思考言語コア練習帳

黒 月 樹 人

2003年10月5日
 思考言語の矛盾

 思考言語コアを使いこなせるようになると、これまで読めなかった本が読めるようになります。とはいえ、そのような段階に至る前に、まず、思考言語コアの文法や応用について述べてある「思考言語のアイディア」が最後まで読めないという困難にぶち当たる人が多く現れます。どのようなものも跳ね返す盾と、どのようなものをも突き通す矛の物語と似ています。しかし、全く同じではありません。思考言語コアが矛で、難解な本が盾だとすると、思考言語コアに習熟するということは、青銅でできた矛を鋼の矛に取り替えるということに対応するのです。このような操作に対応する変化を生み出すためには、自らの思考力を研ぎすます努力が必要となります。つまり、思考言語コアを使いこなせるためのトレーニングを積み重ねないと、すぐに知能が高まるというわけではないのです。このあたりの事情は数学の能力にも類似しています。方程式の考え方を習うということで、思考能力を高める可能性は少し開かれるわけですが、様々なパターンについて、実際に方程式を解く練習をしないと、うまく使いこなせないものです。数学には王道がないのと同じで、思考の能力を高めるためには、同じように自分の頭を使って、考える練習をする必要があるのです。

 

 対象語と関係語

 思考言語コアでは、自然言語で表された表現の中から、(英語での)主語や目的語を対象語として取り出し、それらの関係を、動詞などの関係語で対応づけるという見方をとっています。具体的な例文をあげて練習してみましょう。

 

文1

名君の誉れ高いヘリクサンドル王が亡きあと、王位を継承したのはムルダス王子でした。

(スタニスワフ・レム作「ロボット物語」の「ムルダス王物語」から)

 

 

いきなり複文から始まりますが、この文1の前半における主語は「ヘリクサンドル王」で、後半における主語は「ムルダス王子」であることは、分かりやすいと思います。次に目的語ですが、これについて考えるには、動詞が自動詞であるか他動詞であるかを判定する必要があります。「ヘリクサンドル王」は「亡くなった」のですから、「亡き」が動詞で、これは自動詞ということになり、目的語はもちません。これに対して、「ムルダス王子」は「王位を継承した」のですから、「継承した」が他動詞で、そのときの目的語が「を」のついている「王位」ということになります。

文1における対象語(主語と目的語)を 青で、関係語(ここでは自動詞と他動詞)を

赤で 書くことにすると、次の文1Aのようになります。

 

文1A

名君の誉れ高いヘリクサンドル王亡きあと、王位継承したのはムルダス王子でした。

 

 

 思考言語コアでは、関係語の動詞については、動詞の意味部分を尻尾「――」とくちばし「>」ではさみこみます。「継承した」という動詞の場合、「――継承した>」と表現することになります。ここでは意味部分を「継承する」(原形あるいは現在形)ではなく「継承した」としているので(過去)時制も組み込んでいます。しかし、このときの過去形は物語を語るうえでの文体が影響しているだけなので、「――継承>」でもかまわないでしょう。この矢印状のシンボルは、主語から目的語に向かうことにします。「亡き」は「亡くなった」という自動詞ですが、向かうべき目的語を持っていません。しかし、主語から外に向かうという原則だけは守ることにします。意味部分についての記述は、意味が分かる程度に省略してもよいと考えます。そこで「亡き」あるいは「亡くなった」は「――亡>」としましょう。

 

文末記号(;)(。)

 思考言語コアでは、文末を示す記号を「;」としています。実は、コンピュータ言語のCの文末記号を流用したのです。しかし、日本語の句点「。」を文末記号としてもよいでしょう。英語で用いられているピリオド「.」は、当初別の役割をもった記号として使うことにしたので、こうなったのです。しかし、現在のコアではピリオドを、どこにも使っていません。

 文1Aには他の要素もまだありますが、それらを一時的に無視して、対象語と関係語(ここでは動詞)のみを取り出して、コアの表記法で表してみましょう。

 

文1B

ヘリクサンドル王――亡>ムルダス王子――継承>王位

 

 

 意味についての骨組みが、よく分かるようになっています。ここで無視した「名君の誉れ高い」と「あと」と「でした(しかし、この部分の意味は「継承した」に含まれているので、省いてもよいでしょう)」についてコアで表現することもできるのですが、ここでは忘れてしまいましょう。思考のイメージを分かりやすくするためには、特に必要なものでない限り表現上の細かい技巧については知らないふりをしたほうが良いのです。

 このような(やさしい)文を、わざわざコア翻訳する必要がどこにあるのかと考えることがあるかもしれません。実は、そのとおりなのですが、ここでは、コア翻訳の内容を分かりやすく説明するために、自然言語の表現のほうも、あえて分かりやすいものを選んだということなのです。そして、このような文学作品の文章であるからこそ、多様なパターンの表現が含まれていると考えたからでした。これらがうまくコア翻訳できたら、法律の条文などは、単にこみいっているだけで、同じような表現が繰り返されているだけだということが分かります。

 次の文について考えることにします。

 

文2

ところが、民(たみ)はそれをよろこびませんでした。

 

 

 接続語

 文2の最初にある「ところが」のことが気になります。思考言語コアでは、これを接続語と呼んで、[ ]で囲い、文と文の関係をあらわしていると見なします。だから、接続語は関係語の一種ということになります。時として、接続語の意味を効果的に表現するため、記号に向きがあったほうがよいときがあります。そのときには、[ ]ではなく、[ > や< ] のような括弧を使います。このときの「ところが」なら、[ ] でも良いでしょう。

このような接続語の処理と、前記の対象語と関係語(動詞についての)関係語を色分けする処理を、次の文2Aで行います。

 

文2A

[ところが] 民(たみ)それよろこびませんでした

 

 

 否定の記号●

 文2Aに現れている関係語は「よろこびません」ですが、これの主要な意味部分は「よろこぶ」という他動詞でしょう。ただし、これの否定です。文の意味の構造を調べるとき、肯定文であるか否定文であるかという判断は、仮に片方が真であるとき、もう片方が偽となったりするほど、重要な違いになることがあります。そこで、思考言語コアでは、幾つかの否定記号を認めていますが、よく使うのは、相撲の黒星で名高い「●」のシンボルです。次の文2Bに表したような位置に入れることにしています。

 

 

文2B

[ところが] 民(たみ)――●よろこぶ> それ

 

 

 *(アスタリスク)記号

 自然言語での表記から、形式的に思考言語コアへと、おおまかに翻訳しているわけですが、ここで用いられている「それ」をあいまいなままにしておくのでは、自然言語とあまり変わらないことになります。思考言語コアでは、このような場合、*(アスタリスク)記号をアルファベット文字などにつけた「*a」などを、仮に使う指示代名詞の役割で用います。この方法を説明するためには、文1も必要なので、次の文1B_文2Bを見てください。

 

文1B_文2B

ヘリクサンドル王――亡>ムルダス王子――継承した>王位

[ところが] 民(たみ)――●よろこぶ> それ

 

 

