フラクタル次元

黒月樹人 (KULOTSUKI Kinohito)

ぼくが若かったころ、次元はどうして、1次元、2次元、3次元、4次元と、一つずつ増えていかなければならないのかと、疑問に思っていたことがある。やがて、大学で数学の講師と親しくなり、その疑問を話したことがあるが、その講師は、自然数での次元ではなく、そのような、実数での次元をどのようにして定義するのか、と反論してきた。ぼくは、そこで沈黙してしまう。しかし、そのとき、この話題をまじめにとらえ、なんとかして、そのような次元を工夫できないかと考えていれば、離散集合や、微小な凹凸をもつ集合の次元(フラクタル次元)を、この世界で初めて定義することができたかもしれないのに。そうすれば、その講師も、さっさと教授になれただろうし、羽が生えて、世界中を飛び回ることができたに違いない。

 フラクタル次元が定義されるとき、フラクタルな構造をもつものが、普通のものとは、少し違うぞということに、気づく必要があったのである。そのことを、この世界でさいしょに気づいたのは、ベンワー・B・マンデンブロだった。彼の名を世界的に有名にした(今でもぼくの本棚にある)著書「フラクタル幾何学」の日本語版を、手に入れたとき、ぼくは、しまった、やられた、と思った。ぼくが、純粋な数学から離れてゆく、きっかけになった本だった。

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黒月樹人(treeman9621.com)「天国にいちばん近い町」より