発酵コオロギダンゴ蒸し
天国にいちばん近い町(3)

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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ぼくがミジンコやオキアミをてきとうに泳がせておいて(もちろん、この表現は象徴的なものである)、白状させるのも忘れてしまうのには、それなりのわけ(理由)があるんだ。それは何かというと、好きでなったわけじゃない、この支局の共同体の議長の、一年でいちばん大きな仕事である、宴会か旅行かの、計画を練って、それをチューブから押し出して、キャンバスに広げ、何かの絵を描かなければならなかったってこと。それはずいぶん昔のことになってしまって、細かいことは忘れてしまったけれど、最初から説明しないと、きっと分からないだろうから、順番に話してゆくからね。

順番か、そんなむつかしいこと言ってたら、何も話せなくなってしまうから、最初のころのことを何か説明することにするからさ。それでいいだろ?

まずぼくが、宴会か旅行かの、計画を推し進めるときに心がけたことが幾つかあるから、そいつを取り上げることにしようと思うんだ。

 

まずは、スタッフと話し合って内容を決めてゆくということ。

前年は、異星シナモンのグレイ(目が異常に大きいのだけれど、複眼なのか、ゴーグルなのか、とうとうわからなかったやつ)が共同体の議長で、ぼくが副議長だった。グレイは、この局には永くいたので共同体に所属していたのだけれど、このパセリ星のことをよく知らなかったので、ジタンとキメラ(サウルス)に利用されても、そのまま受け入れていれば何も困難なことが生じなかったので、ああ楽なもんだ、議長なんて、何もすることがないと、思えて、そのままにしていたらしいので、このパセリ星のことなら、グレイよりはるかに知っているはずの、ぼくには何も相談がなかった。ぼくの、議長就任のための、一年の研修期間が、そうして終わったようなものだったが、ぼくは、こんなことは間違っていると思ったよ。グレイは、議長の役目を終えると、何を考えていたのか、この局の仕事をやめた。今は、この星にいるのかどうかも分からない。少なくとも、この町にはいなさそうだ。

 次は、分担できる仕事を見つけてスタッフで分け合う。

ぼくはミーアキャット型シナモンなので、比較的手先が器用で、色々なことは一人でやってしまえると考える傾向があったのだけれど、前記のような体験があったので、ぼくが共同体の議長になったとき、新たに決まった副議長のブラックタフと、書記のオパールには、何か分担できる仕事を探して、やってもらわなくては、昨年のほくと同じことになってしまうぞ、と思った。そのようにすれば、ぼくの力も、ブラックタフの力も、オパールの力も、みんな少しずつ伸びてくるからね。何もしなかったら楽だと考えるのは、この大きめの重力のパセリ星では間違っている。楽なら、どんどんそのままになるのではなく、色々なものが萎縮してゆく。この星では何らかの困難がシナモンたちを進化させてきたのだって。ヒョウガ・キだけではない。スノーボール・パセリ・キだって、けっきょくは進化に結びついたということを、ぼくは聞いたことがある。

三つ目として、プランニングの方法を示しておくこと。

ぼくは、カードをつかった発想法を知っていたんだ。発想のための魔法の言葉であるポーも知っていた。流れの思考と川越えの思考の違いだけでなく、ねじれの位置にある橋わたりの思考も知っていたのだけれど、単調な仕事しか要求されない、この支局での生活で、それらのことをみんな忘れかかっていたのさ。でも、旅行のプランニングをするときに、これらのことを使えるということに気がついたってわけ。そして、ブラックタフやオパールが、これらの思考の方法を知らなさそうだということもわかってきたので、ちょうどいい、この機会を使って、これらの方法を伝えておこうと思ったのさ。賢いだろ。

 四つ目のこと。支局長とのおおまかな交渉が必要なときは、それを先に片づける。

支局長との交渉は、議長である、ぼくの仕事だった。このようなときに、ようやく、支局長のスアナ前にあるニワを整備する仕事を、なんだかんだ理由をつけられて手伝わされてきたことが役立ったことを、ぼくは知った。ぼくのカーストはスードラではない。だが、これではまるでスードラみたいじゃないか、とぼくは考えたことがある。しかし、ぼくはがまんして引き受けることにした。そうすれば、このようなことをやらされている意味が何かあるかどうか分かるときがくるかもしれないと考えたからだった。ニワの仕事は、はじめ、スードラのように扱われているように感じられていた。しかし、何度もやっているうちに、支局長もいっしょにやるようになり、大きなニワイシを掘り起こして移動させたり、ニワキを植えかえたりするうちに、なんだか対等なカーストにいるシナモンのような、ふしぎな関係が芽生えてきた。これらの関係のときに用いるコトバも、仕事のコトバとは異なることが分かった。ところで、うっかりして、ニワ仕事のときに使っているコトバを、支局の仕事のときに使ったときがあったのだが、支局長とぼくは、いったい何が起こったのかと驚いたのだけれど、そばにいたジタン支部長が突然怒りだしたのだ。