 これらを読むと、「それ」は、どうやら「ムルダス王子――継承した>王位」のようです。このとき、次のような書き方で*aの内容が「ムルダス王子――継承した>王位」であることを示すことにします。

 

文1C(後半)

  *a「ムルダス王子――継承した>王位」;

 

 

 このように定義したので、「それ」を「*a」で置き換えます。*aの内容は文になっていますが、「それ」の代わりに使われるときは、目的語としての対象語になってしまいます。このあたりの文法については、おおらかに考えておきます。意味の構造が分かりやすくなれば、それでよいのですから。

 

文1C_文2C

ヘリクサンドル王――亡>,*a「ムルダス王子――継承した>王位」

[ところが] 民(たみ)――●よろこぶ> *a;

 

 

 

 次の文3は、こうです。

やはり、ここでも、対象語は青で、関係語は赤でマークしておきます。

 

文3

かれ野心懐(だ)く卑劣な人物だったからです。

 

 

 理由を示す接続語 <※]

 ※ の記号は注釈を加えるときに、よく用いられます。これを使った接続語を考えます。たとえば「A<※」B」のように並べたときは、「Aである理由はB」という意味になります。文3では「からです」のところが、この <※] に相当します。文3に、この接続語を適用すると、次の文3Aのようになります。

 

文3A

<※] かれ野心懐(だ)く卑劣な人物だった

 

 

 人を示す記号 ▽

 文3において「かれ」とは、文意から「ムルダス王子」のことでしょう。この名前はこれからも何度も出てきますので、何か短い表現で書けるようにしておきます。このとき、人を表す記号として ▽ を用い、アスタリスク記号(*)の代わりに、「ムルダス王子」を象徴する何らかの文字の前につけて区別しやすくしておきます。

 

文3B

  ▽MUムルダス王子」;

 

 

 アスタリスク記号をつける代名詞などの使い方として、一つの段落内などの狭い範囲で定義の意味が有効なものと、すべての段落にわたって定義の意味が有効なものとを使い分けると便利です。しかも、これらが記号としての形態的に一目で識別できるということが要求されます。そこで、*a,*mU など、アルファベットの小文字で始まる象徴記号をもっているものを狭い範囲で使い、*A,*Mu など、アルファベットの大文字で始まる象徴記号をもっているものを広い範囲(文全体など)で用いることにします。

 人を示す記号▽がついたものについても、同様の規則を適用します。このため、文3Aでは「ムルダス王子」を ▽MU としたのです。もちろん、▽M でも ▽Mu でも ▽Murudas でも良いのですが、長くすると扱いづらいし、短すぎると他の記号と混乱したり忘れたりしやすくなります。 ▽MU や ▽Mu が妥当なところでしょうか。

 ▽ム のように書く方法もあるわけですが、日本語のカナなどは一文字でも意味をもつものがあって、混乱しやすくなるので、あまり使っていません。ムを○に入れた記号を使って ▽㋰ のような表記を採用することも可能です。ただし、特殊記号なので呼び出しにくくなり、ワープロでは操作しにくくなります。もちろん手書きなら何でもありでしょう。好きにしてください。

 

文3C

<※]▽MU「ムルダス王子」が 野心懐(だ)く卑劣な人物だった

 

 

 双動詞記号 < >,――< >,< >――,――< >――

 「双動詞」というのは私の造語です。歴史の学習をしていると、「A国とB国が戦争をしている」という状況がしばしば現れます。この状況を尻尾(――)とくちばし(>)をもった動詞形で表そうとすると「A国――戦争>B国,B国――戦争>A国」となるかもしれません。最初のA国と最後のA国は同じですから、一つにまとめたほうが分かりやすくなることでしょう。学習ノートでしたら、次のように書くかもしれません。

 

 

A国

――戦争>

<戦争――

 

B国

 

しかし、「戦争」を二度も書くのはめんどうです。A国とB国は「戦争状態にある」ということなので、次のような記述形式を採用することにしました。

 

A国 ――<戦争>―― B国

 

「双動詞」というのは、このような状況を表現する言葉です。つまり、二つの対象が互いに同じことをしている(――*>,<*――)ということを、一つの動詞としてまとめた(――<*>――)のです。基本形は ――<*>―― ですが、どちらかの尻尾を省略した ――<*> と <*>―― は、尻尾の上下にある対象が * という関係にあるということを表したいときに用います。たとえば次のような状況です。

 

A地域  ――<戦争>―― B連邦

 <連合>――――          ――――<不可侵>

C共和国 ――<同盟>―― D王国

 

ここでは、「A地域――<連合>――C共和国」と「B連邦――<不可侵>――D王国」の関係も記述されているのです。尻尾をすべて省略した「<*>」という記号は、二つの対象が離れていないときに用います。

 

A地域 <戦争> B連邦

 <連合>――――    ――――<不可侵>

C共和国 <同盟> D王国

 

図式コア

ここまでするのだったら、次のような記述でも理解できるでしょう。関係語の尻尾(――)をすべて取り去ってしまうのです。ただし、これは対象語がうまく配置できるときに限る方法です。このような表現を図式コアと呼びます。図式コアでは文末記号をどこにつけるかという問題を無視することにしています。(あえてつけるなら右下でしょうか。)

論理の都合上や、時間の経過のため、これらの関係に順番がつくようなときは、丸で囲んだ数字(①,②,③,④など)を関係語の < > の中に添えるようにします。

 

A地域 <戦争> B連邦

<連合>     <不可侵>

C共和国 <同盟> D王国

 

A地域 <④戦争> B連邦

<②連合>     <①不可侵>

C共和国 <③同盟> D王国

 

ようやく「ムルダス王物語」に戻る準備が整いました。「双動詞」は「二つの対象の状況」を表すのですから、この「二つの対象」が「実際は同じものの、二つの側面」であってもおかしくないと考えられます。たとえば、「D王国は平和主義である」といった、主語(D王国)と述語(平和主義)の関係も、ここにあげた双動詞(――<*>――,,,<*>)で表現することができます。問題は「*は~である」という(英語でいうbe動詞の)部分ですが、思い切って「――<>――,,,<>」としました。ここで「ムルダス王物語」に戻りましょう。文3Cは次のように変わります。

 

文3D

<※] ▽MU「ムルダス王子――<>―― 野心懐(だ)く卑劣な人物

 

 

 右側の対象群が、まだすっきりしません。対象語が二つと関係語が一つ含まれています。次のように変えましょう。

 

文3E

<※] ▽MU「ムルダス王子――<>―― 卑劣な人物 ――懐(だ)く> 野心

 

 

 このときの文の意味を考えると、ここに挙げた三つの対象は、一つの(象徴的な)対象の三側面であるといえますから、もっと簡単に記述することができます。

卑劣な人物 ――懐(だ)く> 野心」も「卑劣な人物 ――<>―― 野心」とさほど変わりません。さらに、これらの三つの対象は、もともと同じ一つのものなのですから、わざわざ遠くに離しておく必要もないでしょう。次のように変えてしまいましょう。

 

