構造安定性と形態形成(R.トム)第3章 数学における構造安定性
思考言語のアイディア(6) 黒月樹人 KINOHITO KULOTSUKI
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3.1 一般的問題
 A 連続的族と分岐
 構造安定性が或る理論に現れてくるのは、次に述べるような事情のもとである。どうしてもはっきりしないいい方になるが、まず幾何学的対象の連続的な族Eが与えられているとする。この族のおのおのの対象はパラメータ空間Sの点によってパラメータづけられている。実際にはSはEuclid空間または有限ないし無限次元の可微分多様体である。EをSの中の点sに対応する対象であるとするとき、Sの中の点tでsに十分近い点すべてに対して、それに対応する対象EがEと同じ形態(その意味はそれぞれの場合に応じて明らかにされるが)を持っているという状況が起こることがある。そのとき、Eは族の構造安定な対象或いは生成的(generic)な対象と呼ばれる。Sの中の点sで、Eが構造安定なものから成る集合は、生成点の開集合と呼ばれるSの開部分集合をなす。この開集合の補集合Kは分岐点(bifurcation)のなす集合と呼ばれる。(以下略)

 

これはカタストロフィー理論で有名なR.トムの著書にある文章である。数学の本であるにもかかわらず、数式がほとんど出てこない。しかし、ここにあげた文章のような表現は、数学の論証として、よく用いられる。

上記の文章をコア化してみると、次のようになる。数学に慣れていない人のために、最初の行に、数学記号の定義をつけておいた。数学に慣れている人なら、「ES <対応――s」のところを「f:s→E」と現すだろう。もちろん、そうしてもらってもかまわない。コアはただ、それぞれの思考を補助するだけである。これらのコアによる表現を整理して、図式のような関係図へと変換すると、さらに論証の構造が分かりやすくなる。

 

 ∀:任意の,x∈Y:xはYに属する,{a|aの定義}:集合a

A1 構造安定性――現れる> 或る理論 ,<※]事情(A2〜A8);

A2 E <> (幾何学的対象の)連続的な族;

A3 {対象(E)} <パラメータ化―― 点(パラメータ空間S);

A4 S <> Euclid空間,(有限,無限次元の)可微分多様体;

A5 [if]E<>対象 <対応―― 点s(S),

[→]点t(S)<十分近い>s,*状況――may起こる>,

*状況「対象Et (<対応――点t) <同じ形態を持っている> E

A6 [→]Es <> (族の)構造安定な対象,(族の)生成的(generic)な対象;

A7 *開集合「{s|点s(S)――対応> E<>構造安定}」

<> 開部分集合(S)<> 生成点の開集合;

A8 補集合K(*開集合)<> 分岐点(bifurcation)のなす集合;(2003.09.28)

 

実は、このカタストロフィー理論のR.トムの本については、日本語での翻訳本が出る、かなり前に、1975年の英語版を、私は手に入れていた。学生のときに、大学の生協で注文して取り寄せてもらったものだ。生物学から数学へと専攻を変えたものの、けっきょくは、雑多な分野に首を突っ込むことになり、ほとんど読んでいない。英語の論文などが、なんとか読めるようになったのは、地球科学系の仕事で、探査法の研究をすることになったあたりからのことである。データ解析の分野で発達した、数学の新分野の論文や本を、たくさん読む必要が生じたからである。思い出話はここまで。

2003年の分析では、日本語に翻訳された文を対象としたが、五年後の今、思考言語の様式を、英語でも使いやすいものに改正したので、この手法に従って、上記の分析箇所と同じ部分を、英文からスタートして、分析してみよう。次に引用したものを、分析対象とする。

 

3.1. THE GENERAL PROBLEM

A. Continuous families and bifurcation

The circumstances in which structural stability enters a theory can be described, in what must necessarily be imprecise terms, as follows. We are given a continuous family of geometrical objects Es ; each object of the family is parameterized by a point of a space of parameters S ; in practice S is Euclidean space or a finite or infinite-dimensional differential manifold. If Es is the object corresponding to a given point s in S, it may happen that, for any point t sufficiently close to s in S, the corresponding object Et has the same form as Es (in a sense to be made precise in each specific case) ; in this case Es is called a structurally stable or generic object of the family, and the set of points s in S for which Es is structurally stable forms an open subset of S, the set of generic points. The complement K of this open set is called the set of bifurcation points. The question, “Is K nowhere dense?” is what is usually called the problem of structural stability, and (in most theories) the object is to specify the topological structure of K and its singularities. We shall study the main theories in which this type of situation arises, proceeding, (as far as possible,) from the least to the most complicated, and from the best to the least known.

