思考言語のかんたんなルール
思考言語のアイディア(2)黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito) 2003_09_28

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 ここでは、思考言語のアイディアを発展させてゆき、複雑な思考の骨組みとなるようなものを、できるだけ短い表現で、しかも、意味の構造を分かりやすくとらえられるようにするための、記号や表現方法の工夫について、説明してゆく。かんたんに言うと、思考言語の「文法」のようなものだが、「文法」というよりは、「表現法」と述べたほうがよいかもしれない。

 

(1)アスタリスク記号*

 意味の濃縮をかねて、簡単に生み出せて、識別しやすい記号のルールを決めることにした。日本語の中にも、「あれ」や「これ」や「そのこと」といった指示代名詞があるが、これらの指示代名詞が何を示しているのかをきちんと定義しないで使っていることが多い。

料理の本に、合わせ酢のように調味料を合わせたものをAとしておき、後の調理のところで、「これにAを入れる」と書く方法がよく現れる。これは言語学者のS・I・ハヤカワの本で紹介されてあった。また、牛に添え字をつけて表現することも、異なる牛を認識するのに役立つことが説明されている。これらのアイディアに影響され、コンピュータ言語のアナロジーから、アルファベットの文字などにアスタリスク記号(*)をつけた「*a」を色々な代名詞として使うことにした。できれば、これらの記号の意味を定義して使いたい。そこで、次のような書式で*aの意味を定義することにした。

*a「定義文」, *a:(*aの)定義文

 時々、先に定義文を書いてしまってから、これを*aで表したいという気持ちになることがある。このようなときのために、次の書式を認めることにした。

定義文(*a)

 「定義文」(*a)

 定義文(*a)

 定義文(*a)

*をつけないで、aやAを単独で用いることも、普通の文章では、よくあることだが、他の表記との混乱が生じることもあるし、意味の定義がどこかでなされているということをはっきり表示するために、アスタリスク記号(*)をつけるのである。

「神秘的能力とは、経験より実在のほうがうわまわっているということを直覚できることである」という、哲学書の一文を、次のようにあらわす。

*神秘的能力「経験より実在のほうがうわまわっているということを直覚できること」 

これでは、まだ、単語のリストを書いただけになってしまうが、この後、定義文を書いたような「 」の中の表現に工夫を加えることにより、さらに、意味の構造が見やすくなるようにすることになる。

やはり10年前のことであるが、このころから、何から何まで全ての記号を生み出そうということをあきらめることにした。そこに落とし穴があったということに気がついたのである。これまでに発達した言語の表現様式を利用できるところは利用すればよいということなのだ。たとえば漢字などで多くの概念が表現されてきているので、それを使えるならば、そのまま使えばよい。それでは、「思考言語」として、何をするのかというと、それらの概念の関係を表す方法を工夫して、それらの関係を分かりやすく図示しようというところに、活路を見出すことにしたのである。これらの詳しい説明は、別のところで行うことにしたい。

 アスタリスク記号(*)については、別の機能をもたせてある。*を単独で、「それ」とか「同じようにする」という意味で、先に記述したことを何度も繰り返して表記したくないときに、用いることにした。しかし、多用すると意味がつかみにくくなるので、*aなどで対象語などを定義しつつ、表現の簡素化を目指したほうが理解しやすい。

 

(2)「対象語」と「関係語」

文の構成を、主語や目的語のような「対象語」と、述語のような「関係語」に分けて考えることにした。実は、このような並べ方は、中国語や英語で採用されているもので、「主語」「述語」「目的語」のような構文を利用したものである。日本語では、「主語」「目的語」「述語」の配置が主流である。「主語」や「目的語」を「対象語」としてとらえ、それらをどこかの空間に配置して、その間に、「述語」としての「関係後」をはさむというスタイルを採用すると、それらとは異なる「対象語」が出てきたときに、それらとの関係を、どんどん組み合わせてゆくことができるからである。このようにして、「対象語A」「AとBの関係語」「対象語B」と並べると、Bとの関係をもつ別の対象語Cがあったとき、容易に、これらを書き加えることができて、「対象語A」「AとBの関係語」「対象語B」「BとCの関係語」「対象語C」のようにすることができる。たとえば「男女の恋愛における三角関係」の場合は、三人を三角形の頂点に書き、それぞれの関係を辺に書けばよいわけだ。書き言葉や話し言葉では表しにくいものでも、このようにすれば、全体の関係が良く分かり、頭の中でのイメージとして使うこともたやすくなるだろう。