文3F

<※] ▽MU「ムルダス王子<> 卑劣な人物 <> 野心

 

 

(強い)肯定の記号○

否定の記号(の代表)が ● ですから、これに対して、(強い)肯定の記号を ○ とします。仮に「ムルダス王子が野心とは無関係な好人物」であったとすると、次のように、否定記号と肯定記号をほどよく使ったほうが、見やすくなります。

 

文3G(偽)

▽MU「ムルダス王子<○> 好人物 <●> 野心

 

 

主語が「ムルダス王子」であることを意識した表現として、次の文3H,文3Iのようなものもあります(<○>は<>のままでもかまいません)。

 

文3H(コンマ,を使う)

<※] ▽MU「ムルダス王子<○> 卑劣な人物 <○> 野心

 

文3I(コンマ,を使い、さらに行分けする)

<※] ▽MU「ムルダス王子<○> 卑劣な人物

 <○> 野心

 

 

4番目の文に移りましょう。

 

文4

 かれは自ら大王名乗ることにしましたが、実はたいへんな臆病者だったのです。

 

 

 二つの目的語をとる動詞(――>*>*)

 英語の文法を学習していると、「目的語をもたない自動詞」、「目的語を一つもつ他動詞」の次に、この「目的語を二つもつ他動詞」のことが現れることでしょう。「間接目的語」と「直接目的語」といったでしょうか。むつかしくなるので、もっと簡単に呼びましょう。つまり、ここで考える二種類の目的語は(日本語では)「を」のつく目的語と「に」のつく目的語のことです。たとえば、ムルダス王物語の8番目の文を先取りすると、次のようになります(文頭の言葉「そしていっぽう」を省略)。ここには書かれていませんが、前に書かれている文から、この文8の主語はムルダス王であることが分かっています。

 

文8

 幽霊退治の機械(からくり)考案したには勲章年金与えたのです。

 

 

 説明の準備をします。次の用語(▽考案者)を定義しましょう。

 

 

   ▽考案者「者 ――考案> 幽霊退治の機械(からくり)」;

 

 

 これで簡単になりました。「▽MU」は定義したときにはまだ「ムルダス王子」でしたが、文8の時点では「ムルダス大王」になっています。しかし、(厳密に比較する場合を除いて)そんなことはどうでもいいことなので、この対象の呼び名は「▽MU」としておきましょう。

 

文8B

 ▽考案者者 ――考案> 幽霊退治の機械(からくり)」;

 ② ▽MUは ▽考案者に 勲章年金を 与えた

 

 

 普通は①や②をつけませんが、ここでは説明のためにつけておきます。

 二つの目的語をとる動詞というのは、文8B②の「与えた」です。「に」のつく目的語(▽考案者)と「を」のつく目的語(勲章年金)がはっきり現れています。

 「与えた」は「――与えた>」とコア翻訳できます。ここでは抽象的なもの(勲章年金)が与えられていますが、もう少し具体的なものを与えているイメージを考えましょう。

たとえば卒業証書が校長先生から生徒に手わたされるときの、幾つかの対象について、位置関係を考えると、「校長先生(の本体),(手わたすための)手,卒業証書(を),生徒(に)」ように並べたほうが自然です。「手」は「手わたす」という動詞のシンボルです。このようなイメージから、思考言語コアでは、この例文を次のように表すことにします。

 

 

   校長先生 ――手わたす> 卒業証書(を) 生徒(に);

 

 

 ムルダス王物語の文8Bに戻りましょう。文8B②は、次のようになります。

 

文8②C

 ② ▽MU ――与えた> 勲章年金(を) ▽考案者(に);

 

 

 「を」のつく目的語と「に」のつく目的語の自然な配置をこのように決めておくと、「(を)」や「(に)」を略すことができます。しかし、(コア翻訳文に)慣れないときや、意味が分かりづらいときには、残しておいたほうがよいかもしれません。

 

文8D

▽考案者者 ――考案> 幽霊退治の機械(からくり)」;

 ▽MU ――与えた> 勲章年金  ▽考案者

 

 

 「かつ」(∧,&)と「又は」(∨,$

 論理的な文章を読んでいると、「かつ」と「又は」という接続詞がたびたび現れます。これの記号としては、「∧(かつ)」や「∨(又は)」があります。数学の分野での数理論理学などでも、これらの記号が用いられていますが、最近の英語の(数理論理学の)本では、区別がつきにくいということなのでしょう、「∧,∨」のペアの代わりに「&,∨」が用いられています。これで十分でしょうが、「かつ」の記号が二種類あるのに、「又は」の記号が一種類しかないというのは、思考言語コアの方針にそぐわないので、思考言語コアにおいてという制限をつけて、「$」を「又は」の記号として採用することにしました。数字に$をつけるときは「ドル」という意味になるでしょうが、他の文字や記号に$をつけるときは「又は」という意味になるものとするのです。ささやかな変更ですが、文8Dは、次のようになります。

 

文8E

▽考案者者 ――考案> 幽霊退治の機械(からくり)」;

 ▽MU ――与えた> 勲章年金  ▽考案者

 

 

文4に戻らねばなりません。文4は二つの文に分けることができます。

 

文4B

       ▽MUは 自ら 大王と 名乗ることにしました

       [が] 実は たいへんな臆病者 だった のです。

 

 

 文4B①は、二つの目的語をとる動詞(――>*>*)を使う表現の「ムルダス王子は自分で自分自身に大王という名を与える」と同じ意味構造をもっていると考えることができます。文4B②の「だった」は双動詞(<○>)ですませることができるでしょう。これらのことから、文4Bは、次のようになります。

 

文4C

 ▽MU ――与える> 大王という名  ▽MU

②[が] ▽MU <○> たいへんな臆病者

 

 

次の文に移りましょう。

 

文5

かれには怖がっているものたくさんありました

 

 

 (修飾語)

 「対象語」を「中心的な対象の語」と「それを修飾する語」に分けたいときがあります。

簡単に言うと、(英語での)「名詞」と「形容詞」に分けて、名詞のほうに注目したいということです。このとき、修飾語として分類される「形容詞」を( )の中に入れてしまいます。数学でよく使われる関数の表現で F(x) というスタイルがあります。このときのFが名詞でxが形容詞とすることもありますが、(xの)F というスタイルで押し通してもかまいません。

 「関係語」についても「中心的な意味部分」と「それを補う表現」とに分けたいときがあります。簡単に言うと、(英語での)「動詞」と「副詞」に分けて、修飾語として分類される、「副詞」のほうを ( )の中に入れるのです。「関係語」には「(ただの)動詞」と「双動詞」がありました。代表的な書式は ――*> と <*> です。――*> の場合、副詞を入れる ( )は ――( )*> がよいと思われます。動詞の意味部分である * がくちばし > に近いところにあって、動詞であることを見やすくするからです。しかし、――*( )> の書式を誤りとは言いません。一方 <*> の場合は <( )*> と <*( )> のどちらでも問題はないと考えられます。

 

