ホトケ

黒月樹人 (KULOTSUKI Kinohito)

ホトケは樹木に宿るのであろうか。あるいは、樹木に化身するのだろうか。あるいは、青銅やブロンズや鉄や金や真鍮に化身するのだろうか。一つ忘れている。ホトケは石や岩にも化身するのだろうか。

いまや十一面観音の化身像は、強固な監獄のような建物の中に閉じ込められている。おそらくは、そのような境界なぞ、やすやすと通り抜けてしまわれる、本来のホトケが、そのようなところを住処としているはずがない。明らかに抜け殻のような樹木殻を見るため、ユーラと時間をもてあましたシナモンが、あちらこちらの領域のコロニーなどからやってくる。

立木に彫られた観音は、秘仏扱いされ、周囲を覆われ、シナモンから目のとどかないところに、安置されているという。もし、その木が生きていたら、そんな彫り跡は、樹液を固めて、単なるかさぶた状のこぶに変えてしまっているはずだ。そのようなものを見せては、ありがたみがなくなるというのだろうか。

ある資料館に、観音菩薩の応現身(おうげしん)のことが説明されてあった。その化身の種類は33通りあって、それは、天、空、地界に各11神あって、合計して三界33神なのだそうだ。このあたりの数字の組み立て方の根拠が分からない。化学における元素の周期表の数字のほうが、はるかに説得力が高い。さて、この、観音菩薩の33身の内容であるが、仏身から始まって、執金剛身までのリストの中には、帝釈身、長者身、婆羅門(ばらもん)身、比丘尼(びくに)身、童男身、童女身、龍身、夜叉身、阿修羅(あしゅら)身、などなど、まあ、なんでもあり状態だが、これだけ変身してもらえば、キャラクターには困らない。すでに使い古されて死語になっているものもある。ここにはあげなかったもので、なかなか言葉の響きがよいものとして、迦楼羅(かるら)身というものがある。これは、龍(蛇)を喰らう金翅鳥なのだそうで、鳥頭人身の姿で描かれるという。これはカッコイ。そう思うのは、ぼくだけではないらしく、すでに、タイ王国やインドネシア共和国の国章として用いられている。

観音菩薩は、ヒト型シナモンに化身するだけでなく、ほとんど怪獣のような存在にまで変身するらしい。だが、樹木や石や、その他の金属類などには、どうやら化身したがらないようである。そんなものに、手をあわせて、(いまのぼくなら、まさにそうなのだが)汗水たらして稼いだユーラを投げ捨てるなんて、これはきっと、タラゴンマインドの病の一種にちがいない。シナモンのみなさん、少し狂ってきているのではありませんか。

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黒月樹人(treeman9621.com)「天国にいちばん近い町」より