「ムルダス王物語」のコア分析

      黒 月 樹 人

2003_10_07

「思考言語コア練習帳」において、「ムルダス王物語」の意味の構造を思考言語コアに翻訳した。このようなことをするのはなぜか。意味の構造を把握しやすくするためにである。つまり、機械を作るときの設計図や、信号を増幅したりフィルターをかけたりするアンプのような装置の電機配線図のように、あるいは得られた観測データをデジタル解析するためのコンピュータプログラムのように、自然言語で書かれた(ここでは)物語の、設計図や配線図のようなものを構成しようとしているのだ。コンピュータプログラムを自由に操れる人なら、あと少し、数学の知識を吸収することによって、データ解析をすることができて、たとえば、ウェーブレット解析を使えば、観測データにフィルターをかけ、高周波数の成分と低周波数の成分を分けることができる。ところが、同じことを、以前はアンプを作る弱電技師が試みていた。トランジスタや抵抗やコンデンサーを組み合わせて、アンプに入力した信号を、高周波成分と低周波成分に分けるのである。何を探しているのかによって、どちらが欲しいもので、どちらがいらないもの、つまり、ノイズであるかが決まる。ただし、状況によっては、そのどちらもが有効な成分であることもある。

自然言語で書かれた物語についても、よく似た状況が生じている。完成された物語の一部をノイズといってしまうと怒られるだろうが、内容を分かりやすく伝えるために、多くのことが冗舌に語られているものだ。小説家たちには、この能力がどうしても必要になる。しかし、これだけでは、ただのおしゃべりにすぎない。よい物語にさらに必要なものは、それらの細かな外観の奥にある、プロットである。思考言語コアが狙っているものは、このプロットのほうなのである。

電気信号に変換された観測データでたとえると、低周波成分のほうに相当する。自然に発生したものであれ、ダイナマイトなどを使って人工的に起したものであれ、地震の波(弾性波)を調べているときには、ダンプカーやブルドーザーが起す振動は無視して、P波やS波の様子を明らかにしなくてはならない(これが、ほんの少し前までの、私の仕事だった)。このような仕事におけるプロセスの一つ一つが、自然言語における観測データを調べるという目的にも応用できる。

これまでは、自然言語の観測データ(つまり、物語)の中から、直接プロットを探し出し、自然言語を用いて記述していたことになる。アンプとして働いたのは、もちろん人間の脳みそである。弱電機器の配線に詳しくない人間にとっては、アンプというものは一種のブラックボックスに見えてしまう。ところが、同じ脳みそを使っているのだろうが、コンピュータプログラムと数学に慣れた人間にとっては、デジタルに変換された観測データがあれば、そこから先の処理について、詳細に細部まで考え、それらを説明する本(や報告書)だって書ける。こちらはブラックボックスではない。ただし、他人が作ったコンピュータプログラムを使っているときは、これを読み解こうとしない場合、やはり、そいつもブラックボックスに化けてしまうことになる。

自然言語で書かれた物語を、脳で直接分析し、その結果を再び自然言語でまとめるというプロセスにおいては、脳はまさにブラックボックスと化している。もちろん、それでうまくやっている人も多くいる。人間の能力の可能性は計りしれない。

思考言語コアを使って物語を調べるというときにも、ブラックボックス化した脳は使うわけであるが、すべての処理を脳の中でおこなうのではない。たとえていえば、弱電機器の配線を考える人が、トランジスタやマイクロチップの中で行われていることを知らないままでも、それらを使って、ある目的に対して役にたつものを構成しているようなものである。コンピュータプログラムを駆使する人の場合は、FFT(高速フーリエ変換)のプログラム部分を本から丸写しにて、自分が構成しているプログラムのサブルーチンとして使うようなものである。私の場合も、先にFFTをブラックボックスとして用いてから、このFFTの論理を解説している本を探してきて、後からこれを理解した。新しい武器を手に入れたようなものだった。それから、色々な本を探し回り、ウェーブレット解析、カオス時系列解析、非線形時系列解析、フラクタル解析などを自分の武器とし、ウェーブレットエコー解析、探索ベル解析、コラージュ法などを生み出した。これらはもう、私にとってはブラックボックスではないのだが、他人にはブラックボックスに見えることだろう。

思考言語コアというものも、これらの解析法と同じように、数字で表示できる時系列データと、自然言語で構成された物語という違いこそあるが、ある観測対象を切り刻むときの、あるいは、それらの部品を再構成するときの、武器の一種なのである。