 

(3)「修飾語」

文の中には、「対象語」でも「関係語」でもない言葉が現れることがある。それらの多くは対象語を説明する形容詞であったり、関係語を補う副詞であったりする。これらは、(表現のスタイルのことは後でデザインすることにして)とりあえず「対象語」や「関係語」の付録にしておけばよい。このようなものについては「修飾語」と名づけておこう。しかし、これらは、あくまで、「対象語」や「関係語」の中に含まれるものである。

 

(4)「状況語」と「接続語」

文の中には「対象語」や「関係語」にはあてはまらない、補助的な説明の文節がある。「AはBに仕事場で9時に出会う」という文があるとしよう。このときの「仕事場で」と「9時に」が、これに相当する。英語の文で、前置詞をともなう部分である。これらは「状況語」と表現すればよいだろう。

文の構成要素をおおまかに分類すると、これらの「対象語」「関係語」「状況語」と見なすことができる。

さらに、文と文の関係を考えてゆくと、「接続語」があったほうが分かりやすい。基本的には、これらの4分類で考えてゆくことになる。

 

(5)尾「――」とくちばし「>」

 テレビドラマなどでの人間関係図が紹介されることがある。「主人公A」「Aの恋人のB」「Bの親友C」「Cのことが好きなD」のような説明があるとしよう。実際の関係図では平面が用いられるが、ここでは説明のため、線状に記述する。

さて、これらの関係を頭の中でイメージするとき、まず、「A」「B」「C」「D」を、少し離して並べると分かりやすいだろう。実際に紙の上に書くようなイメージを描くことが多い。テレビ的には、それぞれの写真を使って並べると効果的であろう。本人の顔を知っているときには、それらのイメージを思い浮かべることだろう。ここでは記号で代用しておく。

次に、これらの人間どうしの関係であるが、「Aの恋人のB」については、「AはBに恋している」と考えておこう。BもAに恋している可能性があるが、そのようなときには「AとBは恋人どうし」のような表現が使われるだろう。このように、関係語については、片側に向きを考えたほうがよいものと、双方向の向きをもつと考えたほうがよいものとがある。

そこで、このような人間関係図からのアナロジーなのであるが、関係語のスタイルを、「思考言語」では、線や矢印に関連させてみようと考えた。このようなデザインを盛り込まないとしたら、中国語の表記に近づくことになる。また、単語をアルファベットで記述することにしたら、英語などの表記に近づく。それでは、これまでの言語と何も変わらないことになってしまう。まず、ここで導入する戦略は、対象語と関係語の印象を、何らかの記号で区別しやすくしようということである。

 「AはBに恋している」という文を、尾「――」とくちばし「>」の間に関係を示す語をはさんで「A―恋>B」とし、「Bの親友C」は「BとCは親友どうし」と見なして、「B―<親友>―C」としよう。

関係語に尾「――」がつけてあるので、平面の中の色々なところから出発することができるし、くちばし「>」をつけることによって、色々な向きを考えることができるのである。しかし、最近、「――< >――」については、尾を略して「< >」とすることが多くなってきた。

「Cのことが好きなD」については、「D―好>C」となるだろう。しかし、頭の中では、これらをひとつにまとめたイメージを描きたい。このとき、少し工夫して「A―恋>B」「B―<親友>―C」「C<好―D」のようにすればよいのである。さらにまとめて「A ―恋> B ―<親友>― C <好― D」と書いてしまえば、全体の構造がよく分かる。双方向の関係語での尾をとって、次のような表現にしてもよいかもしれない。

