黒月樹人闘病記(m11)漫才台本/魔法使い(マ)と娘編「くびれ」

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito 本名◇田中 毅 @黒月解析研究所)

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 はじめに

 これは、いちおう、漫才台本の中に入れておきますが、漫才で、これを演じるのは、無理かと思われます。
 これはもう、シュールな演劇として、マニアックな客のために演じるほかありません。
 あるいは、ラジオドラマ、ですかねぇ。

 くびれ

娘 (前回はカマキリにされちゃった。きっと、魔法使いのおじさん、だなんて、気やすく呼んじゃったから、からかわれたんだわ。あたしって、ひとつかしこくなったかしら)
 魔法使いさま。
 偉大な、偉大な、魔法使いのおじ…(いけない。また、おじさん、て、言うところだった)いえ、魔法使いのおじょうずなテクニックで、どうか、あたしの願いを聞き届けてくださいませんでしょうか。かしこ(よっしゃ、これで決まったはず)

(マ) おおっ〜、あの、ずん胴で短足の、かわいい小判がおの、ピチピチ娘ではないか。
 この偉大な、全知全能の、魔法使いのマスター資格を、通信教育だけで、いわば、独力で勝ち取ったわしにとって、できないことは何もない。
 たとえば、冥王星と海王星の、太陽からの位置関係を逆転させることだってできる…

娘  それはもう、20世紀末に、そうなっています。

(マ) だからじゃな。そいつはわしが、気晴らしのひとつとして、やったことだと言っておるのだ。

娘 分かりました。じゅ〜ぶんに分かりました。
 あなたさまが全知全能の大天使であり、かつ、上級魔法使いマスター資格を独力でかちとられたことは、この地球を始め、チベットのゾクチェンの言い伝えにあるように、十三の太陽系で広く知られていることです。

(マ) ところで、どのような願いかな?
 なんでも好きなように申し述べてみるがよい。
 おお、それと、もっと近こう寄れ。
 何十億年も生きてきた歳のせいか、近頃ちょっと、ヒューマノイドたちの声が聞き取りにくくなっとる。

娘 (老人性難聴ってやつね。人間、おっと、これは自己中心的な呼称なので禁句だった。そうそう、6本脚の知性体(腕も数えると8本という種族もいたっけ)との区別をめいりょうにするため、効率の悪い、生まれたころ、しりもちばかりついて、お尻が異常にふくらんでしまう、2本脚で歩行する知性体のことは、ヒューマノイドと言うんだった。あたしって、ずいぶん賢くなったものね)あのぅ…(下を向く)

(マ) それで、いったいぜんたい、部分集合の補集合との和をとって、すべての領域において、大いなる高次元ソウルの、下部第3次元での、制限された断片の、そなたの願いは、いったいぜんたい、部分集合の…

娘 ストップ! そんなことまた言い出したら、循環論法になってしまって、無限ループにはまり込み、機能停止になってしまいますから…

(マ) おお、そうじゃった。
 わしのあたまの中の、生体コンピュータメモリーに、どうやらウィルスが潜んでいるようじゃ。
 そもそも、ウィルスという用語には、いろいろな意味があって…

娘 もういいです。
 言います。
 よく聞いておくんなまし、いや、おくれなまぞし、だったかしら。
 ええい、標準語で言います。
 今回のあたしのお願いというのは、あつかましくも、2つの構成要素から成っております。
 (あれっ? うつっちゃった。あたしって、こんな哲学的なことば、どこでしいれてきたのかしら… そうそう…)
 魔法使いさまに対する、あたしのお願いのひとつめは…

(マ) ひとつめは?

娘 ウェストにくびれがほしいってことです。

(マ) 何を申しておる。
 そのふくよかな胸、ええっと、おっぱいとか言うのだったな。
 その授乳器官と、まんまるで、よく拡がった、プリンと上に突き出した、臀部の座布団状脂肪堆積ゾーンがあれば、その間隙集合の、上下変数軸に対する、積分被膜の、その、でっぱらと呼ぶものも、じゅうぶんな凹みを形成しておるではないか。

娘 駄目なんです。
 これじゃあ、かわいいピンクのワンピースが、うまく入らないの。
 こないだ、三井のアウトレットパークで安売りしていた、ピンクベースの、ナチュラルバイオレットカラーの、水玉模様のついた、ノースリーブのワンピースが、まだ着られなくって、しまってあるのです。
 なんとかしてほしいわ。

(マ) それは順序があべこべじゃ。
 そもそも、元来水棲動物であった、水辺で暮らす、ほぼ両棲類の生活形式を周到しておった、特殊なサルから進化した、そなたたちが、生活拠点を乾燥した陸地へと、再び戻って来たとき、たまたま氷河期がおとずれ…
 ああ、あれも、わしがプランニングしたものでな、もっと前にやってしまった、スノーボールアースでは、地球全体をすっぽり雪と氷で覆ってしまい、ずいぶんと、生物種たちに、淘汰圧をかけすぎ、進化のエンジンをフルにギアチェンジしてしまった。
 このことにかんがみ、今度は地球の両極にのみ雪と氷を集め、赤道付近には、比較的おだやかなところを残したってわけだ。
 どうだ。うまいアイディアだろう。
 前から思っていたのだが、わしは天使界魔法使い地区の、隠れた(次元のことなる世界からは、そう見える)天才かもしれん…