 

これらの英文に、思考言語コアの記号を感染させることによって、意味の構造が分かりやすくなるように、整理してみよう。それから、記号によって分断された部分を、適度に日本語へと翻訳し、これに基づいて、日本語だけの文章へと翻訳してみる。

 

3.1. THE GENERAL PROBLEM

A. Continuous families and bifurcation

The circumstances in which structural stability enters a theory can be described, in what must necessarily be imprecise terms, as follows.

3.1. THE GENERAL PROBLEM

A. Continuous families <and> bifurcation

The circumstances

/in/ which structural stability ---enters> a theory

<can be described---$

[,] /in/ what ---must necessarily be> imprecise terms

[,]<as> follows []

3.1. 一般的な問題

A. 連続する族 <and> 分岐

 状況/in/ which 構造的な安定性

---入る> 理論

<記述されうる---$

[,] /in/ what ---必要に違いない> あいまいな用語

[,]<as> []

 3.1. 一般的な問題

 A. 連続する族と分岐

次のような、あいまいな用語が必要となるところで、構造的な安定性が理論に入ってくるような状況が、説明されることになる。

 

We are given a continuous family of geometrical objects Es ; each object of the family is parameterized by a point of a space of parameters S ; in practice S is Euclidean space or a finite or infinite-dimensional differential manifold.

We <are given--- a continuous family of geometrical objects Es

[;] each object of the family <is parameterized by---

a point of a space of parameters S

[;]/in/ practice/

S <> Euclidean space

<or> a finite or infinite-dimensional differential manifold []

We <与える--- 連続的な族 of 幾何学的な対象 Es

[;] 族の、それぞれの対象 <パラメータで示す--- パラメータ S の空間の点

[;] 実際 S <> ユークリッド空間

 <or> 有限もしくは無限の次元の、微分多様体 []

幾何学的な対Esの連続的な族が、私たちに与えられる。その族の、それぞれの対象は、パラメータ空間Sの点で示される。実際、Sは、ユークリッド空間や、有限次元もしくは無限次元の、微分多様体である。

 

If Es is the object corresponding to a given point s in S, it may happen that, for any point t sufficiently close to s in S, the corresponding object Et has the same form as Es (in a sense to be made precise in each specific case) ; in this case Es is called a structurally stable or generic object of the family, and the set of points s in S for which Es is structurally stable forms an open subset of S, the set of generic points.

[If] Es <> the object <corresponding to> a given point s /in/ S

[,] it ---may happen> that

[,] /for/ any point t ---sufficiently close to> s /in/ S

[,] the corresponding object Et ---has> the same form <as> Es

 (/in/ a sense <to be made---$ <precise> /in/ each specific case)

[;] /in/ this case/ Es <is called a structurally---

stable <or> generic object of the family

[,and] the set of points s /in/ S /for/ which Es <> structurally stable

 ---forms> an open subset of S

[,] the set of generic points []

[If] Es <> 対象 <対応する> 与えられた点 s /in/ S

[,] it ---起こるかもしれない> that

[,] /for/ 任意の点 t ---十分に近い> s /in/ S

[,] 対応する対象 Et ---持つ> 同じ形式 <as> Es

 (/in/ 意味 <to be made---$ <正確> /in/ それぞれの特別な場合)

[;] /in/この場合/ Es <構造的に呼ばれる---

族の、安定 <or> 一般的な、対象

[,and] sの集合 /in/ S /for/ which Es <> 構造的に安定である

---形成する> Sの開部分集合

[,] 一般的な点の集合 []

仮にEsSにおいて与えられた点sに対応する対象であるとき、Sにおける点sに十分近い任意の点tに対して、対応する対象Etが、それぞれの特別な場合において正確であることがもたらされるという意味において、Esと同じ形式をもつようなことが起こるかもしれないが、この場合には、Esは、その族の、安定な対象、もしくは、一般的な対象と、構造的に呼ばれ、そして、Esが構造的に安定であるための、Sにおける点sの集合が、一般的な点の集合である、Sの開部分集合を形成する。

 

The complement K of this open set is called the set of bifurcation points.