A ―恋> B <親友> C <好― D

これらの表記法においては、主語と目的語の区別はあいまいになってくる。目的語が別の文の主語になることも許して、全体の構造を表現するのである。

 実は、最初のころ、対象語を漢字などの日本語で表記し、関係語をできるだけ簡単な英語で表すことにしていた。「主人公―love>愛子―<friend>―友子<like―加藤」のようなイメージである。このようにすると、対象語と関係語のそれぞれを識別しやすい。しかし、適当な英語を思い浮かべるのに苦しむこともあり、関係語の意味部分に日本語を書くことを禁止するわけにはいかなかった。

 日本語の「変化しなければいけない」や「接続することができる」の表現は、英語のmustcanを用いて、「――must変化>」「――can接続>」とすることにしたことがある。最初のデザインでは、「――[変化>]「――(接続>)のようにも書いたが、あまりに何もかも記号化してしまうと、暗号化が進みすぎて、この思考言語を組み立てた本人でも忘れてしまうことがあったし、他の表記と混乱するので、mustcanを用いることにした。これらの応用でmaywillも使える。しかし、必ずこのように書かなければならないというものではなく、(長くはなるだろうが)「――変化しなければいけない>」や「――接続することができる>」と書いてもよいとしておこう。

 過去形や完了形などの時制を表す記号も工夫したことがあるが、日本語の表現で済ませることができるので、あまり使っていない。過去形を強く示したいときは、willのような助動詞の機能をpast(過去)という(単語)記号にもたせて、「――past変化>」とすればよい。時制を記号化するアイディアはどんどんわくのだが、記号を増やすごとに暗号化が進んでしまう。もし、英語などの外国語から思考言語の表現へと変換するときには、その言語にある時制などを簡単な記号や略号で表すことを、あらかじめ定義して使えばよい。

 ここで述べた、英単語を組み込む方法は、思考言語の正式な文法として規定しようとするものではなく、「工夫のコツ」のような意味である。「完全無欠な思考言語」というものを作ってしまおうと考えると、どんどん複雑なものになってしまい、記号化がはてしなく進んで、けっきょく意味が分からなくなってしまうということも、落とし穴の一つであるということを、しっかりと意識しておかなければならない。

 

(6)母――手渡す>人形>娘

 「母は娘に人形を手渡す」の関係をイメージするとき、「――手渡す>」の部分が母の手に対応し、人形は母と娘の間にあるとしたほうがよいだろう。「母――手渡す>人形を>娘に」のように「を」「に」を添えてもよいが、だからといって、「母――手渡す>娘に>人形を」とすると、人形は娘が後ろ手で隠しているように見えてしまう。

 このような関係において、「人形」と「娘」の関係だけに着目して、「娘は人形を受け取る」とか「人形が娘に渡る」と表現されることがあろう。尾とくちばしを使って表してみる。「娘は人形を受け取る」は「娘――受け取る>人形を」と書け、「人形が娘に渡る」は「人形――渡る>娘に」と書けるだろう。表現としては異なるが、イメージとしての現象は同じである。対象と関係の分かりやすさから考えると、「娘――受け取る>人形(を)」よりは、「人形――渡る>娘(に)」のほうが好ましいだろう。思考言語は、まず自分の思考を補助するために使うということを第一の目的とするので、頭の中のイメージに対応するような表現を選べばよい。他人とコミュニケーションするのは、次の段階でのことである。上記の表現の中にある「を」や「に」は、誤解の恐れが無いと判断できるときには省略する。

