パセリ星の古代文明の遺跡展
天国にいちばん近い町(4)

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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あれやこれやと困難をくぐりぬけ、ようやく、旅の中心的な目的である、パセリ星の古代文明の遺跡展が開催されている岩窟博物館へと、ぼくとヒイロカキアカが向かう。

入館料が高いのか安いのか、それは、見てから考えることにする。ただし、ヒイロカキアカはケイローパスを利用したので、ぼくより、ずうっと安い。永く生きていると、良いこともたくさんあるようだ。

この岩窟博物館は、幾つかの展示岩窟を、狭い通路でつないだ、いわば、アリの巣形状をしている。一つ一つの岩窟に展示されている塑像やレリーフを象徴する色が決められており、看板が立ててあって、それぞれを構成している岩石の名前が示されている。また、これらの展示物のタイトルや、解説文も書かれている。

ぼくは、これらのメモをとっておいた。これを元にして説明してゆくことにしよう。

 

第一岩窟。

[名]エデン

[色]ファイアーレッド

[岩]珪化凝灰岩

通路から展示物を眺める。岩窟の空間は広く、天井はセノビシナモン4匹分ほどもある。奥行きも広い。一つ一つが、巨大なパノラマだ。

ここにはムシ型シナモンの群像があった。まだシナモン化していないかもしれない。前シナモンもしくは擬似シナモンとも呼ばれているやつらの姿だ。

古代の海底らしい。

サンヨウチュウ型メスシナモンの腹部触覚に、笑いながら触手を伸ばして触ろうとする、小さなサンヨウチュウ型オスシナモンの塑像が目についた。そいつは、チョンマゲ状の突起を頭部に突っ立てている。まさか、あれが、あれでもないだろうに。

 

第2岩窟。

[名]進化

[色]スカイブルー

[岩]フリント

宇宙ステーション型にフリント石で削った骨を、真上に投げ上げる原始サル型シナモンの群集。空中で回転を続けている骨もある。ワイヤーやピアノ線でつるしている様子もない。磁気を利用しているのだろうか。それとも、超伝導の現象か。あるいは、重力を制御しているとでも?

解説文が載せられてあった。[解]の記号をつけて、メモをうつしておく。

[解]投げあげた骨は

   やがて宇宙を駆けめぐる

   進化のワープ

 

第3岩窟。

[名]惑星間戦争

[色]アクアグリーン

[岩]翡翠輝石

ここには、右端の岩場の陰で、聖なる手帳を広げて祈る、サカナ型両性変換シナモンの坐像がある。両膝をついて、両腕を真上に伸ばしている。口は丸く、コイのようにあけられている。胸から背中にかけて、銃創のような穴が開いている。銃によるものかレーザーによるものかは、よく分からない。聖なる手帳には、短い線で構成されてた、文字のようなものが、タイルのように配置されている。原始的な言語のようだ。顔には鱗から発達した甲冑のような接合線が見える。指先のつめは、細く、丸くなってとがっている。岩場の向かい側には、ナイフを手にした、ヒト状シナモンが、腰をかがめて、そおっと近づいている。このあとの惨劇が暗示されるように、看板には、こう書かれている。

[解]死を恐れるくせに

   命をかけ

   何のために

   争いあうのか

   シナモンたちよ

 

第4岩窟。

[名]キメラ大王の凱旋

[色]ゴールド

[岩]透緑閃石タルク片岩

古代ラー王朝の、体はヒトで頭がイヌの、ごちゃ混ぜになったシナモンの像が、行列の先頭に、一段と大きく掘られているが、身体サイズの比率を見ると、これは、実際は小さかったはずのシナモンを、大きくデフォルメして構成したものらしい。脚も手も短かすぎる。これが、本当に巨人だったとしたら、これでは自重で歩けなくなっているはずである。あきらかに、これがキメラ大王らしい。

やや小さめの塑像の列が続く。これが戦士たち。そして、それより小さく掘られた、捕虜たちの塑像がレリーフ状になって、続いている。捕虜であることは、両手を縛られていることから分かる。それらの中に、一匹だけ、少し背がぬきんでいる捕虜がいることに気がついた。コクジン型シナモンのように見える。胸が厚く、腕も太い。