「支局長にむかって、昼の休憩時間がきたので、はやく言ってくれとは、何と言うことをいうのだ」

とジタンが言ったのだけれど、ぼくは何がよくなかったのか分からなかった。どうやら、低いカーストにいる、ぼくなんかは、ユーラモチであり、支局モチでもある、高度なカーストの支局長に、何かを要求するということじたいが、ありえないことだったのだ。

「コリアンダーはもうだめだ」

とかなんとかジタンが言っていたが、

「だめなのはジタンのほうだろう」

と、ぼくは心の中でつぶやいた。このようなことも、ニワ仕事を引き受けていたおかげで、何のダメージにもつながらなかった。ぼくを斬ってしまえば、ニワ仕事を手伝ってくれるシナモンをほかに見つけられそうにないと支局長が判断していたからだ。

 

一日旅行ではなく、一泊二日の旅行のプランを立てることになった理由と、その経過のことを説明する。

ぼくは、旅行のときに向かう、色々な目的地のリストをカードに書いてもらい、ブラックタフとオパール相手に、それらのカードをつかって、一日旅行のプランニングをどのようにするかというところで、ふと気がついた。まてよ、一日旅行じゃなくて一泊二日の旅行だったら、問題点がひとつ消えるぞ、これは先に調べておくことだ、と。つまり、その問題点とは次のようなことだった。

赤い水(水が赤いのではなく、その水を飲んだシナモンの皮膚を赤く変色させるという意味)を飲んで、その日のうちに車に乗って帰らなければならないようでは、安心して赤い水をのむことができない。一泊二日なら、一泊目の夜に赤い水を、安心して飲める。

ぼくは、支局長のところにむかい、

「これまでは一日旅行ばかりでしたが、一泊二泊というプランは、あり、ですか?」

と聞いてみた。意外にも、支局長はよろこんで、あり、のほうを指示するではないか。

「昔は、旅行積み立てをやってユーラを貯めておき、他領域への旅行だってやったものだ」

と、昔の日々を懐かしむように語った。

ブラックタフとオパールのところに戻ったぼくは、

「プラン変更。一泊二泊も、あり、だ」

と簡潔に語った。ブラックタフは、

「それなら、目的地のリストは飛躍的に増えるから、やり直しだ」

と応えた。オパールも目を輝かせた。

「オパール、目が落っこちそうだ」

とぼくが言って、みんなで笑った。

 

 一泊二日の最初のプランを、ようやく一つまとめることができたけれど、これを公表する前に、支局長の意見を聞いてみることにした。

何年か前の議長が、何の意見も聞かないで、突然朝礼でプランニングを公表したとき、ジタンが、

「それはだめだ、これもだめだ」

と、なんやかや事情があることを付け足して、否定したことがあるんだ。

これを避けるためには、公表する前に、了解をとっておくことさ。支局の仕事のことなら、局の階層を順に上に上がってゆきながら了解をとる必要があるから、どこかでジタンのところも通って、支局長のところまでプランをあげなければならない。しかしだよ、このときの旅行のプランニングは、共同体の議長と支局長との直接交渉でよいはずだろ。なぜならさ、共同体と支局とは対等の関係にあるから。そうじゃなかったっけ。形式的には、というただし書きはつくのだろうな。確かに、経済的にも、権力的にも、カーストとしても、対等ではないことが多く隠れているから。しかし、とにもかくにも表向きは対等なのさ。

このプランを支局長に説明したところ、

「それなら、ここも見ておくべきだ」

と、新たな目的地を指示してきた。これは受け入れておくべきだと、ぼくは考えた。交渉とはこのようなもの。こちら側の要求を全て通そうとしても、そのようなことはほとんどできないってこと。相手も何か要求してくるね、きっと。きっと、そうに決まってる。だから、お互いが納得するには、どちらのほうもメンツが立つようにまとめてしまうということなのさ。ぼくって賢くない?