 「人形――渡る>娘に」という表現のとき、「人形――渡>娘」としても、ほぼ意味は汲み取れるだろう。このときの「――渡>」は(英語で考えると)自動詞ということになるが、人形がロボットのように振舞うのでないかぎり、他動詞と考えることはないだろう。もし、はっきりさせておきたいときは、たとえば記号の「.」などをくちばしの前後につけて、自動詞なら「――渡.>」として、他動詞なら「――渡>.」のように表現することもできるが、このような記号を決めるは難しい。何か他の記号がないか、あるいは、自動詞と他動詞とを、くちばしの種類で表現してはどうかとか、いろいろ考えたのだが、そうすると、文法が複雑になってしまって、扱いにくくなってしまう。それより、日本語の表現のまま「――渡る>」や「――渡す>」としたほうが、扱いやすいし、これでも分かる。このように、何から何まで記号化するより、ある程度のところで妥協しておいたほうが、使いやすいものになることだろう。厳密さや完全性を追い求めると、どこまでやってもキリがないのである。

 

(7)使役動詞 ――>>

 日本語には少し変わった表現がある。使役動詞というものである。

「騎手が馬を走らせる」というときの「走らせる」という表現を、

「騎手―走らせる>馬」

と書くと、少しイメージと違うように思える。

走っているのは馬なのである。「馬―走>」の表現を使いたい。しかし、馬を走らせている騎手についても、無視するわけにはいかない。そこで、

「騎手―走らせる>馬」

という意味を、

騎手 ―>> 馬 ―走>

と書くことにした。「―>>」の記号で「使役」「させる」を意味することにするのである。この記号は「強いくちばし」とか「突っつき記号」と呼ぶことにしたい。

「調教師の指示で騎手が馬を走らせる」という文があったとしたら、

「調教師―指示>,騎手―>>馬―走>」

としてもいいが、構造を分かりやすくするなら、

調教師 ―>> 騎手 ―>> 馬 ―走>

ということになるだろう。

 

(8)/状況語/,/状況語,@と☆

 「AはBに仕事場で9時に出会う」の意味構造をイメージ化するためには、まず「A――出会う>B」を考え、「仕事場で」と「9時に」を表すことになる。原則として、このような状況語は/ /で表すことにした。

A――出会う>B,/仕事場で/9時に/ 

最後の/を、次のように略してもよい。

A――出会う>B/仕事場で/9時に

 文の後ろのほうにつけるときは「*――*>*/状況語」の形式でよいが、文頭におきたいときは「/状況語/*――*>*」のようにしておくことにしよう。

/仕事場で/9時に/A――出会う>B

場所や時間は重要な意味をもつこともあり、識別しやすい記号で区別したい。ここ10年の変化として、場所に関しては@という記号がよく用いられるようになった。時間については☆をあてることにしよう。星の配置は時間を示すシンボルになるからである。これらの記号を使うと、次のようになる。

A――出会う>B @仕事場 ☆9時

@仕事場 ☆9時 A――出会う>B

@仕事場/☆9時/A――出会う>B

 場所と時間の他にも、理由や方法を表す記号がほしいところだが、暗号化が進むことになるので、次のようにすればよいだろう。

A――話す>B/理由:会議時間の変更/方法:電話

このような使い方に習って、他の状況を表す用語を日本語の言葉の中から選び出すことができるとしておこう。

後で説明する「注釈記号」の「※」を「理由」の意味にもとって、次のように表現できることにもしよう。「※」は、ワードでは「こめ」のところに入っている。

A――話す>B,※会議時間の変更 /方法:電話

 

(9)文末記号 ; (。) []

 これまでの文は一つだけであったので、文末記号は無くても混乱しなかった。また、右端に広いスペースがあるときには、とくに文末記号を書かなくてもよいだろう。それでも、何か文末を表す記号をつけておかないと困るというときには「;」をつけることにする。これはC言語からの借用である。一般の記述言語では「A;B」を「AはすなわちBである」のような使い方をしているかもしれないが、混乱をさけるため、このような表現においては、「;」ではなく「:」を使うことにして、「A:B」や「A<:>B」としたい。

