OF THE PLANCK RELATIVISTIC MECHANICS

http://www.treeman9621.com/TCM35_THE_ERROR_OF_THE_PLANCK_RELATIVITSIC_MECHANICS.html

[4] 江沢 洋, 相対性理論 , 裳華房, 2008.