エピローグコレクション
天国にいちばん近い町(7)

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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エピローグ1 ミジンコとオキアミに問題が発生し、ミジンコが保護観察処分になってしまう。二匹がつるんで遊びにいった外の世界で、モモイロザリガニ(メスシナモン)の腹部触覚に、カラカイ病のはずみで触れてしまったからだ。触覚というのだから、それで触って何かを感じるものなのだが、それはモモイロザリガニの立場から主張することで、ミジンコが触れてもよいというものではないのだ。その前にメスシナモンの同意がいる。それはなかったらしい。だから、ミジンコは逃げたのだが、ピョンピョンほとんどランダムにブラウン運動の軌跡で逃げ回っても、それほど遠くに逃げられるわけではない。外の世界の処方箋では、ミジンコは乾燥日干し処分になるはずだったのだが、あの町のミジンコだということで、保護観察処分でゆるしておこうということになったという。おそらく、乾燥してキンギョシナモンの餌にしても、あまりおいしくないと判断されたのだろう。

 

エピローグ2 不参加者へのオミヤゲの配布を、オパールとクレオパトラとキャッツアイに頼んだ。不参加者の中には、コリアンダーの努力を暗に否定してきたシナモンたちがいるからだ。たとえば、ミジンコやオキアミ、あるいは、ジタン・プランクネットら。コリアンダーは、それらのことを詳しく知っているが、オパールらは知らない。もし、やつらに何か言われたら、それだけで、コリアンダーは、おみやげを投げつけてしまいそうだったからだ。

 

エピローグ3 ムーンストーンによる費用の集計と、分担配分についてのジタン・プランクネットのヨコヤリ。

当初全体費用の1/eを共同体で支払うことになっていたのだが、ジタンが割合ではなく、シナモン一匹あたりの支出上限を突然決めて、それを示唆してきたのだという。新しい作戦のようだ。それで計算してみると、1/eより少なくなって、回りまわって、参加者の個人負担が大きくなってしまう。旅行に行ったシナモンが損をするということにしたいらしい。まだまだ、問題は続いてゆくのだった。

やがてムーンストーンが、新春親睦旅行の戦いにおいて、すごい戦果をもたらす。

ムーンストーンは、巧みに旅行費用を計算して、それをキメラに見せ、はじめ、支局は費用全体の1引く1/e引く1/π(これで計算すると0.314)しか負担しないといっていたにもかかわらず、なんということか、費用全体の0.63(この数字はカントール集合(用語集を参照してほしい)のフラクタル次元(これは数学的な記述になるので、用語集での説明は略す)の値)を負担させてしまった。

それらの処理のまえに、ムーンストーンは費用計算のメモを、コリアンダーに見せて相談してきたが、個人負担金の額で、二種類の計算方法があるとムーンストーンがいう。なぜそのようなことになるかというと、キメラの発言やジタンの発言を、どのように解釈するかということで、つまり、釈明しようとしたとき、不正は何もありませんと言うための、正規の手続きをどのように定義するかというところで、差が生じるらしい。

コリアンダーは、ひとこと、

「低いほうだけでいい」

と、言う。

つまり、低いほうの額でまとめた羊皮紙(金額の決算などの正式な書類に用いている)と、高いほうの額でまとめたほうの羊皮紙の、2種類を用意しておいて、まず、低いほうだけを見せて、それでキメラが了承したら、それでよいし、難癖つけてきたら、そのときに、こういうものもありますと、高いほうの羊皮紙を見せればよい、という指示をコリアンダーは出したのである。

ムーンストーンは、さらにひと工夫して、個人負担の額をさらに低くしたものを見せて、了承してもらったという。

「(支局長は)支局の支払額を見て、うんうんと言って、それから、バス代が安かったなって、言われただけでした」

と、報告口調のムーンストーン。

「すごい。大戦果だ。おてがらだよ、ムーンストーン」

と言ったりして、幾つかジョークを連発して、サンストーンとあわせて、3匹で笑い飛ばした。

 

エピローグ4 初日の昼食を、一匹で支局長がとっていたとき、ケータイで連絡をとったのは、フキヤ・ヒイロカキアカとキャメル・ブラックボックスとムーンストーンだけではなかったということ。

もう一匹、(当然のことながら、不参加者は)休日となっているので町に居残っているブラックタフに、支店長はケータイを入れているのだ。

日ごろから支局長は、ブラックタフのことを、あからさまに

「オマエはよけいなことを言うから嫌いだ」

と言いはなって、卑下しているにもかかわらず。こんなときにケータイがつながるのは、ブラックタフだけだったとは。

その内容は、休日だというのに、翌日でも翌々日でもよいような仕事についての指示だったという。

 

エピローク5 旅行翌日の朝礼における支局長の訓令。

支局長はどういうわけか、この旅に満足している様子で、街で見たことを楽しそうに語ってゆく。コリアンダーに謝辞の言葉をかける。

コリアンダーは

「えっ? どっ、どうも」

と、言葉少なめに応じるが、このときのやりとりで、周囲に笑いの輪が広がる。

赤水を飲みながら昼食を3時までとっていた支局長は、タヌキドキアでの大切なところは、一つしか見ていないのに、その一つだけで全部見たかのような演説を語ってしまう。これはこれで見事だ。

みんなに相手にされなくて、一匹だけになったというのに、このように満足してくれるなんて、とコリアンダーも苦笑いしながら聞いている。

「これが支局長のはまり役なのだ」

とも、心の中でつぶやきながら。

 

エピローグ6 注文された碑文のレリーフを説明するための、絵文字の顔を、石に彫りこむ仕事をやっているコリアンダー。

見ると、その石の顔は、ブラックタフやコーネリアスのものによく似ていた。ミジンコやスッポニアの顔もある。隣には、巨大なキメラサウルスのレリーフが横たえてあった。キメラサウルスは、多くのユーレイサウルスに攻撃されて、身もだえている。あと少しで倒れるという瞬間だ。レリーフの作者の斬新なデザインが、きっと、多くのシナモンの、多様な数の目を引くことだろう。

この町がかつて天国にいちばん近いところにあったということを、遠い世界のシナモンたちにも知ってもらいたいという願いをこめて、コリアンダーはもくもくとハンマーを振りおろす。砕け散った石のかけらが、コリアンダーがはめている、保護用ゴーグルにあたって、どこかへと飛びさってゆく。

つづく
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