思考言語コアという武器をどのように使うか。うまくできるかどうか、少し不安だが、これから、そのことを説明しようと思う。

まず、「思考言語コア練習帳」で調べた、「ムルダス王物語」の(要旨についての)コア翻訳文を並べてみる。

 

A1     ヘリクサンドル王――亡>,ムルダス王子――継承>王位;

A5,A6  {*af} <○> *af(1)「隙間風」,*af(2)「幽霊」,

*af(3)「ワックス」,*af(4)「親類縁者」,

*af(5)「自分の未来を予言されること」;

        ▽MU ――恐れる> *af(5)///{*af};

A7      ▽MU――就く>王位,

[ただちに]▽MU――出す>*a「布告」/王国の津津浦浦まで

*a<○>,

▽MU ――命じる> 「◇――閉める>ドア;」,

「◇――●開ける>窓;」,

「◇――殺せ>(すべての)占い師;」;

A21,A22 古めかしい銅製の戸棚 <○> 占い箱;

A23,A24 「▽MU ――試みる> 占い」<●> 悪いこと;

A27,A28 ▽OJ「ツェナンデル叔父<○>▽MUの後見人」;

戸棚の目玉 <似る>▽OJ;

A34     戸棚(占い箱)――出す> 黒いカード;

B       ▽MU ――(方目だけで)見る> 黒いカード @自分の部屋;

C1〜9    (黒いカード――書く>)親類縁者<○>危険;

                    ◇――葬> 親類縁者;

C10     ◇――(巧みに)隠す>屍,

◇――隠す> 身(己)(を)> 随所(に);

C11     ◇――潜める> 身(を)/急いで;

        <※] 敵 ――潜伏> /汝の夢の中に;

D3      ▽MU ――●疑う> 意味(占い◇C);

E       ◇(F〜P) <○> 恐ろしいこと;

F1      ▽MU ――死刑> 血のつながりのあるもの;

F3      ▽MU ――死刑> ▽OJ(叔父のツェナンデル);

G6      家来 <may○> 遠い親戚;

G7      [※> ▽MU ――死刑> 家来;

G10     ▽MU ――固定> 体(▽MU) >王座 /ボルトで;

        <※][●]▽――引きずり降ろす> ▽MU /王位から;

G17     *a「お抱え建築師,電子匠,極板金細工師,轆轤(ろくろ)師」;

▽MU――>>{*a}――>>体(▽MU)――なる>大きな体

/地平線のかなたまで広がるように;

G22     ▽MU <○> 城下町 /☆2年ががりで;

G25     ▽MU <○> 首都そのもの;

G26     ▽MU ――広がり続け>,

        ▽MU ――のりこえる> 町の境界;

G29     ▽MU ――存在> /すべての場所/同時に:

    [※> [●]▽MU ――歩いてゆく> @どこへも;

G35     ▽MU <○> もの <大>///この世のもの;

        ▽MU <○> 王国/そのもの;

[※> ◇――隠す> 身(己)(を)> 随所(に)/<要求――占い;

G39     ▽MU ――見はじめる> 群れをなす夢;

H       ▽MU <○> 悪夢;

I1,I2   ▽MU――見る>夢1(▽MU)「▽OJ――組織>陰謀;」;

I6      ▽MU ――独り言> 「▽MU――見る>夢」;

I8      ▽MU――見る>夢2「◇――企てる>陰謀/公然と;」;

I9   <※]▽MU――考>「▽MU――覚める>/夢1から」,

        /実際には/ ▽MU――●覚める>/夢1から;夢1<○>夢2;

I10     *DT「下町の一郭(▽MU)――企む>反政府的な夢1」;

        *DT(▽MU)――●覚める>/夢1から;

        *DT(▽MU) <束縛―― 悪夢(夢1);

I11     ▽MU――●気付く> ◇(I10);

I12     *CC「首都の古い中心街(▽MU)」;

        *b「{▽OJ,策謀(▽OJ)}<○>幻想(<生む――悪夢の妄想)」;

        *CC(▽MU)――●気付く> *b;

I13     ▽MU――見る>「▽OJ――動きまわる>/熱にうかされたように;

                 ▽OJ――召集> 一族郎党;」;

I17     ▽MU――奮戦>/二度;▽MU<弱>//▽OJ;