 しかし、日本語なのであるから文末は「。」でよいとして、これで統一してもよいだろう。

  2008年になって、文末記号として、[] を加えることにした。MS Pゴシックの文字で、”[“”]”を続けて入力すれば、このような図形となる。もっぱら、英文用の文末記号である。

 

(10)[接続語]

 接続語は、原則として、意味部分を[ ]で囲うことにする。

意味に方向をもたせたいときには、[ > や < ]を用いる(このスタイルは廃止している)。手書きのときは、このときの > を )と書いていたが、おせっかいなコンピュータプログラムでは、このような使い方を許してくれない。

接続語については、文頭につけることにして、文を右方向に流すことを原則としておけば、[ ]だけですませられることだろう。

文中で弱い接続を意図したいときには、< > や( )を使うこともある。しかし、<かつ> とか(&)のように、意味の混乱がないような場合に限りたい。< > は関係語に用いるし、( )は修飾語に用いるからである。

カッコについて他に注意しておきたいのは、{ }であるが、これは数学での慣例を尊重して、グループを表す意味で使いたい。つまり、「猫」なら普通は一匹をイメージして、「{猫}」としたときは、「猫のグループ」「猫族」「猫の群れ」などをイメージしているのである。

 コンピュータ言語でよく使うものに、if A then B else C(Aが正しいときはBで、Aが正しくないときはC)という構文がある。これを借用して、次のような表現を使うことにする。論理的な文章では、なかなか便利である。

if]  A;

then] B;

else  C;

あるいは、もう少し記号化して

if    A;

[→]  B;

[/→] C;

としてもよいだろう。[if]のところは、うまい記号が思いつかなかった。この表現はコンパクトなので、このままでもよいのではないか。あるいは、漢字を用いて

[仮]   A;

[→]  B;

[/→] C;

と書いてもよいかもしれない。

数学記号を使った[∧](かつ)や[∨](または)を接続語として使うと、構造が分かりやすくなる。慣れないときは[かつ]と[又は]を使えばよい。

 

(11)(修飾語)

 「美しい人」という表現はやさしすぎるかもしれないが、中心的な対象語と、これを修飾する語とを区別するために、「(美しい)人」とか「人(美しい)」という書き方を使うことにする。後者の表し方は、数学の関数表現からのアナロジーである。「美しい」の部分が変数xのように入れ替わるときに、扱いやすくなる。「優しく美しい人」のときは、「(優しい,美しい)人」や「人(優しい,美しい)」のように、コンマを入れて、二つの概念から構成されていることを示すとよい。「美しい人の微笑」という表現になれば、中心的な対象語は「微笑」であるから、「((美しい)人)微笑」または「微笑(人(美しい))」と書く。

 「ヒグラシは静かに鳴く」の場合は、「ヒグラシ――(静かに)鳴く>」とすればよいだろう。「ヒグラシ――鳴く(静かに)>」の書き方を間違いとは言わないが、動詞の中心的な意味部分である「鳴く」がくちばし>から離れてしまい、比較しにくくなるかもしれない。

混乱がないときには、これらの表現において漢字に添えられているひらがなを省略してもよいことにしよう。「人(優,美)」や「ヒグラシ――(静)鳴>」である。

 しかし、色々と使ってゆくと、何でもかんでも(数学式に)補助的な修飾語を後ろに持ってくるようにするのは、日本語の表記慣習に逆らうことになり、後で読み返すときに、すばやくイメージを起しにくいことがある。そこで、「自己の意識」を「意識(自己)」とする表記だけでなく(もちろん「自己の意識」のままでもよいが)「(自己の)意識」と書いて、補助的な語が( )の中にあることを示す手法も取り入れることにした。

 結局は、どのような語順でも良いが、補助的な修飾語を示したいときには、( )に入れて、主となる対象語に付けてしまおうということになる。ただし、これは正式な文法というものではなく、意味の構造を見やすくするための工夫ということにしておきたい。