娘 あの〜ぅ、2つ目の願いのことを言ってもかまいませんか。

(マ) おお、そうじゃった。
 そもそも1の次に2がくるというアルゴリズムを思いつき、無限大の自然数という体系を生み出したのは、もちろん、わしであり、あれは、今からさかのぼること、百五十億年前の、まだ、光のボルテックスや、いくつもいくつも生まれてしまって、押すな押すなのクォークたちの、ある種のカースト制について、思案しておってのう…

娘 いいかげんにしてください!
  ちっとも、前に進みません!

(マ) 分かった。
  少し、うんちくを減らすことにしよう。
  それで?

娘 あたしの2つ目のお願いは
  もっと脚を長くしてほしいってことです。

(マ) じゅうぶん長いではないか。
  地球型ヒューマノイドの6頭身に、うまく適合しておる。
  それで何か不満でも?

娘 ダメなんです。
  8頭身か9頭身、せめて7頭身くらいにはなってみたいの。
  このまえ、小顔になったら、それの上下長で全身の高さを割ったら、そうなるかと思ったんですが、カマキリじゃあ〜ねえ。
 夢も希望もありません。

(マ) どうして、そのような整数比の、離散集合の、6と7と8と9にこだわるのか、わしにはよく分からん。

娘 いいんです。
  だから、もっとおなかがくびれて、脚が長くなったら
 こんなあたしでも
 ミスインターナショナルの世界大会
 おっと、このときの世界というのは、地球に限定されているのですが、
 せめて、その日本大会に参加できないかと思って…
  あたしって、欲張りかしら。

(マ) いやいや、そんなことはない。
  夢や希望をもつことはよいことじゃ。
  そのような夢や希望のマスコンシャスっと、分からんか、つまり
 上位の意識の集合体たちにとって
 それこそが、進化の原動力になるのだからな…

娘 あの〜う、よく分からないのですが…

(マ) よいよい。
  くびれがつよくあって
 脚が、どうせ、細くて長くなりたいんじゃろが。

娘 そのとおり!

(マ) それなら、まさに、ぴったりの魔法がある。
  そいつを、そなたに、かけてしんぜよう。
  もちろん、無料じゃ。
  この魔法はまだベータ版で
 うまく効果をもつか、くわしく調べなければならんところじゃからのう。
  ちょうどよかった。

娘 あたしがテスト台?
  モルモットみたいな?

(マ) いや、モルモットではない。
  分類体系では、大きく離れておる。

娘 はいはい、なんとでもしてください。
  こうなりゃ、インシュリンでも、モルヒネでも、自由に打ちやがれってんだ。
 (あれ、あたしって、江戸っ子だったかしら)

(マ) 失礼な!
  化学療法は人間が生み出したものだ。
  わしは魔法使いだぞ。
  わしがエーテル界で思い描いたマスタープランが
 この物質界における、そなたたちの変化を加速するのじゃ。
  それこそが魔法というものだ。

娘 うんちくはひかえるって、このまえ、言ったばかりでしょ。
  で、その魔法をかけると、あたしはどうなるの?

(マ) まず、目はぱっちりと大きくなってな。

娘 どうせ複眼なんでしょ。

(マ) よく分かったな。
  でも、こんどは、脳みそも、それなりにあってな、
 あたまがぺしゃんこではなく、
 ペンジュラム曲線によく似た、
 ゆたかな丸みをもって、ふくらんでおる。
  美形じゃぞ。

娘 すてき!
  それで?

(マ) 首と胴のところが
 タコ糸でしぼったみたいに、くびれてのう。

娘 いい、いい、うまく進んでる。

(マ) 中脚と後脚で、木や花につかまり…

娘 また〜あぁ?
  脚は2本、手も2本とはならないの?

(マ) そうはいかん。
  この魔法は…

娘 セットになっている。

(マ) そうじゃ。
  もちろん、手は2本で、こんどは、カマはついとらん。
  これらの脚も手も、みな細くて長く
 とくに脚は特別に長く
 そのモデルの名称の由来にもなっておる。

娘 何だろう?
  続けてぇ

(マ) そして、見事にかたちの良い腹部があって
 黒と黄色の横じま模様じゃ。

娘 いいか、どうせドレスで隠すんだし…

(マ) その腹部の先から
 複雑なさやで構成された針があって…

娘 いいです!
  もう分かりま・し・た!

(マ) おおっ、分かったか。
  して、その呼称は?

娘 ア・シ・ナ・ガ・バ・チ、なんでしょ。
  カマキリより、少しは、ましね。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, September 18, 2016)

 

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