[解]われらがキメラ大王に栄光あれ

   われらがキメラ大王がもたらす富に栄光あれ

   われらがキメラ大王の領土に栄光あれ

   われらがキメラ大王に栄光あれ栄光あれ

 

休憩所があったので、ヒイロカキアカとぼくは、少し休むことにした。岩壁に小さな穴があけられてあって、そこに、他の岩窟博物館で開かれている展示の案内書が置かれてあった。どうやら、自由にとってよいらしい。ヒイロカキアカは、もう、ほとんど集め終わっている。

「そんなもの、どうするのですか」

と聞いてみたところ

「石を掘るときの参考にするのや」

とヒイロカキアカは言う。なるほど、経験が豊富なシナモンは、ちょっと違う。こんなところでも、仕事のことを考えている。ぼくも一枚ずつ持ち帰ることにした。

 

第5岩窟。

[名]あなたもチキンでやせましょう

[色]ブロンド

[岩]ウラル石斑レイ岩

下半身が潜水夫のような巨大なものでありながら、上半身がスリムなヒト型メスシナモンであり、チキンの骨をつかんで、焼いたチキンの肉をかじっている。

上半身だけを見ると、かなり美しく見える。白い帯状の下着を身につけている。かなりきわどい。想像力を刺激する。これがコマーシャリズムというものか。

あるいは、これは変態中のさなぎと成虫のことをモチーフにしたものなのだろうか。

 [解]チキンおいしい

    おいしいチキン

    チキン食べたい

    食べたいチキン

    チキンちょうだい

    ちょうだいな、そのチキン

 

第6岩窟。

[名]踊るアリス

[色]チョコレート

[岩]リソイド岩

これは、何枚かのレリーフがパノラマ状にならべてあった。これらの一つずつについて、順に語ってゆこう。

@いま――レディのアリス 画面中央に踊るアリス(ネコ型シナモン)の姿。大きくU字形に開いた胸元や、肘までの袖口や、ワイヤーで膨らませたスカートの裾などにフリルのついた、ピンクのドレスを着て、同色のトウシューズを履き、片足で体を支えつつ、もう片足の爪先を伸ばして、少し地面から持ち上げている。腕は水平と垂直を片手ずつで示しつつ、手首から先をさらに直角に曲げている。折れたプロペラのようなポーズだ。視線は虚空をとらえるように、瞳を中央にやや寄せ、片目だけ上目づかい。何かを見ているようで、実は何も見ていないといった感じ。

Aほんの少し過去――恐竜のアリス ティラノザウルスの顔がアリスのように見える。しかし、踊っているのか、単に歩いているだけなのかは、はっきりしない。恐竜の視線は虚空をとらえている。手前の大地が崖だ。遠景に原野。川と湖の向こうには火山の噴火が見える。

Bほんの少し未来――ロボットのアリス 金色のボディで、チューブ状の手足をもって、3体そろって同じアリスの顔をして踊っているロボット。

Cもう少し過去――ヒドラの体をもちゾウリムシの顔をもつアリス 顕微鏡で見た世界の中で、ホシミドロに付着して通りすがりのゾウリムシを捕えようとしているヒドラの断面図という設定で、手足をくねらせて踊っているポーズを象らせている。もちろん、顔の役目をしているゾウリムシはアリスにそっくりだ。 

Dもう少し未来――スターチャイルドのアリス 宇宙空間にアリス似の赤ん坊のような幻が浮かんでいる。右上にオレンジ色の惑星があり、この下に、その惑星より大きな赤ん坊。ただし、背景の星星が透けて見えるほど、かすかなものであり、後頭部から背中にかけての部分は完全に消えている。オレンジ色の惑星からの反射光が赤ん坊の顔や胸を照らしていて、まったくの幻ではないことを暗示している。 

Eはるかな過去――生まれたばかりの星雲のアリス 宇宙空間の中に生まれた、渦巻き星雲と球状星雲が、アリスの二重まぶたの目と、エクボが左右からはさみこむ口に見えるもの。よけいなものをすべて取り去って記号化された顔である。 

Fはるかな未来――膨張した宇宙に広がる星雲のアリス アリスの目と口に見えていた渦巻き星雲と球状星雲が、遠く離れてしまったところ。もうアリスには似てもいない。小さく描かれた星雲の形が、それぞれ、一つ前の画面の記号化された図に似ているだけである。

