ミジンコとスッポニア

黒月樹人 (KULOTSUKI Kinohito)

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 ブラックタフの言うことを、こんな調子で書いていったら、次のエピソードに移るまでに、ヤマカガシが3回くらい脱皮してしまうだろう。聞いたことを、簡単にまとめておくと、このようになる。

 登場するシナモンは、ミジンコとスッポニアだ。ミジンコの簡易フルネームはミジンコ・ザビエルといい、スッポニアのほうはスッポニア・スッポンという。本来は夜行性だったらしい。だから、夜に餌を求めて徘徊する性質がある。ただし、それは遺伝子上での形質で、バチルス・サチルス・シナモンの世界の文化の中で暮らしているうちに、餌とユーラを同一視してしまい、ユーラの匂いをたどって、あちこちの箱の中や、その周囲とか、下の隙間などをチェックするのだと、これは、ミジンコが言いふらしていたという。それでは、ミジンコはどこで見ていたのかという謎が生じる。ミジンコは夜行性じゃない。明らかに昼行性で、日向ぼっこが大好きときている。ミジンコとスッポニアは、タラゴン体の発達段階がよく似ている。ところが、ミジンコは、そのように、ひとつにまとめられることが嫌いで、スッポニアのことをはるか下に置こうと、あらんかぎりの罵詈雑言(ばりぞうごん)で、シナモン格を否定し、そんな下位から比較したら、ミジンコがどれだけ浮きあがって見えるかということを強調したいらしい。しかし、どのような理由か分からないのだが、スッポニアはミジンコのことが嫌いかと聞くと、嫌いではないなと答えるし、ミジンコのことが好きかと聞くと、好きやなと答える。何と言う慈悲深さかというと、そのような観点にたてるほど、スッポニアはミジンコより、タラゴンマインドが成熟しているというわけでもない。このあたりも大きな謎である。謎は幾らでもあって深まるばかりだが、ミジンコがカラカイ病だという根拠は、ほんのわずかしか異ならない差異を、あたかも、節足動物と脊椎動物が異なるかのように、過大に評価して、脚の数が多いほうが優れているとか、体が透き通っているほうが高貴であるとか、なんら根拠のないことで、自らの自尊心を満足させるというところにあるようで、カラカイ病の定義リストの項目によると、自尊心(というミーム)が太りすぎるのだということらしい。ミームが太るのか。うーん。想像しにくい。他にも、あてはまる定義がある。とにかくミジンコは動きまわるのだ。クッサクロボット相手に採掘作業をこなしながら、クッサクロボットの動きの隙をとらえては、定位置を離れ、必要以上の用具を回収しにいったり、谷底めがけて、カワラケ状の平らな石を投げに行ったりする。それから、聞き手がいようがいまいが、何か思いついたことでおもしろいことがあると、クッサクロボットだけでなく、石や道具にまで語り始める。そんなに話したかったら、近くで作業しているスッポニアがいるだろうと思うのだが、そいつのことは忘れてしまっているらしい。もちろんミジンコは幸せだと感じている。何度も同じ話をして笑えるらしいし、スッポニアをさげすめばさげすむほど、浮遊感とか高揚感を感じられるのだという。

 簡単じゃなかった。思い出すだけで、エネルギーがたっぷりいる。

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