しかし、支局長が出してきた目的地を組み込むとしたら、行程や宿泊地などを、全面的に修正しなければならなくなっちまった。

この時点で、宿泊地を温泉にするという条件を切り捨てるという決断をしなければならなかったんだ。どこかの温泉には、ぼくも行きたかったんだけれどさ。

これ以外にも、幾つか生じてくる条件を整理して、実行可能なプランを、みんなで考えなおすことにしたっけ。

だけれどもね、決まったのは、単なるあらすじにしかすぎなかったんだ。

あらすじの、一つの流れは、他の石の町のようすを見るということ。

もう一つの流れが、支局長が指定した街のようすを見るということ。わかった?

 こうして、旅行のあらすじを決めたあと、

「一日(か一泊二日)での下見旅行を行って、実際の見どころを、スタッフが見ておこう」

とぼくは決意し、このような下見の費用をムーンストーンに準備しておいてほしいと頼んでおいた。

日をおいて、

「下見は前例がない」

とジタン・プランクネットから批判されたことを、ぼくはムーンストーンから知らされる。

「本当に下見に行くの?」

とオパールから驚かれた。

だけどさ、下見をするのとしないのとでは、プランニングの出来が異なる。このことをぼくは知っている。だから、

「何が何でも下見は決行するからね」

と宣言しちまった。

そしたら、下見にはブラックタフもオパールも参加できないと言い出したね。感情的な理由からでなく、それぞれに固有の理由があったので、残念だが、聞き入れるしかなかったよ。

だからぼくは、下見をぼくとドロテツ・ドロマイトとで行うことにした。

ドロテツは、旅行先について詳しい。そこで住んでいたことがあるからだ。

「わたしの庭だ」

と言っていたっけ。

 

さあ、次は、下見旅行のあれこれについて話すよ。

下見はドロテツの車で行った。よく走る車だった。もちろん、この時のエネルギー代は共同体で出してもらう。高速料金も、昼食代も、もちろん共同体もち。もち、そうさ、そうに決まってる。現地で調達する資料のほうが、内容は豊富であり、数もそろえられるってことが分かったね。

「この街に駅をもつ鉄道の、その駅前に観光センターがありますから、そこで資料を手にいれましょう」

と、ドロテツが言う。

棚に並んでいるパンフレットを抜き取るだけでなく、観光センターの局員に話しかけ、

「実はこの街に親睦旅行で来る予定がありまして、そのための下見に来たのですが、何か良い資料はありませんか」

とドロテツが言って、局員お勧めのパンフレットを、共同体のシナモン数(40匹)だけ、受け取ることができたってこと。すごくない? 

下見旅行で他にもチェックしたのは、次のようなことさ。

ルートのチェック。高速料金について。視察箇所の、当日の開閉状況のチェック。食事場所の調査。宿泊場所の検討。

ドロテツが勧めていたホテルのことを、

「事前にスパイダーネットで調べたところ、改修工事のために休みとなっていましたけれど、一応見に行きましょうか」

とドロテツが言うんだ。行ってみると、改修工事はずうっと先に延期されていて、旅行当日は大丈夫だということが分かったっけ。どうやら、工事期間の変更のことが、ネットに流れるまえに、ドロテツがチェックしてしまったらしい。ほんのわずかなタイムラグだったけれど、実際に行ってみて、ほんとうのことがつかめたよね。

それからそれから、全体の流れと構成の検討。駐車場や、その他あれこれについての確認。このようなところかな。

 