 

(12)指示記号 ◇

 この記号 ◇は、「これ」とか「それ」とか「〜すること」という意味で用いる。

 たとえば、次のような三つの文を、その下のように表現する。

「うわさを他人Aに話すこと。」

「他人Aはうわさを他人Bに話す。」

「うわさは多くの人の間に広まる。」

              ◇――話す>うわさ>他人B;

  ◇――話す>うわさ>他人A;

         ◇――広まる>/多くの人の間に/;

 左端の◇は「こと」を意味する。「うわさ」の下にある◇は、「それ」のつもりで「うわさ」を意味する。英語で使う関係代名詞のthatのような機能である。他人Aの上にある◇は「他人A」のことである。論理の順がはっきりしないときには、数字で指定するとよい。

              A◇――話す>うわさ>他人B;

  @◇――話す>うわさ>他人A;

         B◇――広まる>/多くの人の間に/;

 あるいは、左上から右下に読むという暗黙のルールを尊重するなら、次のように書くとよいだろう。

◇――話す>うわさ>他人A;

          ◇――話す>うわさ>他人B;

                ◇――広まる>/多くの人の間に/;

 スペースを節約することより、全体の(意味の)構造を見やすくすることを優先したいのである。

このように、指示記号の◇を用いると、文が樹木状になってゆくだろう。「うわさ」は何回でも繰り返されてもよいが、他人Aのような実体をもつもので一つしか存在しないものについては、できるだけ一つの単語で表記すると、意味の構造が見やすくなる。

この指示記号 ◇ については、上記の「こと」の意味での記述から転用して、本人が書くメモなどにおいては、「わたし」という意味の主語として表現することが多い。「あなた」や「彼」や「彼女」については、決めていないが、それらの主語については、*a *b *c とか、*you  he  she などで、しっかり識別して表現したほうがよいのではないだろうか。あるいは、

   ◇a   ◇b   ◇c

  ◇you   ◇he   ◇she

として、それぞれを人間として表すことにとしておいてもよいだろう。

 実は、「人間」を表すシンボル記号は、思考言語が「手書き」のときには、あるものを規定したことがある。△の上に小さな○をのせたり、▽の上に小さな○をのせたものである。これで男女の区別をつけていたこともあるが、思考言語では、そのような区別は、あまり重要なことではないと考えるようになった。また、ワープロソフトで思考言語を記述するようになると、そのソフトが扱うことのできる記号で、しかも、比較的かんたんな操作で取り出してこれるものを使うことになり、手書きでの記号の多くは、淘汰されてしまうことになったのである。そこで、思考言語を使って分析などを試みるときには、△を人間として表現し、◇を事件とするなど、そのときの都合にあわせて、記号の使い方を「宣言」することにしている。

 

(13)否定記号(●)

 数学の論証で使われる否定記号は ¬ である。ワードでは、「ひてい」か「かぎ」を打ち込むとリストアップされる。バツ(×)も分かりやすいが、やはりインパクトが弱いし、掛け算の記号として多用されており、混乱を呼びやすい。交通標識で否定や禁止のシンボルとして使われている記号がある。○に斜めの線が入っているものである。これは流用しても良いだろう。他にも試してみた記号はあるが、もっと強い否定のシンボルとして、相撲での黒星を意味する ● を主に使うことにしよう。ワードでは「まる」で探すことができる。面を塗りつぶした記号というものはあまり使われておらず、強い印象がある。意味の構造を調べてゆくと、同じような表記だが、どこかが否定されているというスタイルが多く現れる。そのようなときに、違いを見やすくしてくれるのである。

 具体的な使い方を説明しよう。向きのある関係語、つまり動詞では次のようになる。

カエル ――●持つ> ヘソ ;

助動詞のcanmustを用いたときは、英語の語順に習って、次のようにする。

カエル ――can●飛> ; 

 両方に向きがある関係後では、< > の中のどこかに ● が入っていればよいだろう。

   カエル(両生類)――<●同類>―― ヤモリ(爬虫類);

