思考言語コアの、法律「高圧ガス保安法」への適用
思考言語のアイディア(4) 黒月樹人 KINOHITO KULOTSUKI 2003_09_28

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 液化石油ガスの管理をするために必要な免許をとることになった。学識と保安管理と法令の3教科に分けられており、それぞれで合格点を上回らなければならない。学識と保安管理については教科書があるので、それに基づいて学習すればよいが、法令のテキストというのは、1000ページほどもある分厚い法規集である。これらの全てが試験範囲なのではなく、主要な3法令を学べばよい。そうはいっても、法律の勉強なぞしたことのないものにとっては、目もくらむような文章である。静かに読んでみても、なかなか頭に入らない。そこで、これまで説明してきた思考言語の用語や文法を用いて、法令に用いられている文章の奥に潜む、意味の構造を表すことにした。

 たとえば、次のような条文がある。

 高圧ガス保安法

第二十七条の三 前条第一項第一号に掲げる第一種製造者のうち一日に製造をする高圧ガスの容積が経済産業省令で定めるガスの種類ごとに経済産業省令で定める容積以上である者は、経済産業省令で定める製造のための施設の区分ごとに、経済産業省令で定めるところにより、製造保安責任者免状の交付を受けている者であって、経済産業省令で定める高圧ガスの製造に関する経験を有する者のうちから、高圧ガス製造保安主任者(以下「保安主任者」という。)を選任し、第三十二条第四項に規定する職務を行わせなければならない。

 この文章の中に現れる、主な対象語を *a「 」 などで定義する。

*a「第一種製造者(<掲げる――前条第一項第一号)」

*b「経済産業省令」

 *c「製造保安責任者免状の交付を受けている者」

 *d「(*b――定>)高圧ガスの製造に関する経験を有する者」

 *e「保安主任者」<:>「高圧ガス製造保安主任者」

 次に、これらを使って、条文の意図する内容を構成する。

 容積(高圧ガス)/day[>=]容積(*f)

     ◇<製造――*a;     

*f(<定―*b)/ガスの種類ごと;

                  ◇<定――*b;

*a――選任>*e/{*cかつ*d}から/<定――*b

/(*b――定>)製造のための施設の区分ごとに;

 *a――must>> *e――行う> 職務(<規定――第三十二条第四項);

 このようになるだろうか。かなり難しい内容である。

 法令を作る人のクセなのだろうか、良く似た構造の表現が別のところに現れることがよくある。例えば、これに続く第二号を次に表して、これの内容を調べることにしよう。

 高圧ガス保安法

第二十七条の三 

2.前項に規定する第一種製造者は、事業所ごとに、経済産業省令で定める高圧ガスの製造に係る保安に関する知識経験を有する者のうちから、高圧ガス製造保安企画推進員(以下「保安企画推進員」という。)を選任し、第三十二条第五項に規定する職務を行わせなければならない。

 この文章の中に現れる、主な対象語を *a「 」などで定義する。

*a「第一種製造者(<規定――前項)」

*b「経済産業省令」

 *f「(*b――定>)高圧ガスの製造に係る保安に関する知識経験を有する者」

 *g「保安企画推進員」<:>「高圧ガス製造保安企画推進員」

 これらの定義をまとめるのがめんどうだと思うときがある。このときには、本文に直接メモ書きをしてすませるという方法がある。定義部分に下線を引き、余白に*aなどを書き込むのである(表記例は割愛する)。

 これらの定義により、意味内容の構造を次のように表すことができる。

*a――選任>*g/{*f(<定―*b)}から/事業所ごとに;

 *a――must>> *g――行う> 職務(<規定――第三十二条第五項);

 良く似た構造をもつ条文については、構造図において異なる点を比較することにより、より多くの条文を、まとめて理解することができて、記憶の負担も少なくなる。

 これらの条文を、思考言語による構造図にまとめてみることを、何度か繰り返してゆくと、条文をそのまま読み下しただけで、頭の中に、その構造図が描けるようになる。

 法令の条文は、けっして良い文章であるとはいえないが、無駄の少ないものである。おそらく、何度も改正されることによって、理解しにくい条文ができていったのであろう。比較的最近できたと思われる法令の中には、用語の定義が最初にまとめて記述されているものがあるが、古い法令の条文では、あちらこちらで用語の言い換えが行われているので、法令全体の構造がつかみにくくなっている。例にあげた条文はまだやさしいほうであり、さらに何倍も複雑なものが存在する。おまけに、他の法律のあちこちと、蔦のように絡み合っているところがある。このような文章のもので、世の中が動いているのであるから、これらの法律を理解して解説する専門家という職業が生まれるのもうなずける。法令の条文に関しては、簡単に省略したり無視したりすべきではないので、上記の構造図などにあるように、細かく表現するように心がけたが、もう少し一般的な議論や、論証などの文章では、細かい部分を省略して、重要な骨組みに相当する部分を表現すればよいだろう。

 これまで、多くの文章にあたってきた過程で、思考言語の記述デザインを改良してきたが、現時点にいたって、かなりのタイプの文章を理解しやすくできるだろうという見通しがついた。

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