さあ、ただのあらすじだったものが、具体的な行程になってきた。

「初日に局の工場前を出発して、途中でトイレと吐煙休憩を何度かサービスエリアでとる以外は、ひたすらバスで走ったり飛んだりしてもらって、最初の目的地である、タヌキドキア(タヌキノスアナが語源らしいが、意味不明)に着く。もっと細かく言えば、宿泊場所である、タヌキドゴテン(タヌキノオウチが語源らしいが、これも意味不明)というホテルの駐車場に着く。そこで荷物をあずかってもらい、タヌキドキアの岩窟ショップや岩窟博物館の数々を見てまわる。このときの昼食から自由行動だ。夕方までに、宿泊場所のタヌキドゴテンにチェックインしてもらう。ここで宴会の夕食をとり、その夜も自由行動とする。翌日は、ホテルでバイキングの朝食をとってバスで出発し、やはり、走ったり飛んだりして、カンブリアヘイヤにあるミステリーストーンサークル庭園を見学する。ここからの移動中に昼食をとり、最後は、大理石の産地で有名な、ケララヤーマに到着し、大理石の加工研修センターを見学する。ドロテツが研修したところ。それから、大理石の露頭で最近発掘された、古代の遺跡を見学する。これは、掘りっぱなしで、あまり厳格に管理されていないから、ドロテツに案内してもらう。この後は、ひたすら帰郷する。こんな感じかな」

と、ぼくがドロテツに聞いてみる。ハンドルを握りながら、

「いいんじゃないですか」

とドロテツが応じる。

 

 下見が終わってから、これらの行程を詳しく検討して、ぼくが時間やルートなども組み込んでプランニングする。ブラックタフとオパールは下見に参加しなかったので、相談してもはじまらない。ドロテツはスタッフではなかったが、下見の行程中のドライブ中で、いろいろなことを話して、検討するための議論相手になってもらった。下見そのもので、検討会議は終了していたので、あとはぼくがまとめるだけということ。

プランニングを、用紙一枚に収めることと、小さすぎないポイントの文字を用いるということに注意した。

以前の共同体旅行のプランニングを、小さな文字でまとめてきた議長がいる。その議長は若くて、小さな文字でも読めたのだけどさ、老朽化した共同体の半数以上は、すでに老眼期に入っているからね。ぼくは読むことができたけど、困惑しているシナモンたちの表情を観察するほうがおもしろかった。いつもは知られないようにしているシナモンたちの、ほんとうの年齢が分かるから。

 

 共同体の予算を形式的に握っているムーンストーンに、ぼくが計画した予定表を見せておいたら、

「車中は禁色煙でお願いします」

と予定表に書き込むようにと、ムーンストーンが指示してきた。特に色煙に敏感なサンストーンを配慮しての要求だった。

これに関して、のちにキャメル・ブラックボックスの参加・不参加問題が生じることになる。

また、

「およそ1/π(概算して数千万ユーラほど)は参加シナモンの負担となります」

の一文を、ぼくの判断で書き込むことにした。このことについても後述する。

 

共同体の資格シナモン全員へ、資料と、ぼくがまとめた予定表を配布し、検討する時間(数日)をとることにした。

 

「車中は禁色煙でお願いします」について。

キャメル・ブラックボックスは、旅行の予定表を前にして、

「プランそのものは何も問題がないし、興味もあってぜひ参加したいのだけれど、ここのところがね」

と、ムーンストーンの一行を指差した。

「青煙を吐けないというのでは、慰安(旅行)じゃない」

ってさ。

ブラックボックスは勝手にタイトルを読み変えている。これは新春慰安旅行ではなく、新春親睦旅行なのに。

でもね、これまで一度も、このような旅行に参加しなかったブラックボックスが参加したいと言うほど、このプランニングはよかったことになる。これは、なんとしてでも、参加してもらわなければ、とぼくは思ったね。

さっそく、ムーンストーンとサンストーンのところに行き、

「色煙マニアは後方の座席に集まってもらい、嫌色煙チームのかたがたは前方に座って、色の煙は窓から流してもらってはどうですか」

と提案する。なんとか、これで協定がまとまりそうだ。これでもだめなら、

「透明なシートで、前後を区切る」

という案も提案した。サンストーンが笑っていた。ぼくは本気なのに、ジョークにとられてしまった。

 

 「およそ1/π(概算して数千万ユーラほど)は参加シナモンの負担となります」

の一文についてのこと。

 これは、ジタン・プランクネットがキメラサウルス・ユーラキョウ(支局長)に入れ知恵したことらしい。

これまでの旅行では、費用の1/e(自然対数の底。およそ1/2.718なので、0.368)を共同体がもち、あとの額を支局が分担していたらしい。それらの多くは一日旅行だったから。ところがさ、今回の一泊二日の旅行では、額も大きくなるだろうから、

「費用の1/e(0.368)を共同体がもち、1/π(0.318)を参加シナモンがもって、その残り(0.314)を支局がもつことととする」

と言うのだ。

「そうなったら、誰も参加しなくなる」

とジタンが踏んだらしい。なぜだか分からないが、ジタンは一泊旅行をしたくないらしい。

 