 /状況語/

 この状況語というのは、英語での前置詞(atinonfortoby,...)をつけて説明される表現のことです。様々な状況が(英語では)前置詞で分類されています。思考言語コアは日本語の世界で生まれましたから、これらの前置詞が示す意味部分は/ /の中に書き込んでしまうことができて、とても簡単なルールになります。古い思考言語の表現では、場所を表す(前置詞)のような記号を「凹」の閉じられた領域を塗りつぶして、少し低くしたものでデザインしたことがありますが、その後10年の間に、「@」という記号が「場所」や「住所」の(前置詞と同じようにして使える)記号として、世の中に広がってしまいました。思考言語コアは、(おいしそうなものは)何でも(勝手に)吸収するので、この「@」もいただきます。「時間」に関する記号も考えました。「☆」です。「理由」の記号は「※」でした。英語の「by」に対応する、「手段」や「方法」の記号もほしいのですが、あまりしっくりするものがありません。しかし、どんどん記号を増やしてゆくと、だんだん暗号に近づいてきます。10年前にひっかかった落とし穴に再びはまるのは避けなければなりません。意味を思い出しにくい記号を使うより、/手段/***/,/方法/****/ とするスタイルを認めておくほうが、応用範囲が広くなることでしょう。// /

と三本も/をつけると長くなるので、誤解が生じないときには、状況語には少なくとも一本の/をつけるだけでよいということにします。

 

文5A

af「(▽MU――怖がっている>)もの」――(たくさん)ある> ▽MUには;

 

 

 次の文6のことを考えて、af「(▽MU――怖がっている>)もの」という定義を書いておきます。修飾語は形容詞に限らず、「▽MU――怖がっている>」のような、簡単な文のようなものも( )の中に入れることが出来るとします。「/▽MUには」を(文5のように)文頭におきたいときは、「/▽MUには/」としたほうがよいでしょう。

 

文6

隙間風幽霊ワックス――これは、ワックス塗った滑って折るかもしれないからです――それに親類縁者――こちらは、かれら国政口だしするかもしれないからです――なかでもいちばん恐れていたのは、自分の未来予言されることでした。

 

 

 「隙間風幽霊ワックス」という三つの対象は文5Aにおける*afに含まれるもののようです。ほかにも、「親類縁者」があって、最後に、この物語の展開上重要となる「自分の未来予言されること」が述べられます。これらの間に、「ワックス」が*afに含まれる理由と、「親類縁者」が*afに含まれる理由が挿入されています。これらのことを表現するには、幾つかの方法があります。*af(1)「隙間風」,*af(2)「幽霊」,*af(3)「ワックス」,*af(4)「親類縁者」,*af(5)「自分の未来を予言されること」のように、数字で識別し、*af(3)「ワックス」と*af(4)「親類縁者」については、理由の接続語 <※]を用いて、文6中の理由をつければよいでしよう。少し見慣れない表現になっているのは最後の部分、「なかでもいちばん恐れていたのは、*af(5)でした」というところです。英語での文法に言うところの「最上級」が現れています。

 

 比較級 <*>// と最上級 <*>/// 

 英語の教科書のような例えになってしまいますが、「トムはジョンより背が高い」という文章を、思考言語コアで表現するときには、「トム <背が高い>// ジョン」とすることにします。「トムはクラスでいちばん背が高い」という内容のときには「トム <背が高い>/// クラス(のメンバー)」とします。比較級のシンボル記号は//で、最上級のシンボル記号は///ということです。関係語が動詞になっても、同じように用いることができます。少し暗号っぽくなりますが、慣れると分かりやすいものです。

 

 文6の「なかでもいちばん恐れていたのは、*af(5)でした」というところは、最上級の一種です。「▽MU――恐れる>*af(5)///*af(1~5)」とすればわかりやすいのではないでしょうか。

 

 {集合}

 {*}は*の集合を表すことにします。ですから、「恐れているものの集合」は{*af}となります。

 

 助動詞(maycanmustwill,...)の流用と、新規定義past(過去),now(現在)

 「(▽MUが)足を折るかもしれない」という表現の「かもしれない」は英語のmayの訳そのままです。以前の思考言語では、これらの助動詞に対する記号も何とか設定しようとしていたのですが、こうすると暗号化が進んでしまいます。そこで、これらの助動詞が比較的短い単語でもあり、中学生以上の人々には親しまれているので、このままの単語を記号として使うことにしました。「▽MU――may折る>足」のように、組み込みます。

 未来の助動詞willがあるのに、過去や現在の助動詞は(英語に)無くて、語形変化で表しています。こんなややこしいことを思考言語コアで真似る必要はありません。ですから、過去や現在を示す助動詞を決めることにしました。過去の助動詞はpastで、(ほとんど使いませんが)現在の助動詞はnowです。

 

 「(する)こと」,「あること」の記号◇

 抽象的なできごとのシンボルとして ◇ を使ったのがはじまりでした。名詞句を作るときの(形式的な)主語として、◇ を用いることができます。「ワックス塗った」のように、主語が不明であったり、特定する必要がないときに、「ワックスを塗った床」という表現を「◇――塗る>ワックス(を)>床(に)」から転じて、「(◇――塗る>ワックス(を)>)床(に)」とします。次の文6Aでは、さらに一工夫しています。

 このような約束のもとに、文6をコア翻訳すると次のようになります。

 

文6A

{*af <○> af(1)「隙間風」af(2)「幽霊」af(3)「ワックス」

af(4)「親類縁者」af(5)「自分の未来を予言されること」af(3)<※]▽MU ――may折る> 

<※]▽MU ――滑る> @床(<ワックス<塗る――◇)

af(4)<※]▽(*af(4))――may口だしする> 国政

▽MU ――恐れる> af(5)///{*af

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の文7にも英語の単語を思い浮かべそうな表現があります。「王位に就くや」の「や」です。スタニスワフ・レムはポーランドの作家なので英語ではないわけですが、発想が似ているのでしょう。このときの「や」は「as soon as」という表現に対応しています。だからといって、英語に翻訳してしまったら、コアには存在意義がなくなってしまいます。ここのところは、単なる時間の経過を伝えているだけだと思われますから、①,②などをつけるか、そのまま順に並べておくだけでもよいでしょう。文7の意味構造として注意しておくべきは、「布告」の内容が、その後に並べられているということです。「ただちに」は状況語「/ただちに/」としてもよいし、「出して」という動詞の副詞としてもよいでしょう。この文7は練習問題にします。以後、思考言語コアの翻訳文がないものについては、これらを練習問題(ただし、青と赤の色の区別はしなくてよい)とし、後でまとめて回答例を示しておきます。

 

文7(練習問題)

 王位に就くや、ただちに王国の津津浦浦まで布告を出して、ドアは閉め、窓は開けてはならぬ、占師は一人も生かしておくな、と命じました

 

 

 次の文8はすでにコア翻訳済ですが、物語の流れ上、ここに再度記載しておきます。

 

文8E

▽考案者者 ――考案> 幽霊退治の機械(からくり)

 ▽MU ――与えた> 勲章年金  ▽考案者

 

 

 次の文9において、「お蔭で」のところは、理由の意味の接続語 [※> を用いればよいでしょう。「ついぞ」はあえて表現しなくてもよいと思いますが、あえて記述するなら、動詞「見なくてすんだ」の副詞になるでしょう。あまり細かな表現にとらわれずに、大まかな意味構造を、簡略に表現するというのが、思考言語コアの基本方針(ポリシー)なのです。

 

文9(練習問題)

 その機械はたいへんよく出来ていましたから、お蔭でムルダス王はついぞ幽霊を見なくてすんだというわけです。

 

 

文10(練習問題)

 かれは風邪をひくのが怖く、いちども庭へ出たことがありませんでした

 

 

 強調記号!