Gふたたび いま えいえんの いま――ネズミ型シナモンのアリス ネズミの耳をかたどった帽子をかぶって、尻尾をつけたネズミ型シナモンのダンサーとして踊るアリス。なぜネコ型シナモンのアリスがネズミ型シナモンを演じているのだろうか。

 

第7岩窟。

[名]ダダダ

[色]シアン

[岩]頁岩、大理石

岩にくっついているのは、トイレの便器。これだけは大理石らしい。白くてつるつるしている。他にも、大き目の空き缶のフタが開かれたところ。意外なのは、ちっぽけなヒト型シナモンの形状をした人形が、いま発掘したばかりといわんばかりに、地面に置かれている。どうぞ、持ち上げてくださいと、書いてあったので、人形を持ち上げると、突然

「ママァ、ママァ」

と鳴いた。あやうく落としそうになるところだった。

 

第8岩窟。

[名]増えすぎたゴミムシ

[色]チョークホワイト

[岩]チョーク

地面に群がるゴミムシ型シナモンを、かなり大きな白髪のヤギ型シナモンが運転する、4輪ホイールローダーで、かき集めようとしている。逃げ惑うゴミムシ型シナモンの群集。ローダーのバケットからこぼれそうになっているゴミムシには頭上突起がある。こいつの背中を押して、落とそうとしようとしているゴミムシがいる。地面に横たわっているゴミムシは、水をすったのか、いくらか膨張している。ローダーの前を、カニ歩きで逃げているゴミムシもいる。

 

突然ヒイロカキアカのケータイにスッポニアから連絡が入り、ヒイロカキアカは博物館の職員に外へ出るようにと追い出される。

再度スッポニアはヒイロカキアカとぼくに同行することになる。

「アメンボウの入ったスコーンも食べたな」

と、スッポニアはヒイロカキアカに言っていた。

「わしの分はないのか」

とヒイロカキアカが聞く。

「もうないな、みんな食べたな、おいしかったな」

とスッポニアが言う。

 

第9岩窟。

[名]サムライ騎士

[色]コーヒーブラウン

[岩]鉄電気石花崗岩質ペグマタイト

巨大な立像が槍をもって立ちすくんでいる。体は甲冑で包み、背中には旗を何本もさしている。顔には鉄製の仮面。頭には、光輝のような発熱用の棘状突起を何本も伸ばしている。オーラのようにも見える。全体がまるで、体に合わせた曲率をもった、黒い箱に入れられているような立像である。そいつの前方直下には、小さなシナモンが、こちらは白銀色の甲冑に身をかため、右手に刀を振りかざして、視線を上に向けている。首から上はむき出しで、長く伸びた頭髪を一つにまとめている。よく見ると、そいつの前頭葉がへこんでいる。そこには何も詰まっていないようだ。それでも、この刀だけで戦おうというのだろうか。そんな無茶な。

 

第10岩窟。

[名]シーザー

[色]ベンガラ(弁柄)色

[岩]ラテライト(紅土(こうど))

 先頭はコーネリアスによく似たエイプ型のシナモン。背格好がそっくりだ。何かに向かって進もうとしている。それにしたがってゆこうとする、黒、焦茶、黄赤の、各色のエイプ型シナモンの大群。まるで、これは何かの蜂起だ。戦っている相手は、まったく

表現されていない。ただ、謎の言葉が看板に書かれてあるだけだ。

 [解]聖なる言葉「NO!」

 

第11岩窟。

[名]這い跡の化石

[色]ミッドナイトブルー

[岩]珪藻土

暗い水底(海かもしれない)で這いずりまわる斑紋状の外皮をもつシナモン。この形状を表現する言葉がない。水を吸って少し膨張している。下半身は、すでに溶けかかっており、骨が見えかかっている。左の胸が貫通しており、心臓がやられているはずだが、まだ動こうとしている。ひょっとすると、右側にも心臓を持っているのかもしれない。だが、苦しそうだ。

 