支局長との費用についての交渉についても、話しておかなくっちゃ。

「旅行に参加されるシナモンは、旅行当日、それぞれの好みで昼食をとったり、博物館などの入場料を支払いますから、それを費用の1/πとして認めてもらえませんか」

とぼくは支局長に提案したのだけれどね、このような数値の計算について理解できないらしく、前述のルールを繰り返すだけだ。後から考えると、ホテルの宿泊費やバス等による移動費を支局長は過大に見積もっているらしく、費用の総額がどんどん大きな値になってゆく。ユーラモチには、それなりにゆずれない基準があるらしい。しかし、今回の新春親睦旅行に参加するシナモンのユーラ・エンドル(エンゲル?)係数を考慮すると、ユーラモチのピークより、はるかに、ユーレイのピークのほうに偏っているじゃないか。支局長は何か勘違いしている。これは支局長への接待旅行ではなく、共同体の(なぜだか支局長も支部長らも入っている)構成員の親睦旅行なのに。

ブラックタフは

「いわゆる無礼講(古典語で、シナモンの種類やカーストの区別なく、接待とか供用とかの礼儀をぬきにしてする宴会のこと)じゃないか」

と言う。そのとうりだ。

共同体の会計であるムーンストーンに共同体から出せる金額などを相談するが、ジタン・プランクネットの影が見え隠れしている。ムーンストーンの自由にはできないらしい。議長である、ぼくの権限はどこまであるのかな。分かんねえや。

 

 いよいよ参加と不参加の集計をすることになりました。めでたしめでたし。

これは、ぼくとブラックタフとオパールとで分担して集計することにしたよ。

ところで、ブラックタフはユーウツ病の症状が悪化するおそれがあるので不参加。

コーネリアスは、まだ異星人登録であり、共同体への登録が完了していないために不参加。

オパールとドロテツは参加するので、何か役目を分担してもらうことにするからね。

何度も行ったから行かないという理由で参加しないシナモンがいる。

何度も行ったのであれば、はじめて行くシナモンに、ここがいい、あれはよくないなどと言って案内すべきだろう。ドロテツは、行った行っていない、のレベルではなく、かつて、そこに住んでいて、今回も参加しているのだ。見ならってほしいな。

温泉ではないからという理由で参加しないシナモンがいる。

温泉を条件からはずさなければならなくなった理由については説明していないけどさ。だけどさ、だからといって、旅行当日に、近所の温泉に一匹だけで、バスに乗ってゆくことを、目の前で言いふらす必要はないだろう。

「それくらいの距離だったら、歩いてゆけばよいではありませんか。そうしたほうが、温泉のありがたみが実感できますよ」

と、ぼくは言っておいた。

半日歩き回るのは嫌だから行かないという理由で参加しないシナモンがいる。

「毎日仕事をしているときは、(休憩時間を除いて)朝から夕方まで、歩き回っているじゃありませんか」

と、ぼくは言い返しておく。

共同体の親睦旅行なのだから、このような、自分だけの都合での、勝手なことは言い出すべきではないのだと思うけどなあ。

クレオパトラ・タ・タルクとキミドリ・キャッツアイ(いずれも、宝石磨きのメスシナモン)は、

「親睦旅行なのですから、どんなことがあっても、あれこれと工夫して、皆さんと親しくなるために参加すべきなのに、参加されない皆さん、いったい何言ってらっしゃるのかしら」

と、文句なく賛同してくれる。クレオパトラとキャッツアイは、コシナモンの世話をツレアイのオスシナモンにやってもらって、何の問題もありませんとばかりに平然としている。そのようなシナモンの種族もいるのだ。

しかし、不参加シナモンのことに戻るけれど、相手も(一応)一匹前のシナモンなので、そのようなことを不参加シナモンの鼻梁線(びりょうせん)直正面から言えず、あとでぼくはムーンストーンとサンストーンに愚痴ることになっちまった。もちろん、愚痴るときにも、何らかのエピソードをからかって、笑いをとることは忘れていない。

日程が一週間のびたから、何匹かに理由が生じて参加できなくなったこと。

これらの理由はしかたがない。悪いのは行程を変更した側にある。

ところで、一週間のびた理由は、昨年から実行日だけを予告しておいたにもかかわらず、支局長が、その中の一日に、個シナモン的な理由で用事を組み込んでしまったからだ。支局長は、