 次の文11に現れる「途方もなくただっ広い」という表現は「広い」を強調しているだけなので「広い!」とします。

 

文11(練習問題) 

ですから散歩といえば、途方もなくただっ広い宮中だけでした

 

 

文12(練習問題)

 あるときいつものように廊下と続き間を散策しておりますと、それまで一地も訪れたことのない、宮中の古色蒼然たる一隅に迷いこんでしまいました。

 

 

文13(練習問題)

 最初に発見した広間には、電気が発見される以前からあったネジ捲き式の、曾祖父に仕えた近衛兵たちが立っていました。

 

 

文14練習問題)

 つぎに覗いた広間には、蒸騎士たちが、これまた錆ついて立っていました。

 

 

文15(練習問題)

 しかし、それには興味がありませんでしたから、回れ右をしてそこから立ち去ろうとしました。

 

 

文16(練習問題)

 そのとき、<入るべからず>と書いた札が掛かっている小さな扉が目についたのです。

 

 

 

文17(練習問題)

 扉には埃が厚い層になって積もっており、その札さえなかったら、気にも留めなかったはずです。

 

 

文18(練習問題)

 札の文句に、かれはいたく侮辱されました。

 

 

文19(練習問題)

 これはなんの真似だ――王たる予になにか隠しているやつがいるな!

 

 

練習問題の回答例(これが正解というものではなく、他の方法もきっとあるはず)

(以後、青と赤の色は使わず、黒で統一)

 

文7A

       ▽MU――就く>王位,

[ただちに]▽MU――出す>*a「布告」/王国の津津浦浦まで

*a<○>,

▽MU ――命じる> 「◇――閉める>ドア;」,

「◇――●開ける>窓;」,

「◇――殺せ>(すべての)占い師;」;

 

文9A

   (幽霊退治の)機械<○>(たいへんよい)出来,

 [※> ▽MU――●見る> 幽霊;

 

文10A

▽MU――怖い> 「▽MU――ひく>風邪」,

[※> ▽MU――past●出る> @庭 /いちども;

 

文11A 

[※> 散歩(▽MU)/@(広い!)宮中だけ;

 

 

文12A

     /☆あるとき/▽MU――散策>/@廊下$続き間/いつものように,

     ▽MU――迷いこむ>/@宮中の古色蒼然たる一隅

(<訪れる●past――▽MU);

 

文13A

▽MU――発見>*a「広間」;

/@*a/*b「近衛兵たち――past仕える>曾祖父」――立つ>,

     *b<○>ネジ捲き式,

     *b――ある>/☆(電気<発見――◇)以前から/

 

文14A

     ▽MU――覗く>*c「広間2」;

     /@*c/*d「蒸騎士たち(<つく――錆)」――立つ>;

 

文15A

     ▽MU――●興味>*d,[※>,

     *e「▽MU――回れ右>,▽MU――will立ち去る>/*cから」;

 

文16A

    [☆(*e)]

     ▽MU――目につく> *f「小さな扉」,

     *f――掛ける> *g「札(<入るべからず>)」;

 

文17A

     埃――積もる>/@扉(*e)/厚い層になって,

    [if]●*g,[→]▽MU――past●気に留める> *e;

 

文18A

     札の文句(*g)――侮辱!> ▽MU;

 

文19A

     *g<真似>◇?,

     ▽MU――考> ▽?――隠す> ◇? /▽MU(<○>王)(に);

 

 

使役動詞 ▽a――>>▽b――*c>

「競馬の騎手が馬を走らせる」とか「ロボットに重い荷物を運ばせる」というときの、 「▽aが▽bに*cをさせる」という意味の動詞が使役動詞です。このときの意味構造を「▽a――>>▽b――*c>」という記号様式で表すことにします。▽aは「▽b――*c>」(▽bが*cする)のを、背後から「――>>」(つっつき記号)で強制しているというイメージです。

 「ムルダス王物語」の文で例を探すと、段落をA段落から順にアルファベットの大文字で表したとき、G段落の17番目の文に、このようなものがあります。

 

G17 

王が、お抱え建築師と電子匠、極板金細工師、轆轤(ろくろ)師を悉く宮中に呼び出し、彼の体を大きくし、地平線のかなたまで拡がるようにしろと言い渡したのでした。

 

 

 この文章に対して、*a「お抱え建築師,電子匠,極板金細工師,轆轤(ろくろ)師」を先に定義しておくと、(意味の構造を保ったまま)次のG17Aのように言い換えることができます。このとき、*aが多数の集団であることを{*a}で表現しておきます。

 さらにG17Aに基づいて、使役動詞の記号様式を用い、G17Bのような思考言語コア翻訳の文が得られます。

 

G17A 

王は、{*a}が悉く宮中に来るようにさせ(呼び出し)、地平線のかなたまで拡がるように、王の体を、大きな体にさせたのでした。

 

 

G17B

 *a「お抱え建築師,電子匠,極板金細工師,轆轤(ろくろ)師」;

     ▽MU――>>{*a}――来る> /@宮中, 

▽MU――>>{*a}――>>体(▽MU)――なる>大きな体

/地平線のかなたまで広がるように;

 

 

 思考言語コアに慣れてゆくと、自然言語の文章をそのまま読んでいても、それを書いた人が、ある確かなイメージを描きながら表現していたのか、それとも、イメージなぞまったくなくて、単なる言葉の組み合わせとして表現していたのか、ある程度推測することができるようになるかもしれません。言葉による表現の背後に何らかのイメージがあることを想像できるということは、書き手の表現内容に近づくことができたのだと考えられます。そうでない場合ですが、言葉の配列などから、背後のイメージを想像しつつ、思考言語コアで、思考の意味構造をまとめようとしているとしましょう。しかし、何が表されているのか、よく分からないというときは、①書き手がうまく表現していない、②コア翻訳がうまくない、③書き手の思考内容を対応付ける経験や知識を読み手がもっていない、などの可能性があるでしょう。ですから、すべてが②のせいではないはずです。どれに相当するか考えながら読み進んでいってほしいものです。

 「ムルダス王物語」のことに戻りますと、最初こそ、上記のように、平易な自然言語で書かれていて、思考言語コアに翻訳することを疑問視してしまうでしょうが、ストーリーが展開してゆくと、状況が複雑怪奇なものになり、表現スタイルも哲学的になって、ムルダス王が夢の中で格闘しようとするあたりになると、なぜ、このようなことを考えるのか、どうして、このようなことを始めるのか、などなど、わけの分からなくなることが、たくさん現れてきます。このようなときに思考言語コアがどのようなはたらきをするのかということを、これから調べてゆきたいと思います。