カエル(両生類)  <●同類>   ヤモリ(爬虫類);

 対象語を否定するときは、語の左に ● をつけることにしよう。

●人間 ――現れる>/柳の下に/;

 ある法令の条文に、次のような記述がある。

「貯槽には、液面計(丸形ガラス管液面計を除く。)を設けること。」

◇――設ける> 液面計(●丸形ガラス管液面計)> 貯槽;

 このように、「〜を除く」という記述に対して、● を使うことができる。

 接続語として[●]を使うとすれば、次のようになるだろう。

A;

[●]B;

 これの意味は、「Aは正しいが、Bは正しくない」とか、「Aであるが、Bについてはこの限りではない」となる。

 

(14)注釈記号 ※

関係語や接続語の意味部分に、この注釈記号 ※(「こめ」や「ほし」で出せる)を用いることにより、「理由」を表現することにする。

「カエルは羽を持っていないので、飛べない。」

カエル――●持つ>羽

[※> *――can●飛ぶ>;

 ここで、右のほうに、「*」を、「それ」の意味で使っている。誤解が生じない限り、このような簡略した表現が使えるものとしておくと、記述しやすいことがある。もうすこし厳密に表現するとしたら、次のように表すことができるだろう。

カエル(*a)――●持つ>羽

[※> *a――can●飛ぶ>;

「カエルは飛べないが、なぜかというと、羽を持っていないからである。」

カエル(*a)――can●飛ぶ>

<※] *a――●持つ>羽;

 

(15)肯定記号○

 肯定記号の○は、否定記号●と同じように使う。

――○*> , ―<○*>― ,<○*>

しかし、○がついていなくても、肯定しているので、○は強い肯定を表すときに用いるとよい。

 

(16)疑問記号?

疑問記号(?)については、下のような表現のどれでも意図は分かるだろう。

   ――?*> 

 ――*?> 

 ――*>? 

―<*?>―

<*?>

 

(17)である(英語のbe)< >,――< > ,――< >――

 「ホテイアオイは水草である」のような文章の意味をイメージしたいが、「ホテイアオイ」と「水草」を対象語とするところまではよいが、はて、これらの関係はどのように表せばよいのだろうか。

ホテイアオイ ――である> 水草;

だろうか。しかし、これでは冗長な感じがする。英語を使って「ホテイアオイ ――be> 水草」としようか、それとも「ホテイアオイ ――> 水草」として、関係があることだけを示そうか。厳密なことを考えて記述しようとすると、「ホテイアオイは水草(の一種)である」から「ホテイアオイ⊂水草」などとなるかもしれない。ところが、このように、ひとつひとつ立ち止まって「である」の意味を考えていると、色々なところで立ち止まってしまうことになり、全体のことを把握したいのに細部のことに目がいってしまうということにもなりかねない。

 そこで、「である」を表す関係語としては、<> や ――<> や ――<>―― を使っておくことにしよう。関係語の詳しい内容が定まっていないことをシンボル化していると考えるのである。

ホテイアオイ   <>   水草

ホテイアオイ ――<>   水草

ホテイアオイ ――<>―― 水草

詳しいことを考察するのは、全体的なことをイメージしてから変更することにして、とりあえず、何かと何かの関係であることを表示しようというのである。

 哲学書の文章などを思考言語で解釈しているとき、いろいろと複雑に表現された関係について、これらを思い切って簡単な表現へとまとめてみると、論証の構造がつかみやすくなる。

AとBの関係を考えるときに、「A<未定>B」「A<は>B」(弱い肯定)「A<肯定的>B」(強い肯定)「A<否定的>B」と見なせるような表現が多く現れるのである。

A <未定> B

A <は> B

A<肯定的>B

A<否定的>B

これらを下のような表現に置き換えるとよいだろう。

A<?>B

A <> B

A<○>B

A<●>B

 

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