第12岩窟。

[名]鬼母神

[色]カーボンブラック

[岩]六角柱状節理の玄武岩

巨大なコンチュウ型シナモンが、鎖につながれた状態で、卵を産み続けている。先に生んであったらしい卵から生まれでている、そいつは、8本の触手をもち、長い尾をもっている。そばには、そいつの抜け殻のようなものが転がっている。その近くにある繭の中から、目のない、オウムガイのような頭部をもった幼生が、いままさに、出ようとしている。そして、さらに、その奥に目をやると、何回か脱皮を繰り返して、幾分か大きくなった幼生をつかまえて、卵を産んでいたシナモンが、その幼生を食べようとしているのだ。それでは、このサイクルのどこで、エネルギーが再生産されているのだろうか。分からない。

「どう思います?」

と、ぼくはヒイロカキアカに聞いてみた。

 「分かりませんなぁ」

で、この第12岩窟の見学はおしまい。こんなところからは、さっさと離れてしまおう。

 

第13岩窟。

[名]無限の追憶

[色]ウルトラマリン

[岩]ラピスラズリ

メスのヒト型シナモンが、歩いていたり、横たわっていたり、鏡を見ていたりする。よく見ると、みんな同じ顔だ。体つきも同じ。それが何体も何体も、いま現れかけて、上半身しかなかったり、体の前半部分がラピスラズリの壁に溶け込もうとしていたり、無限といってよいほど、ある。一体だけオスのシナモンがいて、このメスシナモンを両手で抱えている。一体これは何なんだろうか。この岩窟の展示も、だんだんと難解になってくる。

「これは何なのでしょうか?」

と、ぼくはヒイロカキアカに聞いてみた。

「分かりませんがな、こんなもん」

と、冷たい。スッポニアは

「いっぱいやな。いっぱい、きれいなメスシナモンがいるな。ぼく好きやな」

と言う。

 「これは、ただの石だ。なめるなよ」

と、ぼくはスッポニアの首の前に手を出して制止する。

 

第14岩窟。

[名]レプリカ型シナモンの死

[色]オーロラ

[岩]オパル縞状流紋岩

巨大な四角い黒石の上に、うつ伏せで横たわり、石の一辺から片腕を伸ばして、他のシナモンを吊り下げている、レプリカ型シナモン。

今、まさに死ぬまえの、最後の力をふりしぼって、吊り下がっているシナモンを引き上げようとしているところだ。

その手にしか、命がつながっていないシナモンは、それまで、おのれの命をねらっていた相手だ。ここで手を離せば、決着がつく。レプリカ型シナモンが生き残って、他のシナモンは落ちて、砕けて、死んでしまう。だが、そうしたところで、レプリカ型シナモンの命は、あと数分しか続かないということを知っていた。

もう落とされるしかないと思っていたシナモンは、無理やり引き上げられて、最後はきちんと、自分の両手で、黒石の縁にしがみつき、ようやく、上面に上がってみると、レプリカ型シナモンは、力のすべてを出しつくして、ただ座り込んで、これだけのことを語り、そして、静かに目を閉じた。

[解]この短かな命

   記憶のしずくの濃さ

   深宇宙のガス星雲の輝き

   ドールとの甘いキス

   すべてはターメリックのフレア

   燃え上がっては

   やがて消える

 

この詩を読んで、ぼくは、とつぜん立ちすくんで、泣いてしまう。

なぜだか分からない。もう、もとにはもどらない。ヒイロカキアカが背中をさすってくれる。

 

第15岩窟。

[名]戦士たちの1000回忌

[色]ボーンホワイト

[岩]霞石閃長岩(ネフェリン・シーナイト)

ただの岩窟かと思ったら、壁に穴があって、そこに一つずつ、あらゆる型のシナモンの頭蓋骨が収められている。オウムガイ状のものもあれば、左右に広くとがっているもの、頭頂にむかってしだいに細くなり、まるでコーンのようにとがっているもの、もこもこと、大きなたんこぶが幾つもくっついているようなもの、ほんとうに色々だ。ぼくは自分の頭を触ってみた。ああ、これはまだここにある。だが、あと、どれくらいで、なくなってしまうのだろうか。

 「さあ、出ようか」

と、ヒイロカキアカが言って、ぼくを現実世界へと、引き戻してくれた。スッポニアは、まだ見たがっていた。

 「いろいろなのがあるな。ぼく好きやな」

と、こいつ、何でも好きになってしまう。幸せなやつだ。

つづく
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