ドロシーのブラックジョーク

黒月樹人 (KULOTSUKI Kinohito)

「天国にいちばん近い町のリスト」へ戻る
ドロシーのブラックジョーク

黒月樹人 (KINOHITO KULOTSUKI, treeman9621.com)

コーネリアスが、あんまりまじめだったし、すっかりしょげていたので、ぼくは、宝石磨きの材料となる石ころを箱に入れて、ドロシーのところに運ぶ用事があったので、そのとき、ドロシーに聞いてみた。

「ドロシーは、この町でうまれたの?」

「いいや。外の世界さねぇ」

「どこ?」

「カン? カンサ? もう忘れちまったねぇ」

「じゃあ、どうして、この町に来たの?」

「タツマキに乗ってきたねぇ」

「乗りもののことじゃなくて、理由のことだよ」

「だから、飛ばされてきたんだから、理由なんてないねぇ」

「でも、この町に永くいるんだろ?」

「何百年になるかねぇ。これも忘れちまったねぇ」

「色々なこと、聞いたり、見たりしてきただろ?」

「まあ、そうだねぇ」

「じゃあ、教えてほしいんだけれど」

「何かいねぇ」

「コーネリアスが、言ってたんだけれど、この町が天国にいちばん近いって」

「天国? あたしゃ、地獄の閻魔さまのことしか知らないねぇ」

「天国でも、地獄でもいいけど、どこにあるの?」

「行ったことないから、知らないねぇ」

「まあ、それはいいよ。問題は、この町がいちばん近いって言われているわけさ」

「わけかい?」

「わけさ」

「わけなんて、わからないねぇ」

そう言って、ドロシーは背中についているネジをまくような動作をした。ドロシーの両腕は、かんたんに背中に回るのだ。

「メスのシナモンの体って、柔らかいんだね」

「体は、まだメスのまんまだねぇ」

「体は、って、そしたら、心とかの中身は何なのさ」

「中身かい? 中身はもう、半分メスで、半分オスになっちまったねぇ」

「ははっ、それって、もしかして、ホトケっていうやつ? ホトケって、両性具有のガラムマサラ体だって、どこかに書いてあったよ」

「外見はシナモンでも、中身はだんだんホトケになってゆくんだねぇ」

「もうすぐ、ぜんぶホトケになるんだ」

「そうかもしれないねぇ。ああ、ホトケでなんだか分かりかけてきたよ」

「何が?」

「わけさねぇ」

「わけって?」

「さっき言ってたろ? 天国がなんとか、かんとか? かんとか、なんとか?」

「この町が天国にいちばん近いっていうやつ?」

「おそらく、そうだねぇ、この町が、このあたりでいちばん寒いってことは知ってるねぇ」

「もちろん」

「だったら、お年寄りは、冬になったら、眠るように、あっちへゆけるじゃないのかねぇ」

「それが、どうかしたの?」

「それに、お迎えがくるまで、この町じゃあ、やることが色々とあるし、寝たきりになる心配もないし、あたしのように、芸があれば、ユーラだって稼げるじゃないか」

「だから?」

「だから、天国にいちばん近い町っていわれてるんじゃないのかねぇ」

「ああ、そうか、そうかもしれない」

「そうかもしれないねぇ」

「ありがとう。ドロシー」

ドロシーのところから戻ってきたぼくは、コーネリアスに、このことを告げてみた。ところが、コーネリアスは首を斜めに傾けたものの(この動作が何を意味するのか分からない)、何も言わずに、仕事に戻っていった。ブラックタフが

「そういうのは、ブラックジョークって言うんだぜ」

と教えてくれる。

コーネリアス 他の惑星からやってきたエイプ型シナモン。博士号を取得している。言語学者。正確には思考言語学者。この町が天国にいちばん近いという噂を信じて、この町に流れてきた。

ドロシー・マジョラム 宝石磨きのベテラン。メスの老シナモン。タツマキに乗って、この町にやってきた。魔法を少し使う。数百年生きてきたといっているが、すでに記憶中枢がやられているので、この数字はあやしい。ほんとうは千年を越えているかもしれない。

ブラックタフ(黒色凝灰岩) この町生まれのコクジン型シナモン。ガイコクジン型シナモンとも呼ばれるが、この意味はよくわからない。一度は外の世界に出たが、色々なことがあって、うまくいかなくなり、ユーレイ(ユーラナシ)になって、この町に戻ってきた。外の世界では、色々な仕事についたが、その一つは、イグアナの調教士というもの。イグアナとテレパシーで意思を伝えることができる。現在、ユーウツ病なので、正規の処方箋でクスリを手に入れて、ハイになっている。イザナミ支局の共同体副議長。

両性具有

 コリアンダーが「ホトケは両性具有のガラムマサラ体」だと、どこかに書いてあったといっているが、この原書が何か分からないのでしかたがないが、これは間違っていそうである。

そもそも、ガラムマサラ体になっているのに、どうして、シナモン体に固有の性器を、それもメス型性器とオス型性器の、両方をもつ必要があるのだろうか。ガラムマサラ体が、どのように、子孫を増やすのかということは、まだ、よく分からないが、卵生や胎生のような、厳しい環境に対応したものであるはずがない。どちらかというと、ヒドラやプラナリアの出芽や、ゾウリムシなどの分裂のような様式のほうが、よっぽど、ありそうである。あるいは、突然、空間に、スタートレックでの転送のような方法で、子孫が出現するという、全身コピーのようなシステムかもしれない。

 このようなわけであるから、コリアンダーがもうすこし本を読んでいて、厳密にものごとを考えられ、それに基づいて発言するシナモンであるとしたら、このように言うのがよいだろう。

 「ホトケは両性超越のガラムマサラ体」

であると。


「天国にいちばん近い町のリスト」へ戻る