思考言語コアの、哲学論文「善の研究」への適用
思考言語のアイディア(5) 黒月樹人 KINOHITO KULOTSUKI 2003_09_28

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 「善の研究」 

 西田幾多郎著「善の研究」岩波書店刊(岩波文庫 青124−1)から、「第二編 実在」を取り上げ、思考言語コアを使って、この哲学論文の内容を調べてみよう。

 「善の研究 第二編 実在 第一章 考究の出発点」における「段落1」を以下に書き下してみる。ただし、文にA1から始まる識別記号をつけておく。

段落1(自然言語)

A1 世界はこのようなもの、人生はこのようなものという哲学的世界観および人生観と、人間はかくせねばならぬ、かかる処に安心せねばならぬという道徳宗教の実践的要求とは密接の関係を持っている。

A2 人は相容れない知識的確信と実践的要求とをもって満足することはできない。

A3 たとえば 高尚なる精神的要求を持っている人は 唯物論に満足ができず、唯物論を信じている人は、いつしか高尚なる精神要求に疑を抱くようになる。

A4 元来 真理は一である。

A5 知識においての真理は 直ちに実践上の真理であり、実践上の真理は 直に知識においての真理でなければならぬ。

A6 深く考える人、真摯なる人は 必ず知識と情意との一致を求むるようになる。

A7 我々は何を為すべきか、何処に安心すべきかの問題を論ずる前に、先ず天地人生の真相は如何なる者であるか、真の実在とは如何なる者かを明らかにせねばならぬ。□

 表現上の技巧には目をつぶり、論証の骨子となるものを、思考言語コアを使って、以下にまとめてみる。<*>,――*>,<は> などは関係語で、/* は状況語であり、これらの間にある単語や名詞句が対象語ということになる。

段落1(コア_1)

A1 哲学的世界観および人生観  <密接の関係> 道徳宗教の実践的要求;

A2 知識的確信 <相容れない> 実践的要求;

A3 高尚なる精神的要求を持っている人 ――can●満足> 唯物論;

   唯物論を信じている人 ――疑を抱く> 高尚なる精神要求に /いつしか;

A4 真理 <は> 一;

A5 知識においての真理 <⇔> 実践上の真理;

A6 知識 <一致> 情意;

A7 天地人生の真相,真の実在 <優先――

/比較/ 我々は何を為すべきか,何処に安心すべきかの問題; □

 ここに現れた、主な対象語を、*aなどで表してみよう。

 

*a「哲学的世界観および人生観」

*b「知識的確信」

*c「高尚なる精神的要求」

*d「知識においての真理」

*e「知識」

*f「天地人生の真相」

*g「真の実在」

*h「道徳宗教の実践的要求」

*i「実践的要求」

*j「唯物論」

*k「実践上の真理」

*l「情意」

*m「我々は何を為すべきか」

*n「何処に安心すべきか」 □

 これらの記号を段落1(コア_1)に代入すると、次のようになる。

段落1(コア_2)

A1 *a <密接の関係> *h;

A2 *b <相容れない> *i;

A3 *cを持っている人 ――can●満足> *j;

   *jを信じている人 ――疑を抱く> *cに /いつしか;

A4 真理 <は> 一;

A5 *d <⇔> *k;

A6 *e <一致> *l;

A7 *f,*g <優先――/比較/ *m,*n; □

A3では、――can●満足>「満足することはできない」や、――疑を抱く>「疑いを抱くようになる」という動詞型の関係語を用いているが、*cや*jを一つずつ固定して、それらの関係を考えてみると、<対立する>とか<否定的>ということになろう。つまり、これらの関係を思い切り簡単にして、否定記号の●を用いた「*c <●> *j」と表すことにしよう。A2の関係も、否定的である。しかし、A5やA6では肯定的な関係も現れている。これに対して、A1では<密接の関係>となっているが、これは否定的でも肯定的でもないので、中立であると見なそう。

このように概観し、ここで用いられている関係について、大まかに、否定的<●>、肯定的<○>、中立的<>の3つに分類してみることにしよう。

段落1(コア_3)

A1 *a <> *h;

A2 *b <●> *i; A3 *c <●> *j;

A4 真理 <> 一;

A5 *d <○> *k; A6 *e <○> *l;

A7 「*f<○>*g」 <●> 「*m<○>*n」; □

このようにすると、論証のパターンが見えてくる。最初は「*<>*」があって、次に「*<●>*」が二つ続いて、突然「*<>*」に分類できる短い主張があって、「*<○>*」が二つ続いて、最後に複合的な「「*<○>*」<●>「*<○>*」」が現れる。論理の内容については、まだ何も明らかにしていないが、論理の形式的なパターンははっきりしてきた。それでは、これらにおける論理の内容を考えるために、*a〜*nに、元の言葉を代入してみよう。すると、論理の形式的なパターンの変化は、四コマ漫画で多用される、古典的な「起承転結」の骨子に習っているのではないかということに思い当たった。「起承転結」という4つの象徴を意図し、[起],[承],[転],[結]という接続語を考え、これらを文頭におくことにしよう。

段落1(コア_4)

A1[起] 哲学的世界観および人生観 <> 道徳宗教の実践的要求;

A2[承] 知識的確信 <●> 実践的要求;

A3    高尚なる精神的要求 <●> 唯物論;

A4[転] 真理 <> 一;

A5    知識においての真理 <○> 実践上の真理;

A6    知識 <○> 情意;

A7[結] 「天地人生の真相<○>真の実在」

<●> 「我々は何を為すべきか<○>何処に安心すべきか」; □

 このように自然言語からコアへと翻訳することにより、論証の流れとかの特徴がつかみやすくなる。

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