「みなさんの都合が悪ければ、最初の日程のまますすめてくれればよい」

と言ったのだけどさ、そのようなことができるわけがないじゃないか。この旅の最大のスポンサーを切るわけにはいかないからね。ぜひ参加してもらい、引き出せる限りのユーラをしぼりとらせてもらわなくては。もちろん、このようなことは言っていない。

「だいじょうぶです。ホテルにはまだ何も言っていません。日程なぞ、いくらでも変えられます」

と言っておく。

 メガロベントス・ベントナイトは、このとき、保留の三角マークだったけれど、時系列的には、もうすこし後のことになるけれど、メガロのやつったら、新春親睦旅行の一週間前に、何日も休みをとって、どこかは言わなかったけれど、他領域へと家族旅行をしたんだぜ。いいなあ。家族がいっぱいいて。ユーラもいっぱいあって。かんたんに連続した休みがとれて。

それで、新春親睦旅行の二日前だったかな、三角マークをどうすればいいのかって聞いてみたら、一言、

「バツ(×)」

って言うじゃないか。理由を聞くのも、あほらしかったよ。この方言って、こんなときに使えるんだね。うんうん、うまくなったぞ。

 

 宿泊するホテルの手配をすませるときのこと。

部屋割りの苦心が色々あったっけ。こんなことは、めんどうだから省略。

「目を光らせておかなければならないシナモンは、一室に集めてあり、もちろん、そこにぼくも泊まります」

そのようにホテルのシナモンに伝えると、笑われてしまった。ぼくは本気で言っているのに、ジョークだと受け取られてしまったらしい。またやっちゃった。まあ、そんなものか。

この旅そのものが、巨大なジョークの無限集合の離散被覆(このあたりの数学用語によるジョークは理解できますか)なのですからね。

 

 色煙戦争の危機。これじゃ、まるで、ニュースのタイトルだよね。

 ある日、サンストーンとムーンストーンが、色煙を車中で吸うことが分かりきっているキャメル・ブラックスボックスのことを予想して、不参加転向を主張しだす。すなわち、色煙戦争の危機が生じ、この調停案として、鉄道による移動案を検討することになる。キャメルはもちろん車中で吸うつもりであるらしい。

「色煙の件はどうなった」

と聞いてくる。

「ほんとうにオレは参加することになっているのか」

とも。

「もちろんですとも、ぜひ参加してください」

と、ぼくは言っておく。

ブラックボックスを切り捨てることができたら、なんと簡単なことか。あるいは、ムーンストーンとサンストーンのほうをあきらめるか。そんなことはできない、と、ぼくは考える。これ以上参加シナモン数が減ってしまったら、旅行そのものが成立しなくなる恐れがある。そのような規定はないのだが、すでに参加者数は半数を大きく下回っている。参加の集計をした時点で参加18匹と、保留2匹だった。それと、病気で入院中が1匹。とりあえず不参加としておくが、歯の治療の経過状態によっては参加に変更するかも、というケースが1匹。何かが良いほうに向かって、これらの可能性が全て参加へとむかったら、過半数のシナモン数が成立する。だからといって、法案が成立するとかしないとかの、重要な数読みということではないのだけれど、数が減りすぎると、文句のほうがどんどん増えてゆく。

このようなときに、あの、ミジンコとオキアミが、嘘で塗り固めた理由で、参加の票を2つも減らしてしまったのだ。

「キャンセル料を払わせてやる」

と、ぼくが言ったってことの理由がよく分かるでしょ。

この鉄道による移動案は、費用の関係で消えました。

ムーンストーンがスパイダーネットで調べ、費用の総額を出したところ、仮に見積もってあったバス代より何割も多くかかってしまったから。

ムーンストーンとサンストーンは、

「支局長がすでにバスでゆくつもりだと決めている」

と想定し、

「それを覆すと問題の火の粉が、あたしたち月日(ムーンストーンとサンストーンをまとめて月日と呼ぶことがある)のほうに降りかかってくるかもしれない」

と判断して、鉄道案と不参加転向の取り下げを確約したね。

細かくトイレ休憩をとってもらって、ブラックボックスに車中では我慢してもらえればよいということになった。

 