     [※>▽MU――覚ます>目/「▽MU――震わせる>全身(▽MU);」;

J1     ▽MU ――can●入る> *DT(反乱――起こる>)

/☆(▽MU――覚ます>目);

J4     ▽MU ――悟る> 

「▽MU――見る> 夢3(▽MU――can対抗>敵)」;

K3     夢2(<牛耳る――▽OJ)――描く> 兵器庫(強力な爆弾,地雷);

K4     夢3(<見る―――▽MU)――描く> 騎兵隊(●馬);

K7     ▽MU――覚める>/夢3から;

       ▽MU――思いつく> *e「恐ろしい疑惑」;

K8     *e <○> *f「▽MU――戻る>現実/本当に?」;

K9     *e <○> (●*f),

*g「▽MU――見る>夢4(●夢3)?」;

K12 [if]▽MU――●眠る>,[→]現実の世界<●>陰謀.[※> 安心;

K17 [if]▽MU――思う> 安全 ,<※]▽MU/@現実(目が覚めている),

    [→]▽MU――●見る> 夢3(▽MU――can対抗>敵);

   [&if][●]「▽MU――思う> ▽MU/@現実」,

[○]「▽MU/@夢2(▽OJ)」,

    [→]▽MU<○>破滅(▽MU);

K20 [if]▽MU――●望む> ▽MU/@現実(目が覚めている),[→]◇?;

K21 [→]▽MU<●/☆永遠に>▽MU/@現実,

▽OJ――>>▽MU――?>;

K26    夢<○>◇?;

K27    夢――存在> ,<※] 現実(<戻る――◇/@夢から)――存在>;

 [if]{▽OJ}――>> ▽MU/@夢2,

    [→]▽MU――may●戻る> /@現実;

K28 [if]●/@現実,[&]/@夢2(――存在>),

[→] 夢2<○>(唯一の)現実;

K29  夢2<●>{夢};

L1     ▽MU――悟る>,

       無為無策(▽MU)――滅ぼす> ▽MU;

       総動員(精神力(▽MU)) <○> 希望;

M1     ▽MU――意図> ▽MU/@夢5;

M3     (小さな,一個の)ボルト――現れる>/@夢5;

M6    ▽MU――考える> ボルト(M3);

M9   「ボルト」<頭韻>「暴動」;

N2     M9 <○> 象徴((▽MUの)滅亡,転覆,死);

O2     ▽MU――闘う> (滅亡の)象徴/@夢5;

O3     ▽MU――消す> (滅亡の)象徴/@夢5;

O5     ▽MU――考える>「▽MU/@現実 <?> ▽MU/@(別の)幻覚」;

O6     ▽MU――(弱い)判断> ▽MU/@現実;

O7     ▽MU――can●確認> ▽MU/@現実;

O21    ▽MU――見まわす> *g「光景/@現実(?)」,

       ▽MU――感じる>  *g<●>本物;

P13    ▽MU/@夢i ――はまる> ▽MU/@夢j,

▽MU――見る>夢(j=i−1),

▽MU/@夢(i−1)――なる> ▽MU/@夢(i−2)

P17    ▽MU――張りあげる>声/(喉――may破れる>),

▽MU――叫ぶ> 「兵士――突く>槍>体(▽MU),

兵士――>>▽MU――覚ます>目;」;

P20    ▽MU――もがく>

 「▽MU/@夢(反逆$不忠$暗殺――横行する>)

――戻る> ▽MU/@夢(王座);」;

P21    夢――(鼠算式に)殖え>/@体内(▽MU);

P24    *a「土台(▽MU)」――震え戦く>,

/*aから/

▽b「夥(おびただ)しい親類縁者,二心ある捨て子の王子,

やぶ睨みの王位簒奪(さんだつ)者」

――現れる>/ぞろぞろと/;

P25    {▽b}――●知る>,

       ▽b<?>産物(過去の夢),▽b<?>産物(現在の夢),

       *c「▽b(i?)――見る> ▽b(j?)」,

       *c――意味する> ◇? ,<※]◇? ,

       {▽b}――襲いかかる> ▽MU,

       {▽b}――殺す>▽MU,

{▽b}――>>▽MU――生き返る>;

P27    P24,P25 [※> ,

       /心(▽MU)から/

       幻の妖怪変化――とびだす>/どっとばかりに/,

    [※> 負荷――かかりすぎる> ▽MU,

    [※> ▽MU――爆発>,

        ▽MU――燃え上がる>;