 

「ムルダス王物語」の段落を順にA~Pで表し、その中の文を出現順に数字で表すことにします。このような取り決めによって、物語の展開上重要と思われる文を選び出し、思考言語コアに翻訳して、著者が意図する(と思われる)思考の流れを掌握しようとおもいます。

 

A1(自然言語)名君の誇れ高いヘリクサンドル王が亡きあと、王位を継承したのはムルダス王子でした。A5(自然言語)かれ(ムルダス王子)には怖がっているものがたくさんありました。A6(自然言語)隙間風に幽霊にワックス――これは、ワックスを塗った床で滑って足を折るかもしれないからです――それに親類縁者――こちらは、かれらが国政に口だしするかもしれないからです――なかでもいちばん恐れていたのは、自分の未来を予言されることでした。A7(自然言語)王位に就(つ)くや、ただちに王国の津津浦浦(つつうらうら)まで布告をだして、ドアは閉め、窓は開けてはならぬ、占師は一人も生かしておくな、と命じました。A21(自然言語)そこ(宮殿にある、見棄てられた塔(A12~A20より))には、古めかしい銅製の戸棚があり、それに、小さなルビーの目玉、ネジを捲く鍵、さらにはちっぽけな蓋がついていました。A22(自然言語)それがなんと占い箱で、しかも、かれの命令を無視し、まだ宮中に残っていたことを知るや、王は烈火のごとく怒りました。A23(自然言語)しかし、そこではたと考えたのです。A24(自然言語)せめて一度ぐらい占いを試してみても悪くはなかろう、戸棚がなにをやるか見ておいても害にはなるまい、と。A27(自然言語)すると戸棚がしゃがれ声で溜め息をつき、なかで機械がギリギリと歯軋りをしはじめ、横目で王のほうを窺うようにルビー色の目玉をギョロリと動かしました。A28(自然言語)その目付きたるや、以前かれの後見人だった、父の弟の、ツェナンデル叔父にそっくりだったのです。A34(自然言語)すると、骨のように黄ばんだ文字が並んでいる一枚の黒いカードが、蓋から滑り落ちたではありませんか。

 

A1     ヘリクサンドル王――亡>,ムルダス王子――継承>王位;

A5,A6  {*af} <○> *af(1)「隙間風」,*af(2)「幽霊」,

af(3)「ワックス」,*af(4)「親類縁者」,

af(5)「自分の未来を予言されること」;

        ▽MU ――恐れる> *af(5)///{*af};

A7      ▽MU――就く>王位,

[ただちに]▽MU――出す>*a「布告」/王国の津津浦浦まで

*a<○>,

▽MU ――命じる> 「◇――閉める>ドア;」,

「◇――●開ける>窓;」,

「◇――殺せ>(すべての)占い師;」;

A21,A22 古めかしい銅製の戸棚 <○> 占い箱;

A23,A24 「▽MU ――試みる> 占い」<●> 悪いこと;

A27,A28 ▽OJ「ツェナンデル叔父<○>▽MUの後見人」;

戸棚の目玉 <似る>▽OJ;

A34     戸棚(占い箱)――出す> 黒いカード;

 

B3(自然言語)さっとカードをひったくるようにして拾いあげるや、一目散に自分の部屋へ駆け戻りました。B5(自然言語)さて、いよいよこれからカードを見るわけだが、万が一ということもある、身の安全のためだ、片目だけで見ることにしよう。

 

B       ▽MU ――(方目だけで)見る> 黒いカード @自分の部屋;

 

C1(自然言語) 

 時きたりて、血族は血で血を洗い

 兄弟姉妹(きょうだい)、従兄弟姉妹(いとこ)、骨肉の争い。

C2(自然言語)~C8(自然言語)については、表現するに耐えないので割愛。 

C9(自然言語) 

 時きたり、弔鐘鳴り、死屍(しかばね)累累。

C10(自然言語)

 屍(かばね)を巧みに隠し、己が身を随所に隠すべし。

C11(自然言語)

 しかるに身を潜めるに急ならざるべし、

 敵は、汝の夢の中に潜伏するが故なり。

 

C1~9    (黒いカード――書く>)親類縁者<○>危険;

                    ◇――葬> 親類縁者;

C10     ◇――(巧みに)隠す>屍,

◇――隠す> 身(己)(を)> 随所(に);

C11     ◇――潜める> 身(を)/急いで;

        <※] 敵 ――潜伏> /汝の夢の中に;

 

D3(自然言語)かれ(ムルダス王)は、占いの言わんとしている意味を露ほども疑っていませんでした。

 

D3      ▽MU ――●疑う> 意味(占い◇C);

 

E(自然言語)これからお話するようなことが、その通り正確に起こったかどうか、実ははっきりわかりません。しかし、とにかく、悲しい――いや、身の毛がよだつような恐ろしいことが起こったのです。

 

E       ◇(F~P) <○> 恐ろしいこと;

 

F1(自然言語)そこで王はさっそく、血のつながりのあるものは一人残らず悉(ことごと)く死刑にしてしまいました。F3(自然言語)しかし、たちまち見破られて捕えられ、かれ(叔父のツェナンデル)も首を斬り落とされてしまいました。

 

F1      ▽MU ――死刑> 血のつながりのあるもの;

F3          ――死刑> ▽OJ(叔父のツェナンデル);

 

G6(自然言語)家来のなかにだって、もとをたどれば、何親等かにあたる遠い従兄弟(いとこ)がいないともかぎりません。G7(自然言語)そこでかれは、短時間のあいだに誰彼の見境いなく家来を悉く打首にしてしまいました。G10(自然言語)かれはひどく疑い深くなり、自分で自分に命じ、だれもかれを王位から引きずり下ろしたりはできないように、自分の体をしっかり王座にボルトで固定してしまいました。G17(自然言語)王が、お抱え建築師と電子匠、極板金細工師、轆轤(ろくろ)師を悉く宮中へ呼び出し、かれの体を大きくし、地平線のかなたまで拡がるようにしろと言い渡したのでした。G22(自然言語)こうしてムルダス王は二年がかりで城下町をすっかり覆いつくしてしまったのです。G25(自然言語)王は、徐徐に、しかし着実に拡がりつづけ、階に階を積みあげ、自分の分身をつなぎ合わせ、その質を向上させて、ついには自分が首都そのものになりました。G26(自然言語)しかし、それでもまだ拡がり続け、町の境界ものりこえてしまいました。G29(自然言語)今では、すべての場所に同時に存在しているのですから、どこへも歩いて行く必要がありませんでした。G35(自然言語)それは、文字通りこの世で最大のものになれたからであり、実際にかれこそが王国の存在そのものでしたから、占いが要求しているとおり、己が身を随所に隠しているわけです。G39(自然言語)