 利用するバスの手配のときの交渉内容についても、少し。

下見をしておいたため、宿泊の手配も、昼食の手配も済ませ、利用するウルトラマリンラインという道路も無料になっていることや、駐車場も全て無料であることを確認してあるので、とにかくバスと運転手の手配だけでよいと、ぼくが主張すると、旅行業者が手数料を組み込む項目がほとんどなくなって、支局長が予想していた額を大きく下回ったね。へへっ。どうだ。やっただろう。

支局長らの、これまでの旅行では、業者に丸投げしていたので、斜面を転がるゆきだるまのように、どんどん費用が膨らんでいたということが、こうして分かったてこと。

 

 二日目の昼食の手配をすること。

日時と内容と匹数を申し込む。そしたら、

「確認のためのケータイ番号を教えてほしい」

といわれるじゃないか。ぼくはケータイをもっていないから、これはドロテツのケータイの番号を借りることにした。そうして連絡の手続きの確認をとる。

 

 見学箇所であるケララヤーマの「大理石加工研修センター」への手配デンワァを入れる。

そこへの手土産の購入のこと。

これは、この町にちなんだ恐竜型モナカ(この町では、恐竜の化石も少し出る)にしておく。

 

 スッポニアの首に紐?

 旅行の数日前、ジタン・プランクネットが

「スッポニアの首に紐をくくって引っ張ってゆけ」

と、ぼくに指示した。もちろん、これは冗談なのだ(実際、スッポニアの首に紐をくくっても、するりと抜けられてしまう)が、スッポニアの取り扱いをめぐってドロテツ・ドロマイトに相談すると、

「ジタンに任せればよいではないですか」

という返事がくる。それは当然なのだが、

「ジタンは参加しないんだ」

と言うしかないじゃん。

ドロテツは、両手の肘から先を水平に保ち、両方の手の平を空へと向けて広げた。

「お手上げですね」

のポーズだそうだ。

 

 親睦旅行の道中で、支局長がもちだす難題の数々について。さあ、はじまったぞ。

 最初の見学地の時間を削って、初日の昼食のことで

「ミミズパスタ(ミミズを食べるわけではなく、ミミズ状の柔らかさに調整したパスタのこと。ミミズを食べるほうは、パスタミミズと呼ぶ)を、みんなにも食べさせたいなあ」

と、つぶやくと、

「赤の地中海(A領域の海の色は鉄分が多いらしくて、赤みをおびている)の橋を渡って、再び戻ってこよう」

と言い出す。

トイレ休憩のとき、バスの前で、運転手は

「橋を往復するとユーラがあと幾ら必要になるか、分かっていますか」

と、ぼくに説明しはじめる。

「この旅のプロデューサーはぼくだから、支局長の言うことをそのまま聞かないで、聞き流しておいてほしい」

と、ぼくは運転手に言う。

「ぼくが何とか説得するから」

とも。

バスで、支局長の真後ろに席を取っているぼくは、

「そのプランはボクが最初に立てたもので、それを支局長が、この、タヌキドキアの街を見ておくべきだと言ったから、できなくなったのじゃあありませんか、橋を渡らないということに変更したのは支局長ですよ」

と言い、すこしして(時間経過用語)、

「だから、さっきも言いましたけれど、橋を渡らないようにしたのは支局長ですって」

と何度も語りかける。反復して語らないと、支局長のメモリーにうまく書きこめないことを知っているからだ。

支局長は、「橋を渡ってミミズパスタを食べて、再び戻る」という思いつきのプランを、「ごみ箱」へとクリックして投げ込む。

 

サンストーンが口にマスクをする。どうやらブラックボックスがバスの後方で青煙を吐き出したらしい。このバスは窓が開かない。換気扇は、後方にではなく、前方についていた。これは失敗だった。後部座席に窓があるバスを指定しておくべきだったのだ。しかし、何度か細かくトイレ休憩をとったので、このときに色煙も吐くように心がけるシナモンが増えだした。なにしろ、運転手そのものが、そのとき、バスを降りて、赤い煙を吐き出しはじめたからだ。バスの運転手もトイレ休憩を楽しみに待っているのだ。だから、ときどき聞いてくる。そろそろトイレ休憩を取りましょうかと。

 

初日の昼食を「醗酵コオロギダンゴ蒸し」にして地元の赤水を飲むというプランで自己表現することを支局長は思いつき、バスがタヌキドゴテンの駐車場に到着し、ホテルのフロントに移動したあと、