 

 初めて、これらを見る人には、長い記号の模様と映るかもしれないが、これでけっこう濃縮されていて、コア翻訳文だけを印刷してみると、A4の紙で高々4枚に過ぎない。出展の本はA5サイズで、1ページ19行、各行46文字入るポイント(印刷文字のサイズ)として、「ムルダス王物語」は15ページとなっている。このスペースを文字総数として計算してみると、46×19×15=13110[文字]となる。これに対して、印刷したコア翻訳文のほうは、40×36×4=5760[文字]である。ここから、5760/13110×100=44[%]の濃縮率が得られる。ただし、コア翻訳文は視覚的な効果を利用して、意味の構造を見やすくするため、多くの場所にスペースを組み込んでいる。これを省略すると、文字数も大きく変わる。いや、(上記のコア翻訳文を見ると)あまり変わらないか。

 「思考言語コア練習帳」においては、これらのコア翻訳文と、自然言語の本文の双方を載せてある。これらに対して、必要な情報を鳥瞰して探すときの効率を比較すると、大きな違いがあることが分かる。ただし、これについては定量的な評価がむつかしい。個人差が影響するし、テストの問題設定の内容にも影響される。

 「ムルダス王物語」における登場ロボットは、ほとんど「ムルダス王」だけである。厳密には「兵士ロボット」や「お抱え掃除人(掃除ロボット)」も存在しているのだが、あまり重要な役は与えられていない。ただ、一人(一台)ツェナンデル叔父が、狂言回しの役で、たびたび登場する。このロボットに関しての性格描写などはほとんどなく、黒子ほどではないが、仮面をかぶった狂言役者のような存在に見える。上記のコア翻訳文ではツェナンデル叔父の仮代名詞を▽OJとしたので、この記号が含まれているところだけを、次に抜き出してみよう。

 

▽    OJ「ツェナンデル叔父」

 

A27,A28 ▽OJ「ツェナンデル叔父<○>▽MUの後見人」;

戸棚の目玉 <似る>▽OJ;

F3      ▽MU ――死刑> ▽OJ(叔父のツェナンデル);

I1,I2   ▽MU――見る>夢1(▽MU)「▽OJ――組織>陰謀;」;

I12     *CC「首都の古い中心街(▽MU)」;

        *b「{▽OJ,策謀(▽OJ)}<○>幻想(<生む――悪夢の妄想)」;

        *CC(▽MU)――●気付く> *b;

I13     ▽MU――見る>「▽OJ――動きまわる>/熱にうかされたように;

                 ▽OJ――召集> 一族郎党;」;

I17     ▽MU――奮戦>/二度;▽MU<弱>//▽OJ;

     [※>▽MU――覚ます>目/「▽MU――震わせる>全身(▽MU);」;

K3     夢2(<牛耳る――▽OJ)――描く> 兵器庫(強力な爆弾,地雷);

K17 [if]▽MU――思う> 安全 ,<※]▽MU/@現実(目が覚めている),

    [→]▽MU――●見る> 夢3(▽MU――can対抗>敵);

   [&if][●]「▽MU――思う> ▽MU/@現実」,

[○]「▽MU/@夢2(▽OJ)」,

    [→]▽MU<○>破滅(▽MU);

K21 [→]▽MU<●/☆永遠に>▽MU/@現実,

▽OJ――>>▽MU――?>;

K27    夢――存在> ,<※] 現実(<戻る――◇/@夢から)――存在>;

 [if]{▽OJ}――>> ▽MU/@夢2,

    [→]▽MU――may●戻る> /@現実;

 

 段落Aでツェナンデル叔父を最初に紹介するときの方法が変わっている。一台だけ見つかった、占い箱としての戸棚についていたルビー色の目玉の、その目付きが、ツェナンデル叔父にそっくりだと描写している。なんとも、遠まわしな言い方だ。しかし、物語の伏線として組み込む技法としては、けっこうしゃれている。

 このツェナンデル叔父の具体的なイメージについても、レムは直接説明しないで、今回はコア翻訳していないが、F2の文に、「アップライト・ピアノのふりをして、なんとか死刑を逃れようと」したことが述べられている。ピアノについては詳しくないので、アップライト・ピアノの形状をイメージすることができないのが残念だが、何か箱のようなものに近いのだろうか。