 それ(G38の内容,略)は、王が、群れをなす夢を見はじめたからです。

 

G6      家来 <may○> 遠い親戚;

G7      [※> ▽MU ――死刑> 家来;

G10     ▽MU ――固定> 体(▽MU) >王座 /ボルトで;

        <※][●]▽――引きずり降ろす> ▽MU /王位から;

G17     *a「お抱え建築師,電子匠,極板金細工師,轆轤(ろくろ)師」;

▽MU――>>{*a}――>>体(▽MU)――なる>大きな体

/地平線のかなたまで広がるように;

G22     ▽MU <○> 城下町 /☆2年ががりで;

G25     ▽MU <○> 首都そのもの;

G26     ▽MU ――広がり続け>,

        ▽MU ――のりこえる> 町の境界;

G29     ▽MU ――存在> /すべての場所/同時に:

    [※> [●]▽MU ――歩いてゆく> @どこへも;

G35     ▽MU <○> もの <大>///この世のもの;

        ▽MU <○> 王国/そのもの;

[※> ◇――隠す> 身(己)(を)> 随所(に)/<要求――占い;

G39     ▽MU ――見はじめる> 群れをなす夢;

 

H(自然言語)「見ろや、王様はひどい悪夢に魘(うな)されておいでにちがいない。俺たちが仕返しをされなきゃいいんだが!」

 

H       ▽MU <○> 悪夢;

 

 

 

 

 

I1(自然言語),I2(自然言語)一日が終わったある夜、かれは夢を見ました。その夢のなかで、叔父のツェナンデルが黒いマントで見を包み、夜陰に乗じて首都に忍び込み、味方を求めて街を徘徊し、恥ずべき陰謀を組織していました。I6(自然言語)そこで王は「夢を見ているにすぎん!」と独り言をいい、ふたたび勲章のデザインを考えはじめました。I8(自然言語)ところが、終日さんざん頭を絞ったあげく、夜になってほっと一息つき、うとうとまどろんだとたん、またもや公然と陰謀が企てられているのを夢に見ることになりました。I9(自然言語)ところが実はこうだったのです――ムルダス王は、前に見た、陰謀を企てている夢から覚めたつもりでいたのですが、実際にはすっかり夢から覚めてはいなかったのです。I10(自然言語)反政府的な夢を企んでいた下町の一郭が、全然夢から覚めておらず、まだ悪夢に束縛されたままだったというわけです。I11(自然言語)ところが王はそのことにまったく気づいていませんでした。I12(自然言語)いっぽう、かれの体の重要な部分、つまり首都の古い中心街は、大罪人の叔父とかれの策謀が、悪夢の妄想から生まれた単なる幻覚だということにもまるで気づいていませんでした。I13(自然言語)その二度目の夢の中で、ムルダス王は、叔父が熱を浮かされたように動きまわり、一族郎党を招集するのを見ました。I17(自然言語)王は二度奮戦しましたが、力及ばす、全身を震わせて目を覚ましました。

 

I1,I2   ▽MU――見る>夢1(▽MU)「▽OJ――組織>陰謀;」;

I6      ▽MU ――独り言> 「▽MU――見る>夢」;

I8      ▽MU――見る>夢2「◇――企てる>陰謀/公然と;」;

I9   <※]▽MU――考>「▽MU――覚める>/夢1から」,

        /実際には/ ▽MU――●覚める>/夢1から;夢1<○>夢2;

I10     *DT「下町の一郭(▽MU)――企む>反政府的な夢1」;

        *DT(▽MU)――●覚める>/夢1から;

        *DT(▽MU) <束縛―― 悪夢(夢1);

I11     ▽MU――●気付く> ◇(I10);

I12     *CC「首都の古い中心街(▽MU)」;

        *b「{▽OJ,策謀(▽OJ)}<○>幻想(<生む――悪夢の妄想)」;

        *CC(▽MU)――●気付く> *b;

I13     ▽MU――見る>「▽OJ――動きまわる>/熱にうかされたように;

                 ▽OJ――召集> 一族郎党;」;

I17     ▽MU――奮戦>/二度;▽MU<弱>//▽OJ;

     [※>▽MU――覚ます>目/「▽MU――震わせる>全身(▽MU);」;

 

 

 

J1(自然言語)だから目覚めているあいだは、反乱が起こっている一郭へは入っていけませんでした。J4(自然言語)王は、そうだとすればいちばんいいのは、眠って、敵に対抗できる夢を見ることだと悟りました。

 

J1     ▽MU ――can●入る> *DT(反乱――起こる>)

/☆(▽MU――覚ます>目);

J4     ▽MU ――悟る> 

「▽MU――見る> 夢3(▽MU――can対抗>敵)」;

 

段落Kでは、自然言語と思考言語コアの表現を一文ずつ比較できるようにしました。

 

K3(自然言語)

そこでわかったことは、叔父が牛耳っている夢は、すでに下町地域に立て籠っているばかりではなく、強力な爆弾や破壊力の大きい地雷がいっぱい詰まった兵器庫の像まで描きはじめていることでした。

K3     夢2(<牛耳る――▽OJ)――描く> 兵器庫(強力な爆弾,地雷);

K4(自然言語)

ところがそれに反して、かれ自身が夢に見ることができたのは、やれるだけのことはやってみたのですが、かろうじて騎兵隊が一個中隊、しかも馬を連れておらず、規律は乱れ、武器と言えば鍋の蓋だけというひどい代物でした。

K4     夢3(<見る―――▽MU)――描く> 騎兵隊(●馬);

K7(自然言語)

とにかく目は覚めたのですが、今度は恐ろしい疑惑が勃然と頭を擡(もた)げたからです。

K7     ▽MU――覚める>/夢3から;

       ▽MU――思いつく> *e「恐ろしい疑惑」;

K8(自然言語)

 本当に現実に戻ったのだろうか? 

K8     *e <○> *f「▽MU――戻る>現実/本当に?」;

K9(自然言語)

そうではなくて、別の夢を見ているのではないだろうか?

K9     *e <○> (●*f),

*g「▽MU――見る>夢4(●夢3)?」;

K12(自然言語)

もし眠っていないのだったら、現実の世界には陰謀は存在しないのだから、安心できます。

K12 [if]▽MU――●眠る>,[→]現実の世界<●>陰謀.[※> 安心;

 K17(自然言語)

しかし、もしかれが、目が覚めているから安全だと思って、敵に対抗するための夢を見ないでいると、実は、それはかれが現実だと思いこんでいるだけで、本当は別の夢にすぎず、もうひとつの叔父の夢を見続けていいるのだとしたら、それこそまさに身の破滅につながりかねません。

K17 [if]▽MU――思う> 安全 ,<※]▽MU/@現実(目が覚めている),

    [→]▽MU――●見る> 夢3(▽MU――can対抗>敵);

   [&if][●]「▽MU――思う> ▽MU/@現実」,

[○]「▽MU/@夢2(▽OJ)」,

    [→]▽MU<○>破滅(▽MU);

K20(自然言語)

だが、もし陰謀が予の神聖な精神全体を犯し、山々から海々にいたるまで隅なく及び、もし――考えただけでも身の毛がよだつが――(以上についてはコア翻訳していない)予自身がもはや目を覚ますことを望まなくなったとしたら、そのときはどうなんだ?!