The complement K of this open set <is called--- the set of bifurcation points []

補集合K of この開集合 <呼ばれる--- 分岐点の集合 []

この開集合の補集合K は、分岐点の集合と呼ばれる。

 

The question, “Is K nowhere dense?” is what is usually called the problem of structural stability, and (in most theories) the object is to specify the topological structure of K and its singularities.

The question

[,] “Is K nowhere dense?”

<> what <is usually called--- the problem of structural stability

[, and (in most theories)] the object <> $ --specify> the topological structure of K <and> its [,] singularities []

問題

[,] “Kはいたるところ稠密ではないのか

 <> what <通常呼ばれる---構造的な安定性の問題

[, and (in ほとんど全ての理論)] 対象 <> $ --特別にする> トポロジー構造 of K <and> its [,] 特異点 []

Kはいたるところで稠密ではないのか」という問題は、通常、構造的な安定性の問題と呼ばれるものである。そして、ほとんど全ての理論において、その対象は、Kのトポロジー構造と、その特異点を、特別なものにするものである。

 

We shall study the main theories in which this type of situation arises, proceeding, (as far as possible,) from the least to the most complicated, and from the best to the least known.

We ---shall study> the main theories /in/ which this type of situation ---arises>

[,] proceeding

[,] (as far as possible,) /from/ the least /to/ the most complicated

[,and] /from/ the best /to/ the least <known--$ []

We ---研究するだろう> 主となる理論 /in/ which このタイプの状況 ---起こる>

[,] 出来事

[,] (可能な限り,) /from/ 最小のもの /to/ 最も複雑なもの

[,and] /from/ 最良のもの /to/ 最小のもの <知られる--$ []

このタイプの状況で起こる、可能な限りで、最小のものから、最も複雑なもの、かつ、最良のものから、知られうる最小のものまでの、出来事において、主となる理論を、私たちは研究するだろう。

 

 こうして日本語へと翻訳したものを、ここに集め、最初にあった、おそらく専門の数学者が訳した日本語の文章を、もう一度、ここに収録してみよう。

 

 3.1. 一般的な問題

 A. 連続する族と分岐

次のような、あいまいな用語が必要となるところで、構造的な安定性が理論に入ってくるような状況が、説明されることになる。幾何学的な対Esの連続的な族が、私たちに与えられる。その族の、それぞれの対象は、パラメータ空間Sの点で示される。実際、Sは、ユークリッド空間や、有限次元もしくは無限次元の、微分多様体である。仮にEsSにおいて与えられた点sに対応する対象であるとき、Sにおける点sに十分近い任意の点tに対して、対応する対象Etが、それぞれの特別な場合において正確であることがもたらされるという意味において、Esと同じ形式をもつようなことが起こるかもしれないが、この場合には、Esは、その族の、安定な対象、もしくは、一般的な対象と、構造的に呼ばれ、そして、Esが構造的に安定であるための、Sにおける点sの集合が、一般的な点の集合である、Sの開部分集合を形成する。この開集合の補集合K は、分岐点の集合と呼ばれる。「Kはいたるところで稠密ではないのか」という問題は、通常、構造的な安定性の問題と呼ばれるものである。そして、ほとんど全ての理論において、その対象は、Kのトポロジー構造と、その特異点を、特別なものにするものである。このタイプの状況で起こる、可能な限りで、最小のものから、最も複雑なもの、かつ、最良のものから、知られうる最小のものまでの、出来事において、主となる理論を、私たちは研究するだろう。

 

