ガラムマサラ体

黒月樹人 (KULOTSUKI Kinohito)

 この小説では、見えない体のことを、これまでとは異なる用語で語っている。見えている体である肉体のことを、実は、シナモン体と名づけることにしてある。シナモンとは、読んでいて、おおよその概念がつかめてきているだろうが、おおよそ、SF小説などの用語での、ヒューマノイドや、レプリカントや、エイリアンなどを、すべて言い表す言葉である。手や脚の数には、こだわっていない。尻尾のあるなし、とか、モヒカンベルトを持っているとか、触角やチョンマゲのあるなしも、すべて、問題なし。

 シナモン体を肉体に対応させたのは、シナモンの漢語訳が「肉桂」であったからかな。まあ、これもジョークの一種なのである。シナモンの響きが「死ぬべきもの」という言葉に近かったこともある。死ぬことを、忘れていても、いずれは、考えなければならない存在として、この名前は、まさに、ふさわしいものと考えたのだ。

 このあとにつづく、高次元複体とも統一してよばれる、各種の見えない体については、伝統的な呼び名があった。しかし、ある集団が、みずからの存在を誇示するために、法を犯し、シナモンたちの命を奪ったとき、これらの伝統的な呼び名に、汚れた(イメージや)意味をつけてしまった。こうして、これらの伝統的な呼び名は、死語と化したのである。

 だが、見えない体は、けっして死んではいない。それらは、注意深く生きながら観察してゆけば、たしかに、ある、ということが分かってくる。これらのことを説明しようとしたり、小説のなかで取り上げたりするには、それらをきちんと区別する用語が必要になってくる。そこで、せんえつではあるものの、これらの小説で新たに定義して使ってゆこうと考えたのである。

 これらの見えない体のことを、この星の、この文明では、どのように調べられてきたかということを、文献で調べたが、それらの体のことを感じていないシナモンが書いているものは、いっこうに前に進んでゆかない。「生気」の一言だけで、すませている。

 まだ、あまり汚されていない言葉で、これらの、見えない体のことを、体系的にまとめているのが、ルドルフ・シュタイナーである。シュタイナーの「神秘学概論」によると、肉体を「@物質体」と呼んで、このあとにつづく、見えない体が6種類あって、つごう7種類の体から、「人間」は成っているそうである。順次高次になってゆく、これらの7種類の体の名前を、次に書き出し、ぼくが小説の中で言い換える言葉を、それらの下に、カタカナ(と漢字の、体)で添えておこう。

 @物質体(シナモン体)、A生命体あるいはエーテル体(パプリカ体)、Bアストラル体(タラゴン体)、C自我(ガラムマサラ体)、D霊我(ローリエ体)、E生命霊(ガーリック体)、F霊人(オールスパイス体)

 霊我からの3体については、あまり、ぴんとこない。このような体が意識できるような現象に、まだ、お目にかかっていないからだろう。チベットで伝わってきた知識にくわしい、ソギャル・リンポチェの本の中には、肉体より高次の体として、「法身」「報身」「化身」の用語が見られるが、これらが、シュタイナーの体系の、何に対応しているのかは、まだ、よく分からない。これらは、「死の瞬間」にかかわるときの、ふしぎな現象を説明するための用語らしい。ぼくが分かったとしても、はたして、それを伝えられるかどうか。いちおう努力はしてみるつもりだが、そのまえにやらなければならないことが、まだまだ、いっぱいある。まずは、次の用語の解説をしなくては。

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黒月樹人(treeman9621.com)「天国にいちばん近い町」より