K20 [if]▽MU――●望む> ▽MU/@現実(目が覚めている),[→]◇?;

K21(自然言語)

そうなれば、予は永遠に現実化から切り離され、叔父は予を思うがままにできる。

K21 [→]▽MU<●/☆永遠に>▽MU/@現実,

▽OJ――>>▽MU――?>;

K26(自然言語)

結局、夢とはなんだ?

K26    夢<○>◇?;

K27(自然言語)

夢が存在しうるのは、立ち戻るべき現実が存在するところだけだ(だが、連中が予を首尾よく夢の中に閉じ込めてしまったら、どうやって現実に戻ればいいのだ?)

K27    夢――存在> ,<※] 現実(<戻る――◇/@夢から)――存在>;

 [if]{▽OJ}――>> ▽MU/@夢2,

    [→]▽MU――may●戻る> /@現実;

K28(自然言語)

夢しか存在しないのなら、夢こそが唯一の現実だ。

K28 [if]●/@現実,[&]/@夢2(――存在>),

[→] 夢2<○>(唯一の)現実;

K29(自然言語)

即ち、それは夢ではない。

K29  夢2<●>{夢};

 

L1(自然言語)悲嘆にくれた王は、無為無策がとことんまで己を滅ぼしかねないし、唯一の望みは、精神力わただちに総動員するしかあるまいと、悟りました。

 

L1     ▽MU――悟る>,

       無為無策(▽MU)――滅ぼす> ▽MU;

       総動員(精神力(▽MU)) <○> 希望;

 

M1(自然言語)ムルダス王は、自分の存在(からだ)の一部である、たいそう込み入った広場や大通り全体でもって、ひとつ溜め息をついて気持ちを落ち着けると、仕事にとりかかりました(以上の部分はコア翻訳において無視している)――つまり、眠ろうとしたのです。M3(自然言語)ところが、夢の中に現れたのは、ちっぽけなボルトがたった一個、それだけでした。M6(自然言語)かれは頭を絞り、考えに考え抜きました。M9(自然言語)「ボルトと暴動で頭韻になっているではないか!」

 

M1     ▽MU――意図> ▽MU/@夢5;

M3     (小さな,一個の)ボルト――現れる>/@夢5;

M6    ▽MU――考える> ボルト(M3);

M9   「ボルト」<頭韻>「暴動」;

 

N2(自然言語)なんととこれ(M9)は、かれの滅亡、転覆、死の象徴だということになるではありませんか!

 

N2     M9 <○> 象徴((▽MUの)滅亡,転覆,死);

 

O2(自然言語)それ(O1の内容のこと)は、ムルダス王が、恐ろしい夢の中に現れた滅亡の象徴と闘っていたからです。O3(自然言語)ようやく王は滅亡の象徴を打ち負かし圧倒し、ついには、そんなものが存在したとは思えないくらい完璧にきれいさっぱりと消えうせてしまいました。O5(自然言語)現実だろうか、それとも別の幻覚だろうか?

O6(自然言語)どうやらここは現実らしい。O7(自然言語)しかし、それをどうやって確かめるのだ? O21(自然言語)しかし王は、そうした光景(O15~O20)をよくよく見まわして、どういう訳か、どこかがおかしい、これは本物ではないと感じたのです。

 

 

 

O2     ▽MU――闘う> (滅亡の)象徴/@夢5;

O3     ▽MU――消す> (滅亡の)象徴/@夢5;

O5     ▽MU――考える>「▽MU/@現実 <?> ▽MU/@(別の)幻覚」;

O6     ▽MU――(弱い)判断> ▽MU/@現実;

O7     ▽MU――can●確認> ▽MU/@現実;

O21    ▽MU――見まわす> *g「光景/@現実(?)」,

       ▽MU――感じる>  *g<●>本物;

 

段落Pも、自然言語と思考言語コアの表現を一文ずつ比較できるようにしました。

 

P13(自然言語)

 ひとつの夢から別の、新たな夢にはまりこんでしまい、ひとつ前の夢を見、それが今度はさらにもうひとつ前の夢になってしまったのです。

P13    ▽MU/@夢i ――はまる> ▽MU/@夢j,

▽MU――見る>夢(j=i-1),

▽MU/@夢(i-1)――なる> ▽MU/@夢(i-2)

P17(自然言語)

 ムルダス王は喉が破れんばかりに声を張りあげて、兵士たちに、予の体を槍で突いて、目を覚まさせてくれと、叫びました。

P17    ▽MU――張りあげる>声/(喉――may破れる>),

▽MU――叫ぶ>

「兵士――突く>槍>体(▽MU),

兵士――>>▽MU――覚ます>目;」;

P20(部分)(自然言語)

 反逆と不忠と暗殺が横行する夢から、王座の夢に戻ろうともがきました。

P20    ▽MU――もがく>

 「▽MU/@夢(反逆$不忠$暗殺――横行する>)

――戻る> 

▽MU/@夢(王座);」;

P21(部分)(自然言語)

 王の体内では夢は鼠算式に殖え(以下略)。

P21    夢――(鼠算式に)殖え>/@体内(▽MU);

P24(自然言語)

 土台が震え戦(おのの)き、そこから夥(おびただ)しい親類縁者、二心ある捨て子の王子、やぶ睨みの王位簒奪(さんだつ)者がぞろぞろと現れました。

P24    *a「土台(▽MU)」――震え戦く>,

/*aから/

▽b「夥(おびただ)しい親類縁者,

二心ある捨て子の王子,

やぶ睨みの王位簒奪(さんだつ)者」

――現れる>/ぞろぞろと/;

P25(自然言語)

 そしてかれらは、だれ一人として、自分が過去の夢かそれとも現在の夢の産物なのかも、だれがだれを夢に見ており、それが、なにを意味し、なぜそうなのか知らないくせに、だれもかれもがこぞってムルダス王に襲いかかり、(中略)殺したりまた生き返らせたり、(後略)。

P25    {▽b}――●知る>,

       ▽b<?>産物(過去の夢),▽b<?>産物(現在の夢),

       *c「▽b(i?)――見る> ▽b(j?)」,

       *c――意味する> ◇? ,

       <※]◇? ,

       {▽b}――襲いかかる> ▽MU,

       {▽b}――殺す>▽MU,

{▽b}――>>▽MU――生き返る>;

P27(自然言語) 

というわけで、王の心から、幻の妖怪変化がどっとばかりにとびだしてきて、結局、負荷がかかりすぎて爆発し、燃え上がってしまったのです。

P27    P24,P25 [※> ,

       /心(▽MU)から/

       幻の妖怪変化――とびだす>/どっとばかりに/,

    [※> 負荷――かかりすぎる> ▽MU,

    [※> ▽MU――爆発>,

        ▽MU――燃え上がる>;