 しかし、続くF3の文において、ムルダス王はツェナンデル叔父についても「首を斬り落」したことを述べている。だから、単なるアップライト・ピアノ似のロボットというだけではなく、斬り落とすことのできる首と、それに乗っていると想定される頭部をもっていなければならないわけだ。目付きについては段落Aで描写済である。

 この後、ツェナンデル叔父は、ムルダス王の見る夢の中に何度も登場し、重要な役割を演じてゆく。しかし、ていねいにコア翻訳してゆくと、ツェナンデル叔父が現れる夢は、コア翻訳で識別したところの、夢1と夢2に限定されている。ところで、このときの夢1と夢2は、仮に数字を異ならせて識別しているものの、実は同一のものであることがI9で説明されている。

 

I9   <※]▽MU――考>「▽MU――覚める>/夢1から」,

        /実際には/ ▽MU――●覚める>/夢1から;夢1<○>夢2;

 

 この夢2については、ツェナンデル叔父が支配権を持っているらしい。

 

K3     夢2(<牛耳る――▽OJ)――描く> 兵器庫(強力な爆弾,地雷);

 

 どうやら、ツェナンデル叔父は(ムルダス王が見ている夢2では)反乱軍のリーダーを務めているようだ。なかなか重要な役割である。

 

 この「ムルダス王物語」が難解なものになってゆくのは、ムルダス王が国家そのものになってしまうからである。このようなムルダス王の(物理的な)形状(つまり、ロボットとしての体のこと)について、ふれている箇所を集めてみよう。

 

ムルダス王の(物理的な)形状

 

B       ▽MU ――(方目だけで)見る> 黒いカード @自分の部屋;

G10     ▽MU ――固定> 体(▽MU) >王座 /ボルトで;

        <※][●]▽――引きずり降ろす> ▽MU /王位から;

G17     *a「お抱え建築師,電子匠,極板金細工師,轆轤(ろくろ)師」;

▽MU――>>{*a}――>>体(▽MU)――なる>大きな体

/地平線のかなたまで広がるように;

G22     ▽MU <○> 城下町 /☆2年ががりで;

G25     ▽MU <○> 首都そのもの;

G26     ▽MU ――広がり続け>,

        ▽MU ――のりこえる> 町の境界;

G29     ▽MU ――存在> /すべての場所/同時に:

    [※> [●]▽MU ――歩いてゆく> @どこへも;

G35     ▽MU <○> もの <大>///この世のもの;

        ▽MU <○> 王国/そのもの;

[※> ◇――隠す> 身(己)(を)> 随所(に)/<要求――占い;

I10     *DT「下町の一郭(▽MU)――企む>反政府的な夢1」;

        *DT(▽MU)――●覚める>/夢1から;

        *DT(▽MU) <束縛―― 悪夢(夢1);

I11     ▽MU――●気付く> ◇(I10);

I12     *CC「首都の古い中心街(▽MU)」;

        *b「{▽OJ,策謀(▽OJ)}<○>幻想(<生む――悪夢の妄想)」;

        *CC(▽MU)――●気付く> *b;

 

 段落Bの文で何がわかるかというと、ムルダス王は占い箱から出た黒いカードを見るとき、(なぜか)用心のため、片目だけを使っているのだから、おそらく、ムルダス王は、一つ目や三つ目(あるいは、それ以上の複眼)ではなく、二つの目をもっているということである。

その後、ムルダス王の物理的な形状は激変する。G10での論理がとぼけている。王座から引きずり下ろされまいと、王座にボルトで、ムルダス王自身のロボット体を固定してしまうという発想は、日本では漫才か落語でたびたび現れるものである。寓話なのだから、これでよいのだろう。さて、こんなことをしてしまったら、次の展開としては、王国中に監視装置を設置して、王座の前にマルチスクリーンのディスプレイでも置いて、散歩する楽しみの補償をするか、この物語で採用されている、王国そのものまで、自分自身を広げてしまうかということなのだろう。G17〜G35まで、そのことのプロセスが詳細に語られてゆく。もちろん、自然言語による本文では、(あたりまえのことだが)もっと豊かに表現されている。