「どこかにおいしい醗酵ゲーテモノ(かつてゲーテという詩人が愛した高級食材と言う意味)料理店はないか」

と、ホテルの従業員に聞き、ホテルの中に消えてゆく(ところが、支局長の意図は?)。どうやら、手配してあった6脚タクシーがやってきたらしい。そこで一行も解散することにして、各自タヌキドキアの街にでて昼食をとることにする。

街に出るといっても、一つの山全体にめぐらされた道をうろうろしながら、その山肌に掘られた岩窟ショップや岩窟博物館を見てまわるのだ。これがタヌキドキアの街の構成スタイルである。だから、重力に抗して上り下りしなければならず、けっこう疲れる。やはり、(来なかったけれど)ドロシーには無理だったかも。

 

スッポニアの行動について、ぼくは確認する。

「どうするつもりか」

と聞いてみると、

「コリアンダーさんについてゆきます」

とスッポニアが言うが、

「ぼくは旅の全体的な仕事があるから、他の誰かを探せよ、なあぁ」

と言う。スッポニアが

「ヒイロカキアカさんにする」

と言うので、

「それでは自分で頼みにゆくんだな」

と指示するが、スッポニアはあっさり断られてしまう。

ぼくはヒイロカキアカと話し合う。ヒイロカキアカは、ぼくの気持ちをくんでくれたらしく、スッポニアと他のシナモンを含めた4匹で、しばらく一緒に行動しようということになる。

4匹は街にでて、食事をとる店に入る。

ぼくのメモノートにスッポニアのケータイ番号を、スッポニア自身に書かせる。ぼくはケータイを持っていないが、誰かのケータイを借りてスッポニアへと連絡することができるようにと、である。

この様子を見ていたヒイロカキアカが、自分のケータイの番号をスッポニアに教える。

「何か困ったことがあれば、ここに連絡するように」

という意味で、だ。

これで、万一スッポニアが迷子になっても、指示を出せる。たとえば、

「(大きなほうの)月はどっちに出ている?」

とか、

「周囲に誰かいたら、ホテルまでの道を聞け」

とか。

注文を終えて、この後の行動プランを練るため、パンフレットを広げて話し合っているとき、ヒイロカキアカのケータイが鳴った。支局長からだった。

支局長は一匹で「醗酵コオロギダンゴ蒸し」を食べ地元の赤水を飲んでいるそうだ。なぜか。支局長がホテルの奥からフロントに戻ってきたとき、誰もいなかったというのだ。ケータイの内容は、

「ヒイロカキアカも、ここへ来て、いしょに飲まないか」

という誘いだった。もちろん、ヒイロカキアカは、ここでの注文も終えていたので、ことわった。その後の支局長の行動については後述することになる(エピローグ4,エピローグ5)。

 

ビクターコマイヌ博物館での、ヒイロカキアカとスッポニアのエピソード。ここにはパセリ星の各領域に置かれた、コマイヌやシーサーとか、それに類似する、魔よけのためにつくられた石の塑像が展示してある。聞きたい? こんなこと、どうでもいいでしょ。でも、帰りのバスで、支局長が、「しまった、そこも行きかった」って言ったから、行って見てきたぼくらは、何だか分からないけれど、ちょっとした浮揚感につつまれた。これって、(チョンマゲ)ミジンコ・ザビエルと同じ病気かな。そうじゃないよね。

スッポニアは博物館ではなく、遊園地へ行きたいと言い出す。

「おいおい、そんなものがこの街にあるのかよ」

と、ぼくが問う。

スッポニアがいうところでは、

「北の斜面に、長いスロープのすべり台があるな。(山腹の斜面を利用してコースが作られてある)ジェットコースターがあるな。オバケヤシキもあったりするな」

ということだそうだ。

なるほど、そのようなものに興味をもつシナモンをつれたグループにも楽しんでもらおうということらしい。遊園地へ向かう道を案内しているうち、パンフレットに、その遊園地が閉園中であることを、ぼくは見出す。やった!

「スッポニア。ざぁーんねんでした。遊園地はお休みですよ」

スッポニアは街で自由行動をとることになる。どうやら,お腹がすいたらしく、

「ミズスマシとタガメの串揚げを食べにいくな。おなかすいたな」

と、食べることに関しては、自主性がたっぷりある。

つづく
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