3.1 一般的問題

A 連続的族と分岐

 構造安定性が或る理論に現れてくるのは、次に述べるような事情のもとである。どうしてもはっきりしないいい方になるが、まず幾何学的対象の連続的な族Eが与えられているとする。この族のおのおのの対象はパラメータ空間Sの点によってパラメータづけられている。実際にはSはEuclid空間または有限ないし無限次元の可微分多様体である。EをSの中の点sに対応する対象であるとするとき、Sの中の点tでsに十分近い点すべてに対して、それに対応する対象EがEと同じ形態(その意味はそれぞれの場合に応じて明らかにされるが)を持っているという状況が起こることがある。そのとき、Eは族の構造安定な対象或いは生成的(generic)な対象と呼ばれる。Sの中の点sで、Eが構造安定なものから成る集合は、生成点の開集合と呼ばれるSの開部分集合をなす。この開集合の補集合Kは分岐点(bifurcation)のなす集合と呼ばれる。(以下略)

 

やはり、専門家の文章のほうでは、数学の表現様式に、よく慣れたものになっている。また、思い切った意訳も、ところどころにある。これは、当然のことであろう。しかし、このような手順で訳した文のほうが、原論文の、考察における展開の様子や、もととなったイメージの配置とか関係が、よく伝わっているのではないだろうか。

実際の翻訳作業では、慣れることによって、このような手順を、頭の中で行うことにより、手続き上のめんどうさを軽減してゆくことになるだろう。それでも、各自の、その時点での能力の範囲におさまらないような、難物にであったときは、この思考言語コアによる記号を利用して、著者の原イメージを想像して、目的の翻訳文へと進めばよいだろう。

最初のページにあった、日本語をベースとした、思考言語コアの表現で、これらの文章の、意味上の骨組みを構成するというプロセスは、少し上級の問題となる。今度は、上記の操作における、対応した記述部分に注目すればよい。それを、次に集めよう。

 

3.1. 一般的な問題

A. 連続する族 <and> 分岐

 状況/in/ which 構造的な安定性

---入る> 理論

<記述されうる---$

[,] /in/ what ---必要に違いない> あいまいな用語

[,]<as> []

We <与える--- 連続的な族 of 幾何学的な対象 Es

[;] 族の、それぞれの対象 <パラメータで示す--- パラメータ S の空間の点

[;] 実際 S <> ユークリッド空間

 <or> 有限もしくは無限の次元の、微分多様体 []

 [If] Es <> 対象 <対応する> 与えられた点 s /in/ S

[,] it ---起こるかもしれない> that

[,] /for/ 任意の点 t ---十分に近い> s /in/ S

[,] 対応する対象 Et ---持つ> 同じ形式 <as> Es

 (/in/ 意味 <to be made---$ <正確> /in/ それぞれの特別な場合)

[;] /in/この場合/ Es <構造的に呼ばれる---

族の、安定 <or> 一般的な、対象

[,and] sの集合 /in/ S /for/ which Es <> 構造的に安定である

---形成する> Sの開部分集合

[,] 一般的な点の集合 []

補集合K of この開集合 <呼ばれる--- 分岐点の集合 []

問題

[,] “Kはいたるところ稠密ではないのか

 <> what <通常呼ばれる---構造的な安定性の問題

[, and (in ほとんど全ての理論)] 対象 <> $ --特別にする> トポロジー構造 of K <and> its [,] 特異点 []

We ---研究するだろう> 主となる理論 /in/ which このタイプの状況 ---起こる>

[,] 出来事

[,] (可能な限り,) /from/ 最小のもの /to/ 最も複雑なもの

[,and] /from/ 最良のもの /to/ 最小のもの <知られる--$ []

 

 実は、これらをベースにして、それぞれの部分を、より本質的な部分だけを残したり、抽象化によって、まとめたりすればよいのである。最初のページの下部に、まとめてある表現は、専門家が訳した日本語の翻訳文をベースにしているためか、われながら、うまくまとまっている。私自身が、この回答を知っているので、上記のコア翻訳文から、この回答へのプロセスを、さらに細かく説明するのは、難しそうである。ということで、このようなプロセスについての説明は、新たな解析対象を見出して行うことにしたい。

 (2008.07.09)

 

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