接続の配線がおかしかったのか、それとも、情報を集めて論理的に考察するアルゴリズムに欠陥があったか、あまりに巨大化したことの帰結として、(地球における)人間でいうところの人格分離という現象が、ロボットであるムルダス王にも起こることになる。今ではムルダス王の体の一部であるものの、下町の一郭(*DT)は反政府的な夢1(夢2とつながっている)を見ており、一方、首都の古い中心街(*CC)は、下町の一郭が見ている夢が、ただの幻覚であるということに気付いていない。段落Kのところで説明されているが、首都の古い中心街が見ようとしているのは、反政府的な夢1に対抗するための、夢3なのである。同時に全く異なる夢を見るという現象は、(人間としては)体験しづらいものである。おそらく、ムルダス王の意識を演算するメインコンピュータはマルチタイプなので、並行処理が可能となっているのだろう。(地球の)人間においても、(眠っているときでも目覚める時間のことを気にしている)潜在意識と(寝ぼけ眼で目覚まし時計のスィッチを切ろうとしている)顕在意識は、ひょっとすると別々の夢を見ているのかもしない。

 

  そろそろ、ムルダス王物語で重要なテーマとなっている(と想定される)ムルダス王の意識の変化について考察することにしよう。

 

ムルダス王の意識変化

 

A〜Dブロック

A5,A6   ▽MU ――恐れる> *af(5)「自分の未来を予言されること」;

▽MU ――命じる>「◇――殺せ>(すべての)占い師;」;

A23,A24 「▽MU ――試みる> 占い」<●> 悪いこと;

B       ▽MU ――(方目だけで)見る> 黒いカード @自分の部屋;

D3      ▽MU ――●疑う> 意味(占い◇C);

 

G〜Jブロック

G39,H   ▽MU ――見はじめる> 群れをなす夢 <○> 悪夢;

I6      ▽MU ――独り言> 「▽MU――見る>夢」;

J4      ▽MU ――悟る> 

「▽MU――見る> 夢3(▽MU――can対抗>敵)」;

 

Kブロック

K7〜K9   ▽MU――思いつく> *e「恐ろしい疑惑」,

<●> *f「▽MU――戻る>現実/本当に?」;

 <○> *g「▽MU――見る>夢4(●夢3)?」;

K12  [if]▽MU――●眠る>,[→]現実の世界<●>陰謀.[※> 安心;

K17  [if]▽MU――思う> 安全 ,<※]▽MU/@現実(目が覚めている),

     [→]▽MU――●見る> 夢3(▽MU――can対抗>敵);

    [&if][●]「▽MU――思う> ▽MU/@現実」,

[○]「▽MU/@夢2(▽OJ)」,

     [→]▽MU<○>破滅(▽MU);

K20  [if]▽MU――●望む> ▽MU/@現実(目が覚めている),[→]◇?;

K21  [→]▽MU<●/☆永遠に>▽MU/@現実;

K26     夢<○>◇?;

K27     夢――存在> ,<※] 現実(<戻る――◇/@夢から)――存在>;

 [if]{▽OJ}――>> ▽MU/@夢2,

     [→]▽MU――may●戻る> /@現実;

K28  [if]●/@現実,[&]/@夢2(――存在>),

[→] 夢2<○>(唯一の)現実;

K29   夢2<●>{夢};

 

L〜Pブロック

L1     ▽MU――悟る>,

       無為無策(▽MU)――滅ぼす> ▽MU;

       総動員(精神力(▽MU)) <○> 希望;

O5     ▽MU――考える>「▽MU/@現実 <?> ▽MU/@(別の)幻覚」;

O6     ▽MU――(弱い)判断> ▽MU/@現実;

O7     ▽MU――can●確認> ▽MU/@現実;

O21    ▽MU――見まわす> *g「光景/@現実(?)」,

       ▽MU――感じる>  *g<●>本物;

P20    ▽MU――もがく>

  「▽MU/@夢(反逆$不忠$暗殺――横行する>)

――戻る> ▽MU/@夢(王座);」;

 

 ムルダス王の意識に関わるコア翻訳文を集め、時系列順に、A〜Dブロック,G〜Jブロック,Kブロック,L〜Pブロックの4つブロックに分けて考える。

 A〜Dブロックでムルダス王は、自分の未来を予言されることを恐れ、占い師(ロボットであるから、占いの機器と考えてよい)を排除しようとするのだが、たまたま一台の(戸棚タイプ)占いロボットを見つけると、一度くらいは占いをしてみても良いだろうと、翻意してしまう。ここのところがなんともばかばかしい。その上、まんまと占いを信じて疑わなくなるのである。

