カラカイ病

黒月樹人 (KULOTSUKI Kinohito)

 ミジンコが典型的なカラカイ病であり、その症状例については、本文に詳しく書いておいた。一方、ブラックタフは典型的なユーウツ病である。これらの症状は、まったく逆の様相をもっている。

 ところで、これらのカラカイ病とユーウツ病を、時系列的に、ふらふらと変化する病もある。ユーウツ病になったり、カラカイ病になったりするのである。同時にはならないらしい。ユーウツカラカイ病とか、カラカイユーウツ病と呼ばれることもあるが、これらの名称の一部を組み合わせて、多くはユーカラ病と呼ばれる。

初期の発病においては、どちらが先にきても、かなり激しいものになる恐れがある。だが、それらの危機を何度か乗り越えてゆくと、ユーウツ病といっても、周囲のシナモンと、ほとんど同じような活動をこなしているし、何も問題があるようには見えない。

ところが、何かのスイッチが入って、カラカイ病のほうに変わってしまうと、世界に対する見方が変わってしまうらしく、恋人がいようがいまいが、恋をしたときのような、生きて活動することのすべてに喜びを感ずるという、うらやましい気分になるそうで、基礎的な諸能力が発達しているという条件のもとで、何か創造的な遊びを始めたくなって、何かしら、これまではありえなかったようなものを生み出すことがあるという。そういえば、これまでのシナモン社会を発展させてきた、何匹かのシナモンの行動パターンに着目すると、このユーカラ病であった可能性が高いことが分かる。

 このように考えてみると、何度かユーカラ病を繰り返して、ユーカラ病における、かるいカラカイ期にある患者こそが、数は少ないものの、シナモンの文化を暗にささえているのではないかとも思える。シナモンの文化に潜んでいるミームの観点からすると、それらは、よく進化した媒体であり、ユーカラ病における、ユーウツ期の患者や、それとほぼ同じ症状の、大部分のシナモンというものは、ミームの進化にとって、何も役立っていない、ただの余剰生産をつかさどるシナモンということになる。アリの世界の、ハタラキアリと同じようなものである。ユーカラ病における、ユーウツ期の患者は、この時期を耐えれば、また、本当の生に目覚めることが出来るということを知っている。しかし、一度もユーカラ病になったことのないシナモンは、この目覚めのことを、まったく知らないのであるから、ミームの観点から言えば、ただのムユウシナモンなのである。

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黒月樹人(treeman9621.com)「天国にいちばん近い町」より