どこかに、このようなパターンが紹介されていたぞ。たしか、恐れるものがあって、それを遠ざけようとすればするほど、それにまとわりつかれるから、最良の判断は、恐れるものがあっても、恐れていないふりをして、それが近づいてこようとも、まるで知らないようにしていることである、ということだ。よく吠える番犬の横を通るときの心構えに適用できる。ムルダス王の世界では、このような(地球における)犬と相同なタイプのロボットが生態学的地位を獲得していなかったのだろうか。

 G〜Jブロックでは夢のことが語りはじめられる。この夢というものは、ムルダス王物語において中心的なテーマとなっている。ムルダス王は悪夢といってよい夢を見はじめるのであるが、アンドロイドも電気羊の夢を見るらしいから、ロボット国の王も、何らかの夢を見るのは当然のことなのであろう。ムルダス王の意識について着目すると、最初はまだ「夢を見ているにすぎん!」と判断している。このまま、何度も、この呪文を唱え続けていれば、物語の結末は異なったものになっていたはずである。しかし、ムルダス王は夢に関わりだし、夢の中の敵に対抗すことのできる夢3を見ればよいのだと、悟るのだが、このときの「悟る」は、「迷う」と言い換えたほうがよかったかもしれない。結果的には、そうである。

 Kブロックは夢についてのドラマであり、夢と現実についての考察であり、最も本質的な(と思われる)プロットが展開されてゆくところでもある。目覚めているのか、それとも夢の中なのか、どちらでもよいのかもしれないが、ムルダス王は「恐ろしい疑惑」を思いつく。夢3から覚めたと思っているが、実は、別の夢4を見続けているのではないか、という疑惑である。

(地球の)人間も、このような「夢から覚める夢」を見ることがある。すると、動かそうと意図しても体が何かに押さえつけられているかのように、動かなかったりする。押さえつけられているのは手足だけで、呼吸は続けているから、胸はかすかに動いているぞと、意識を移してしまうと、この夢から逃れることができる。あるいは、蒲団がまるで風にたなびく旗のように、真上に向かって激しくたなびいたことがある。このときは、もっと強く意志の力を使って、蒲団に「静まれ、ゆっくり降りてこい」と命じて、目覚めることができた。

いいや、ここで問題になっているのは、そういうことではないかもしれない。ムルダス王の場合、夢の中では敵が存在し、王の政府を転覆しようという陰謀が仕組まれている。しかし、ここでも「夢を見ているにすぎん!」と意識して、これらの悪夢をほおっておけたら、何も変化しなかったかもしれない。ところが、「現実に戻ったと考えているだけの夢を見続けているのかもしれない」という脅迫観念に犯されてしまったので、状況が複雑怪奇なものになってゆくのである。先走るのはやめよう。本当に、本当は、(地球の人間にとっても同じことなのだが)この現実というものは、夢の一種ではないのだろうか。夢と何が異なるのだろうか。人間ははたして、夢から現実に戻ってきているのだろうか。それとも、全く逆で、現実世界から夢世界に戻っているのだろうか。古来から、この問題は多くの人々の心をゆさぶってきた。ああ、ムルダス王物語に戻らなくては。

 L〜Pブロックでの最初の段落Lでは、夢か現実か判断できないとしたら、夢である可能性だけを信じて無為無策でいると、現実であったときに、破滅へと向かってしまうから、戦略的には、たとえそれが夢であったとしても、精神力を総動員して、敵を打ち負かすように試みるべきだと「悟る」のである。ここの「悟る」は「悟る」のままでよいだろう。これはゲームにおける戦略と同じ考え方である。間違ってはいまい。ところが、ムルダス王は、これに続く戦略をうまく組み立てることができなかった。段落Oで、現実なのか夢なのかという判断にこだわり続け、現実だと思って見ている光景が、「本物」らしくないということに気がつくのである。現実は本物で、夢は偽ものだと判断するのは、戦略上まずいのだということに気付かなかったのだ。段落Lでは、現実と夢とを対等に評価して戦略的な判断を生み出したのに、ここでは、その方針が崩れてしまっている。

最後の段落Pは、現実においても起こる崩壊のプロローグになっている。そもそも、王座にボルトで固定するという行動が、このような結末を導いたと見れば、この物語は、まったく「(夢と現実のあい混じった)宇宙の法則」のようなものに、うまく沿っている。もがけばもがくほど、夢にからまれ、現実をねじまげ、どうにもならなくなる。

 いまさらながら感心してしまう。なんと見事な寓話になっていることか。

 
「思考言語コア」へ